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ナイトメア・シンドローム  作者: Riviy
三章 愛してました、地獄まで
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第三十九ノ夢 『色欲』がしきりに愛を願って


管理者は、足元の水面が歪むのを靴越しに感じながら戦い始める和夜達とリーラを見つめていた。干渉するわけでもなく、ただ観戦していた。だが、いつか自分があそこに自ら干渉しなければならないことも知っている。だって、初めに神の仮領域であるこの場に内側からヒビを入れたのはなにを隠そうリーラなのだから。化け物の出現はリーラのせいであって、彼のせいではない。被害者であり加害者。戦う彼らを横目に管理者は手元にある、古びた本を開く。その本には()()()『色欲』が記載されていた。


『リーラ・トイズ・ローズという男性は、()()()()()()幸福な人生を送っていた。美人の母と、学者肌で地元の教師として活躍する父を両親に持ち、二人の良いところだけを受け継いで生まれた。()()()()()だけが救いだった。母は衰えぬ美貌を武器に若い男達にのめり込み、父は教師であることを利用し自分の存在意義として教鞭を振るいながら数々の者を貶めた。両親は彼を見ていなかった。彼一人に金を工面させ、貪った。


彼は一人だった。


周りの誰もが美人で頭の良い彼を助け、気に掛けた。食事を与え、勉強を教え、金を与え、愛情を注いだ。彼は両親以外から愛されていた。しかし、彼には分かっていた。彼らでさえ自分のことを見ていないと。可哀想な子供を救う自分しか見えていない、と知っていた。だって、瞳に書いてあるのだから。「可哀想な子供を救う自分達は素晴らしい」と。だからこそ、彼は偽善を利用した。自らが求める欲を満たすために、本当に欲しかったものを見つけるために。自分の美貌を母のように利用し、父譲りの頭脳を使い、全てを手中に納めてしまった彼をある人物が救った。旅人で、彼が住む町に休養で訪れた小柄な女性だった。名をローズと言った。彼と似た色合いを持ちながらも、正反対の庇護欲を誘う愛らしい表情と柔らかい雰囲気に誰もが男女問わず惹かれ、仲良くなりたいと願った。けれど、彼女は誰にもなびかず、適切にあしらった。理由は、彼と一目で恋に落ちてしまったから。彼も彼女に一目で恋に落ちてしまった。二人は目と目が合った瞬間に稲妻に打たれた。嗚呼、貴方こそが運命の人だと分かったのだ。彼は自分が知らない感情の欲をどうすれば良いのか、わからなかった。分からないことを彼女に告げれば、彼女は優しく彼に教えてくれた。「それは人を愛すること」だと、「貴方は私を愛していて、私も貴方を愛している」と。幼少期から親に見捨てられ、偽善の愛を捧げられた彼にとって彼女が最初の恋で愛、正真正銘の本当の信じられる感情だった。彼は彼女を大切にしようとした。彼女も彼を大切にしようとした。しかし、二人の幸せを周囲は許さなかった。


彼の両親が彼女を目の敵にするようになったのだ。彼らは彼の容姿を利用し周囲の人々から金をせびっていた。彼を担保に生活をし始めるようなクズだったのだ。もちろん、偽善であろうとも周囲の人々は彼の両親に反抗。彼らを押さえきれないと踏んだ彼の両親は、無関係で無情にも自らの子供を害そうとした。両親にとって彼は金を工面する道具でしかなかったのだ。金を工面しない道具などいらない、と。親の愛情はもはや偽善でさえもなかった。殺されかけた彼を彼女が救った。致死量の毒を盛られた彼女はなんとか峠を越えたものの、毒が原因で病に臥せってしまった。彼と、結果的に彼女を害そうとし害してしまった両親はこれまでの件を鑑みて捕縛され、処刑が決まった。処刑と云ってもディセローナ公国の処刑は火炙りが極刑であった。つまり、彼の両親は生きながら焼かれ、痛みと苦しみを感じながら死に行くことが決定したということ。

だが、彼の両親は処刑前日、何者かによって母は毒殺され、父は銃殺された。両親が殺される直前、牢屋には暴れた形跡もなく見張り番は殺されず気絶させられただけであったため、標的は両親であり顔見知りの犯行と思われた。しかし、彼の両親の死の真相を誰も深く知ろうとはしなかったために犯人は分からず仕舞いで終わった。それもそのはず、誰もが両親殺害事件を気にさえしなかった。事件の少し前、彼女は治療の甲斐なく眠るように息を引き取ってしまったのだから。彼は彼女を失い、泣き崩れていた。泣き崩れた彼を誰もが慰めた。


「しょうがない」「よく持った方だ」「あの子は君に看取られて幸せだった」


誰がそんなことを決めた?誰が、彼女とオレの心情を理解するふりをした?


嗚呼、彼は失ってしまった。一番愛していた彼女を。与えられた欲、求めていたソレは、彼女からの『色欲』で。彼は彼女を失い狂ってしまった。歪な『色欲』に囚われてしまった。蜜を求める美しい蝶のように、彼女だけを追い求める。彼女は眠っているだけで生きている、彼女が簡単に死ぬはずはない、彼女はオレとずっと一緒にいると言ってくれた、誓ってくれた、愛してくれた。彼女は今もなお、此処に、オレと共にいる。誰にも触れられないように、誰の目にも見えぬように、自分だけの棺に閉じ込めて。彼女の名前を自分に刻み付けて、認めているようで認めていない幽霊のように変化して。彼女に愛を囁けば、彼女も愛を返してくれる。嗚呼、だから、彼女はずっと一緒にいる。ただ眠っているだけで。彼女は彼の不幸という呪いを一心に受けてくれた、愛してくれた。嗚呼、だから、だから、だからだからだからだからだからだからだからーーだから、彼はーーリーラ・トイズ・ローズは彼女のためと自分のために罪を犯し続ける。彼女ーーローズに与えられた色と云う欲を……『色欲』を求めて。それが悪神・『色欲』を使役するはめになった男の末路である。』


文章にして連ねられた言葉に管理者は「哀れ」と口癖のように呟きそうになり、口を閉ざした。恐らく、化け物も毒もリーラの仕業で間違いない。最初の化け物、『怠惰』が消えた頃も化け物の出現が報告されていた。つまり、その頃から仮領域に干渉していることになる。『怠惰』の時は彼で成果を試そうとしたのかそれとも本当に全員殺すために、一種の箱庭のような図書室に放ったのだろう。しかしそこには『嫉妬(和夜)』 がいた。狂った計画。本に書いてある通り、リーラが頭脳明晰であるならば計画を邪魔した『嫉妬』を殺す算段を考える可能性はある。だが、そこに和夜がいるということを知ることはできない。()()()()()のだから。


「……知りたかったのでしょう」


管理者の口から納得の呟きが漏れる。計画の邪魔をした和夜と明石をどうにかして知ろうとしたからこそ、リーラは次なる標的として決裂を選んだ。なら、どうやってリーラはあんなにも何種類もの能力を操っているのか。自らを死に至らしめ、彼女を危険にさらして殺した(能力)を何故使うのか疑問だった。リーラはただ、彼女ローズを取り戻したいがために決裂を生もうとし、失敗したならばそれを成功に変えた。いや、違う?


「……毒は盛れないのに盛れた。そこから考えられるのはただひとつ」


勝手に料理が人数分いる人数に合わせて用意されることをリーラは知らなかった。なのにどうして毒を?その答えに、()()()()()()()に気付き、管理者は本を開いたまま、開いたページを顔に押し付けた。古臭い、腐っているとは違う、枯れ葉のような匂いと暖かな珈琲のような匂いが混ざり、管理者の鼻腔を擽る。知らないことを知る方法は何処にもない。『怠惰』と『強欲』の件を知ることが出来るのは限られる。片方を知っていて片方を知らないなんて、計画は穴だらけと言っているようなもので、リーラらしくない。管理者の考えは、やはり正解だった。


「……気づいているんでしょうね」


きっと。

戦いを繰り広げる彼らを本越しに見る。リーラは銃とナイフを巧みに操り、明石を牽制し和夜とフジ、三人での接戦を繰り広げている。恐らく銃はサポートでナイフが本来の武器だろう。銃は弾数が限られる。近接武器相手では分が悪すぎる。無限に弾が手元に存在するなら別だが。そして、和夜と明石は気づいている。リーラが毒もしくは化け物を利用しないことを。その異変に気づけば、リーラの能力に違和感を持つ。だが、そこから答えに辿り着くかと言われれば謎だ。管理者は本から顔を上げ、小さくため息をつきながらパタンッと本を閉じる。神の仮領域に内部から干渉し、殺し合い(ルール)を破った処罰をしなければならない。そのために化け物に追い回されながらも彼らと合流するまで漕ぎ着けたのだから。管理者は何処か悲しげな、哀愁を漂わせた表情をすると本を胸に片手で抱いた。処罰をするのは初めてではない。でも、心が痛まないわけではない。何度も、そう、何度殺っていようとも慣れない感覚は管理者の精神を蝕んでいく。


「……断罪には断罪を返すだなんて、皮肉ですねぇ。それがーー」


この空間での掟であり唯一無二のルール。殺し合いによって奪い合え、その命を。散らせ、その要らない尊き命と悪神の執念という、彼らの感情を。

管理者は干渉したリーラを断罪することを決めた。心臓を鷲掴みにされたような、ズキズキとした痛みを抱えながら管理者は戦いを()()()()()で見つめていた。

ウチが考える愛に飢えている子って愛し方を知らないんじゃないかなぁ、と。そんな『色欲』さんたちです。

次回は来週!

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