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ナイトメア・シンドローム  作者: Riviy
三章 愛してました、地獄まで
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第三十三ノ夢 その深層理念って

怒涛の展開からの一件落着?に和夜はか細い息をついた。すると、隣でフジの体がグラリと揺れた。慌てて和夜はフジの腕を反射的に掴み、椅子に座らせる。どうやら、張っていた気が男性がいなくなったことで切れたらしい。黒いフードを両手で握りしめ、目深に被り直すフジに和夜は心配そうに声をかける。


「大丈夫か?」

「……ん……安心、しちゃって」

「ありがとう、明石、フジ」


和夜の礼に二人は嬉しそうにそれでいて何処か照れたように微笑んだ。フジはテーブルに置いていたコップを手に取り、中身である水を一気に飲み干す。喉を通っていく生温い感触がフジの気を安心させてくる。口元から垂れた水滴が頬を伝い、首筋に落ちてローブの中に消えていく。顔が見えないからこその妖しさがあるような気がして、和夜は目を逸らした。


「ところで、なんで貴方が此処に?食事というわけでもないだろう?」


アダムやラスのように撤退することもなく佇む管理者に和夜が疑問を漏らす。和夜が冤罪をかけられているという状況での登場。明らかにタイミングがよすぎる。前回は隠し扉が多数存在する部屋であったからこそ、偶然を信じることが出来たが、問題が発生している広間という場所を管理者が正確に見つけることなんて不可能だろう。全員が全員、時計や窓の外という時間帯を確認できるものがない以上、時間の概念は狂っているし失われている。今回はたまたま全員が居合わせたようだったが、和夜達が来た時には女性やアダムは食事を終わらせ、食後のティータイムもしくは出ていくタイミングを伺っているだけだった。それに和夜の確認不足かもしれないが、恐らく男性は食事を既に終えている。和夜達が来た時に見かけたテーブルに載った皿の数は五つ。つまり、男性が見えないところで食事もしくは和夜達が来た後に食事を済ませたことになる。となると、男性は毒を食していない可能性が高くなり、毒などが盛れない仕組みをしらなかったと云うことは日頃から広間を使用する回数が少ないと云うことになる。追い詰められていた枷が外れたせいか、和夜の脳がフル回転し、男性、もしくは便乗しようとした女性のメリットデメリットを探っていく。女性には殺し合いが出来るというメリットが存在するが、毒を使ってまで殺りたいのかと云われればアダムを見ていたので違うだろう。明らかに女性に関していえば毒はデメリットの可能性が高い。男性は和夜を嵌め、仲違いさせようとした可能性が高いが、成功率は低いしなにより広間の状況を知らなすぎてお粗末だ。辛うじて成功すれば、和夜が袋叩きに遭っていたかもしれないが。デメリットとしては自分も毒を摂取することだろうか。だが勝手に用意されるという前提がある以上、全てが水の泡。となるとやはり男性が犯人なのだろう。動機はやはり仲違いと殺し合いの進行。彼のミスは広間の前提と、管理者にも毒を盛らなかったことだろうか。そうすれば、和夜が無罪だという口添えをすることもなかった。アダムとラスに関しては共犯を誘われた一件から、なんとなく違う気がしていた。目指す先は似ていても、見ている未来は違う。心からの願いを望む彼が安易で危険な橋を渡るわけがない。そこまで考えるとやはり、管理者のタイミングはまるで誰かに呼び出されたような感じがするのだ。


「てかさーあの人、疑ったの謝らなかったよね?」

「謝って、ない……」

「色々此処が可笑しい時点で謝罪は諦めた」


ロイの件もラディアの件も、うん。和夜が遠い目をして項垂れれば、フジは「あー」と納得し、明石も「……ごめん」と小さく謝罪を投げる。明石のがなにに対しての謝罪か()()分からなかった和夜は、明石の肩を気にすんなという意味合いを込めて叩く。それに明石はちょっとだけ安心したように笑う。……なんとなく、分かっている気がする和夜は可笑しいのだろうか。

クスッと笑う声がしてその方向を見れば、管理者が口元を押さえて笑っていた。どうやら三人が微笑ましくて笑ってしまったらしい。まぁこんな殺伐とした現状だ。そう思って笑ってしまうのも無理はない。管理者は三人の視線ーー特に明石の尖った気配に笑みを消すと、ようやっと和夜の問いに答えてくれた。というよりもこちらが遮ってしまったのかもしれない。


「確かに食事をしに来たわけではありません。聞きたいことがありましたので」

「……それ、って……さっきの、例外?」


管理者の言葉にフジが問いかける。先程、男性に説明する際言っていた例外。()()に分類される異端な行為ーー毒を盛ったことだろうが、なんだかそれ以外にもあるような言い分だ。男性に聞きたいことはあったからこそ、あそこまでタイミングよく広間に現れたのだろう。


「例外?例外であれ、管理者キミが与える処罰もなにも変わらないでしょ?ぜーんぶ、神サマの手の内。ただ従うだけの管理者(お人形)


ケラケラと明石が管理者を憎らしげに皮肉に詰る。どうしてそこまで管理者を憎むのか、和夜は首を傾げかけ、管理者の肩が微かに震えていることに気づいた。それはまるで怒りを抑えているような、恐怖に耐えているような印象だった。事情を知らない者が見れば、明石が管理者をいじめているように捉えるだろう。まぁ言葉の羅列的には合っているが、実際のところは逆である。


「ーーええ、そうですね。私は恐らくそうでしょう。ですが、それがなんです?私はただ従うだけです。今までもこれからも……哀れな君たちを哀れみながら、死を願うしかないのです」


「……せめて、幸せあれ、と」小声で呟かれた管理者の言葉は誰にも聞こえなかった。ただただ、管理者が自分達を()()()哀れんでいることだけはわかった。神の側であるはずの管理者、やはりよく分からない人物だ。そう和夜は思い、明石を見る。と明石は面白くなさそうでいて……やっぱり可笑しそうに口元を三日月に歪めていた。


「ともあれ、私には『色欲』の……リーラ・トイズ・ローズに聞きたいことがあっただけです。では、失礼します」


怪訝そうな和夜とフジをそのままに管理者は頭を垂れると、広間を出て行った。三人しかいなくなった広間。三人だけになるとドッと疲れが襲ってきた。はぁ、と小さく和夜は息を吐く。すると彼を労るように明石が和夜の肩を少し背伸びをして叩く。


「……なんか、疲れたな」

「そうだね……部屋籠る?」

「休憩……」

「にするかぁ」


怒涛の展開後、一時休戦のちに休憩である。


……*……


休憩ということで生活区域でフジは和夜と明石と別れた。とぐろを巻く部屋に入った二人の背を愛おしさと憎しみーー愛憎を込めて見送り、さて自分も部屋にーー今にも飛び出してきそうなライオンが描かれた部屋に入ろうと歩き出す。フジが使っている部屋は和夜達の真っ正面に位置しているが、フジはそこに行くまで部屋が集中している空間を半周していくのが好きだった。この辺りは部屋が円を描くように集中しており、その中央には一本の太い柱が中心軸として存在している。その柱を半周してフジは部屋に向かう。


「……あれ?」


向かっている最中、フジは太い柱に立て掛けられた物を見つけた。結構大きいが、柱が太いため、先程別れた場所からは死角になって見えなかったらしい。天井のライトに反射して、()()はまるで月光のように輝いている。フジはなんとなく気になり、()()に近づいて見る。


「これ、って……」


太い柱に立て掛けられていたのは『色欲』の男性が抱えていた棺だった。()()の正体が棺であったことにフジは瞬時に周囲を見渡すが、あの男性がいると云うわけではないようで罠ではないらしい。どうしてこんなところに置いているのだろう?大切な者のはずなのに。大切な者を手放す事態でもあったのだろうか。そんな事態は此処では殺し合いくらいだが、フジは内心、男性をざまぁと嘲笑っていた。和夜に冤罪をかけ、勝手に悪者扱いしようとしていたのだ。自業自得だ、同情はしない。だが、彼に愛されていたこの者にはなんの罪もない。だって彼女は死んでいるんだから。フジは男性が和夜に行った所業に激しく憤慨しつつ、棺の中の人物を見る。少女と云っても良さそうな小柄な女性。棺にぴったりと収まるほどの小柄さは本当に女性かを疑ってしまうが、目を閉じた状態でも分かる色気は明らかに女性のものだ。ベビーピンク色の髪はショートでもみあげからはまるで触角のように異様に長い髪が垂れ、手を組んだ彼女の胸元を華やかに演出している。瞳は閉じられていてわかるはずもないが、彼女の左手の薬指には一粒のサファイアがあしらわれた指輪が燦然と煌めいている。恐らく、男性と結婚か婚約していたのだろう。肌も死人とは思えないほどに美しく決め細やかで、唇はリップを今まさに塗ったと言われても信じてしまいそうになるほど妖艶で瑞々しい。本当に死んでいるのか、なんてフジは失礼ながらに思ってしまった。


「……綺麗……」


指先を棺のガラスに滑らせる。まさに閉じ込められた妖精の如く繊細な女性。服は死人だからか黒い喪服を纏っているが、それさえも彼女の美しさを強調させている。まるで、


「……華姫様、みたい……」


ポツリとフジの口から漏れ出た単語も声色も、フジが思っている以上に愛情に溢れていた。

さて、ずっと此処にいては誰かに殺し合いを強要されかねない。それに棺があるということは男性が戻ってくる可能性もある。フジが棺から視線を外そうとした、その時ーー


「っ?!」


棺の中で、女性が笑った。しかも口角を上げて、まるで生きているかのように。瑞々しくも艶かしい唇がフジを捉えた。それはフジの恐怖が、もしくは女性の妖艶さが見せた幻覚だったかもしれない。だが、フジには幻覚に見えなかった。死人だと思っていた人物が生きている!


「っ……ぁ……カズ……カズ!!」


腹から声を上げてフジは逃げるように和夜と明石の自室へと駆け出した。背後を振り返ることもなく。だからこそ、気づかなかった。ガチャン!!とオーバーリアクションを取る扉の向こう側で()()が起きたことも、棺の女性が()()()()ことも。口角を三日月のように歪めた()()()()()()女性が組まれていた手を崩し、右手を振る。細かい佐生をする如く、愛しい人を呼ぶ如く。すると、棺の前に黒い闇が溢れる。それは泥のようでいて、沼の如く。そうしてその闇から、地獄から這い上がって来たのは異形な姿をした化け物の群れだった。化け物の群れは棺を囲むように這い上がり、棺を覆い隠していく。次の瞬間には棺は消え、棺という主人が消えた化け物は縦横無尽に、自由奔放に周囲に襲いかかった。それこそ、命を奪うために。

唐突にどんどん進む話と出てくる相手。どうなるのか!

次回は来週です!

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