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ナイトメア・シンドローム  作者: Riviy
二章 宝探し
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誰かがしたためた日記


地上では、すでに半年は経過しただろうか。此処にいると時間の感覚がなくなっていく。時を刻む道具もなければ、時を示す空の色もない。全てが遮断された空間で、どうやって時間を把握すればいいのだろう。此処では地上とは違う時間の流れが動いている。それに気づいたのは昨日のことにも思えて、ついさっきのようにも思える。此処は、一回眠ればその分、地上でいう二日分の時間が過ぎる。いや、約二日分だろうか。たまに明らかに可笑しい経過がある。経過状況を知ることが出来るのは、ずっと此処に閉じ込められているからだろうと思う。


半年前。儀式が始まった直後、神は世界に神託をもたらした。

()()()()()の命を我らに捧げよ。さすれば化け物を滅する力が我らに宿り、世界を平和へと導く』

と。

普通に考えれば、なにを今さらと思うのに世界の誰もが信じた。神が示す、()()姿()()()()()()()を多少の犠牲とした。神も世界も嘘だらけ……犠牲の上に成り立った平和、偽善なカミの言葉に踊らされているのは、誰でもない、自分だ。




『怠惰』と『強欲』が死んだ。実験にのめり込んだ男と、宝石を求めた少女。どちらもその半生は憐れみもあって、憎しみも宿す波乱万丈のもの。悪神を使役するはめになった者は例外なく、波乱万丈な半生を送る。まるでそれこそが代償だと云うように。ただただ被害者でもあるのに、まるで犯罪者だからしょうがないでしょう?と云うように。嗚呼、だからこそ、神聖な儀式に無理矢理駆り出され、死を持って自由を求める彼らが哀れでならない。……それを強要したのが、私であることさえも忘れて書くとは、大馬鹿でしかない。


悪神の『怠惰』は黒百合に宿っていた。もともとの持ち主は現『怠惰』の妻であり同僚のミーヴァという女性。彼女は、『怠惰』であるロイ・チェイサーの怠慢で死んだ。彼女はロイ・チェイサー同様、周囲に期待された科学者だった。それゆえ、ロイ・チェイサーという破格な人格者ーー実験にしか興味のない男を落としたという事実は彼女の有能さを引き立たせた。彼女がとても美人と云うわけではなかったが、ロイ・チェイサーと同じレベルの頭脳と知識、彼が求めた愛情があった。だからこそ、ロイ・チェイサーはミーヴァを愛した。ミーヴァもロイ・チェイサーを愛した。だからこそ、結婚式を行うよりも先に婚姻を結び、夫婦となった。そのことは()()からもよく伝わってくる。ならば、『怠惰』はもともとミーヴァだということになる。だが、彼女は『怠惰』の求める感情を持っていなかった。夫であるロイ・チェイサー以外には。無条件に彼を愛した。なにも知らぬ無垢な子供のように、無邪気に寄り添い、支え、彼の手足と影となった。それこそが彼女の怠慢。そしてその愛と実験に溺れた彼は自らの手で愛しい人を殺した。これを哀れと云わずになんと書こう。ロイ・チェイサーは研究所の任を解かれた後も実験を続けていたらしいが、世界の端に位置する国ーー彼の故郷にとっては邪魔でしかなかったらしい。それもそうか。不老不死にもっとも近かった研究者なのだから。だからか、あれほど彼女を通して親密になった同僚は彼がいなくなっても探すことはしなかった。何故かある意味冤罪を着せられた新人は声高に彼の行方不明を訴えていたが……国にとっては危ない実験の元責任者を野放しにしておくよりは神によって殺される(捧げられる)方がよほど良い……そういうことなのだろうか。


魂から、というのは記憶になくとも前世、さらには前々世から悪神を使役するはめになっているーー使役していることさえ忘れているということに他ならない。ラディア・エアルサガ・ヴィセル。これが哀れな王族の『強欲』を受け継いだ姫の名前だ。彼女は魂という珍しい……遡れば全然珍しくもない悪神の形。つまり、彼女自身が悪神であって被害者であって加害者。だからこそ、異様なこの中でまっとうというか不気味なほど欲望に忠実に見える。彼女は望まれない子供だった。存在を望まれなかった一方で、消えかかった夢を見させてあげようとした人々の安易な毒が彼女を『強欲』として覚醒させた。そして散々与えられたのち、王位継承争いに破れた兄達と父親の尻拭いのように、今まで与えられていたものを根こそぎ奪われ、制限された。そうすればどうなるか、唯一残っていた母親なら、世話役なら分かるだろうに。だから、虎視眈々と王位を狙っていた王弟に乗っ取られる。今まで与えられていた欲望を満たされなくなった彼女は暴走すると、何故誰も分からなかったか。ゆえに彼女は王弟に見つかった。ゆえに彼女は願望を否定された。そして、儀式に正真正銘の生け贄として放り込まれた。彼女は、その事実を理解しているのかいないのか、もはやどうでも良いと云わんばかりの口調がせめてもの救いか。誰にも愛されず、与えられたものにしか愛されなかった彼女には誰かを想う(宝石)が美しかったのだろう。




誰かが言っていた。罪深くも、愛すべき罪人達と。彼らは、罪深くないとは決して言えない。だが、誰もが望んだわけではない。所詮この世は神の盤上。遊びの延長でしかない。記される()()()も……私の唯一の懺悔の場。嗚呼、これがきっと()()()が欲しがったモノだろう。でもそれを私が完全に理解することは出来ないだろう。理解していれば、私が()()()を見ることは二度とない。けれど、二度以上、目にしている。それも多分定めでーー



「日記は続く。懺悔の言葉と皮肉な言葉を羅列の単語にしながら。文章とは到底言えない、罪を懺悔する、祈りの言葉。嗚呼、全て偽りだと、ウソだと嗤ったのは誰だったか。確か、()()()だった。けれど、()()()はもういない。()()()()でいなくなってしまったのだから。

ーーこの日記は、いや、これはもう一柱(ひとり)の宿り主で犠牲の物語」


次回は来週!この日記の語り部は誰なのか?そしてちょっと明かされていく宿り主の真実のお話。

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