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ナイトメア・シンドローム  作者: Riviy
二章 宝探し
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第二十七ノ夢 真の欲深きは

ラディアが自らの両脇に控える獣ーー狐二体を和夜達に向けて放つ。二色の瞳が狙うのはもちろんと言えば良いのか、和夜一人。それは強欲が示すからかそれとも他に理由があるからか。分かりっこない。和夜に接近する獣達にフジが一歩前に出ようとする。それをフジの肩を掴んで止め、和夜は自らの背後に滑り込ませると同時に明石が床を大きく蹴って飛び出す。ガァン!と巨大な音を立てて明石よりも一回りほど巨大な狐二体の鋭い爪が明石に襲い掛かる。しかしそれよりも早く明石が空中で身を捩り、二つの攻撃をかわせば、二体の間に着地し、目にも止まらぬ早さで足元を切りつける。体が大きい分、小回りが利かないらしく地団駄を踏むように狐が躍り狂う。それを見てラディアは予想通りと言わんばかりに口角を上げて笑う。明石に攻撃されても援軍を召喚しない(喚ばない)、つまりラディアは自分の勝利を確信しているということだ。まぁ、他に手がある可能性もあるが。


「……カズ……?」


明石と狐、そしてラディアを観察し素早く熟考していた和夜をフジの何処か冷淡な声が引き戻す。何故、飛び出させてくれなかった、と非難するような紋切り口調に和夜は苦笑しか返せない。フジは刀が慣れていないと言った。それはつまり、明石のように、自分のように立ち回ることが難しいということを意味する。いや、もしかすると抜刀しないだけで鈍器としての扱いに至っては『傲慢』という悪神の宿り主なため一級品なのかもしれないが。そもそもフジがモノか能力かも分からないので予想の仕様がない。だからこそ、和夜は数十秒でもラディアの様子を確認しておきたかった。


「フジ、悪いがラディアの相手してくれるか?」

「……なん、で?」

「ラディアは見る限り攻撃手段は召喚の獣。なら、援軍を呼ばれる前に彼女を制圧した方が勝率は高い」


和夜の説明にフジは納得しつつも首を傾げている。曖昧な反応に和夜は一瞬どうしたもんかと考え直しそうになりながら明石を振り返った。二体の獣相手に縦横無尽に飛び回り、攻撃しているが無数の椅子のせいで動きが微かに鈍い。一方、狐は椅子を蹴散らして動いているため一ヶ所に椅子が渋滞を起こし、それがまた明石の気配を読み取ることを妨げている。美しく繊細、神秘的な聖堂に響く引っ掻くような甲高い音に天使像が今にも顔をしかめて文句を言いそうだ。もっとも、文句を叫びたい気分なのはなにを隠そう明石なのだが。


「俺は明石の手助けをする。恐らくラディアは接近戦が得意じゃない。だから『暴食』といたり獣を侍らせていたりしたはず。此処までは良いか?」

「う、ん……」


チラリと明石を見れば、明石はラディアに見えないように親指を和夜に向けて立てて見せた。「あと少しならいける」声なき声が和夜の耳に届く。狐の一蹴りで山積みになった椅子へ明石が着地すれば、片方の狐が前足を叩きつける。それを間一髪で避け、その前足へ扇を振るっているがその隙に横から手柄の横取りをするようにもう一体が攻撃してくるものだから、明石は椅子の上を攻撃ではなく瞬時に移動に切り替えるしかできない。ラディアからは動かず作戦会議をする和夜とフジは影になって見えていないようだが、いつ気づくか分かったもんじゃない。


「貴方はさっき使い慣れていないと言っただろう?獣二体を相手取るのは危険だ。だから先にフジには術者を確保して欲しい。悪神であろうとも能力なら主人(宿り主)の危険に対応を変えるはず。まぁ、憶測だけど」


ゆっくりとフジに和夜が言えば、フジはギュッと刀を両手で握りしめながら和夜を覗き込んだ。


「……私、役、立つ?」


コテンと首を傾げるフジに和夜はまた違和感を感じたが、今は良いと無視した。フジの問いに和夜が力強く頷けば、フジはそれはそれは嬉しそうなオーラを出す。そうしてラディアの視界に入らないよう静かにそれでいて素早く動き出す。まるで忍のように椅子が積み重なった中を進んでいくフジを見送り、和夜は刀をもう一度構え直す。そうして、ようやっと自分を振り返った一体の狐ーー片方の狐と呼ぶーーに向かって駆け出した。前足を大きく掲げ、足元の椅子を薙ぎ払い、和夜に投げる。一気に目の前に迫る椅子に和夜はスピードを緩め、体を捻りかわす。そして、続いてやってきた椅子を頭上へ飛んでかわし、椅子に着地すると足場代わりにさらに高く跳躍する。高く跳躍した和夜を追い、片方の狐の目が天井を向き、ステンドグラスのまばゆい光がその目を突き刺す。光が片方の狐の動きを一瞬鈍らせる。それで和夜には十分だった。空中で蹴り上げ、気づかれる前に着地すると片方の狐の背後に回り込む。回り込むと無防備な足に刀を切りつけた。甲高い悲鳴が聖堂に反響し、殴打するような鈍い音も同時に響く。ズサッとバランスを崩した片方の狐が和夜の前に倒れ込めば、そのまま爪を振り回してくる。咄嗟に避けた和夜だったが、片腕ーー左腕に爪が一本かすったらしく痛みが走る。耐えられないほどの痛みではないが、和夜は倒れた椅子を蹴り上げ、片方の狐の上へ乗る。和夜の前に明石と戦っていたせいか動きは鈍い。なら躊躇は不要。和夜は刀を持ち直すと片方の狐の背に向けて突き刺した。ギャアだか、変な声が下から聞こえてきたがどうでも良かった。少しだけ大きい感じの片方の狐からさっさと飛び退けば、どこからともなく明石が落下してきその脳天に踵落としを食らわせ、一体討伐とする。


「和夜、大丈夫?」

「嗚呼。最初よりデカくないか?」


一体倒してもまだ一体いるし、フジがラディアをどうにかしなければ援軍は恐らく増える。もう一体の狐が仲間に上から明石を踏み潰そうとしてくる。一斉に二人で避け、和夜は残りを見上げる。明らかに最初にラディアの影から放たれた時よりも大きくなっている。最初は一回りほどの大きさで、無理すれば抱き抱えられるほどの可愛さがまだ残っていたが、すでにその面影は消えている。しかも椅子を蹴飛ばし潰すほどに巨大になっている。今じゃあ、聖堂の天井に耳と立った尻尾がぶつかりそうな勢いである。明石が一人で相手取っているのも苦労するほどの巨大さ。尋常じゃない。一体倒した辺りからまた大きくなったような気がする。


「うん、おっきくなってるよね。なんか最初に感じたオーラが違うもん」

「と、いうことは……さっきの壁の影みたいなものが?」


壁の狐、の影のような何か。あれがもしラディアの、『強欲』の力の一部としたら戦い慣れていないフジにラディアを捕らえるすべはない。いや、逆にこうは考えられないか?合体した、つまり吸収させた、と。


「力を与えた結果の巨大化……が正解か?」

「んー多分?『強欲』も感情の起伏の影響を受けるからねぇ。それか進化形態とかぁ?」

「……影から出てきたよな、あの獣」


その言葉に明石は和夜が言わんとしていることに気付き、うんと頷く。『怠惰』のシンボルマークは熊、ロイは黒百合。『強欲』はラディアの使役から推測するにシンボルマークは狐。そして明石の予想である魂からの使役。


「『怠惰ロイ』をもう一人の自分(ドッペルゲンガー)とするなら、『強欲ラディア』は影」

「うん。そう考えれば大きくなるのも頷けるかなっ!和夜、影取られないでね!」

「貴方もな!明石!」


互いに軽口を叩き合いながら二人は目の前で揺らめき、前足を持ち上げかけた狐の攻撃を左右に分かれて回避する。ズダンッ!と音がして床にヒビが入り、衝撃の強さを物語る。そのまま狐はグルリと刃物のように尖った爪を振り回し、逃げる二人を追い詰めようとして行く。だが、そんな狐の足元に明石が潜り込み、素早く移動する。足元にかかる風に狐が気を取られ、一瞬視線を下へ向けた隙に和夜は狐の死角に潜り込む。そうして積み重なった椅子を階段にして頭上へ飛び上がり、壁を一度蹴って高さを調整する。そして、頭上から刀を狐に向けて振り下ろした。しかし、それに気づいていたと言わんばかりに憎きふわふわの尻尾が和夜に振り回される。間一髪で吹き飛ばされるのを体を捻り防いだ和夜だったが、確実に狐の目が和夜をロックオンしてしまった。壁に一時着地し、和夜が顔を上げれば、視界いっぱいに黒と二色の瞳が映り込む。「ヤバッ」と慌てて壁を蹴り、重力に逆らわずに和夜が落下すれば、爪が頭上を通りすぎていく。間一髪、あと数秒あそこにいたら和夜は確実に死んでいた。その事実にヒヤリと冷や汗をかきながら和夜はクッション代わりになった椅子の瓦礫から退きつつ、明石と入れ違いになって足元へと侵入する。明石が入れ違いとなり、狐のクリクリとした目を狙って扇を振りかざそうと足に力を入れかけたその瞬間、明石は和夜の感情の揺らぎに気がついた。些細な、ほんの些細な波、小さな小さな山。それに気づいた明石は飛び出していた体を空中で捻り、方向転換すると狐の顔面を蹴り跳躍。スタッと和夜の真横にうまい具合に着地する。そして気づく。()()()()()()()()()()()()()()()()と、根底を覆すほどの貪欲なまでに執着した欲深き意思に。


「……マジか」

「ハハハハハッ!!アタシに、手に入れられないモノはないわ!だってぇ」


驚愕に沈む和夜の声と正反対の歓喜に満ちたラディアの声が交差し、反響し、絡み合う。二人の前ではラディアを捕らえようと意気揚々と出向いたはずのフジが彼女の前で跪くように片膝を立てて、肩を上下に動かしていた。その前には満足そうに笑うラディア。決定的敗北。その証拠に先程まで和夜と明石が相手をしていた狐がニタリと二色の目を三日月の形に歪めた。


「アタシこそが『()()』だもの」


次回は来週です!……明日、バレンタインですね!この作品で料理できる人……いない!

では来週!

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