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ナイトメア・シンドローム  作者: Riviy
二章 宝探し
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第二十五ノ夢 光指す聖堂は


管理者が連れてきたのは通路というか廊下染みた場所のある一角だった。暗くて分かりづらかったが、壁のど真ん中辺り、人一人通れるほどの大きさの線が四角形で刻まれていた。その線が扉を表していることに気づいたのは、管理者がランタンの光を揺らしながら壁を奥へ押したからだった。ギィと鈍い音が響いて壁半分が暗闇に消え、代わりに消えた壁半分のところに真っ暗闇が広がる。けれど、和夜達がいるところよりも真っ暗ではなく、遥か彼方の方に明かりがあるのかポツンとまるで一番星のように輝くなにかが遠目に見えた。隠し扉か、と和夜と明石が納得した様子で顔を見合わせていると管理者が彼自身の影になって見えなくなっていた壁に付属されたレバーを握りながら振り返った。


「この先を進めば、聖堂に辿り着きます。まっすぐ歩くだけですので迷うこともないかと」

「此処って本当に部屋なのか?」

「さあ、私が答える義理はありませんね」


和夜の些細な問いに管理者は肩を竦めて言う。どうせ答えてくれないと確信していた和夜はその答えに何処か満足そうに肩を竦めた。反対にフジはやはり管理者を嫌っているのかフードの下から殺気染みた視線を放っていた。


「掴んでるのってなに?」


管理者が手でレバー(なにか)を掴んでいると気配や微かな物音で把握した明石が首を傾げて問うと管理者は「嗚呼」と何処か調子抜けする声を上げて、レバーが見えるようにランタンを掲げて体をずらした。ランタンの光に照らされたレバーは古びており、上下に動かす仕様だった。今は下に下げられている状態だが、恐らく隠し扉の開閉用ではないだろう。


「聖堂の方の隠し扉はこちらで操作しないと開かない仕組みになってまして。君たちが行った後にでも引き上げておこうかと」

「何処に通じてるの?」

「長椅子の下です」


咄嗟に長椅子の下の部分から体を捻って出てくる場面を想像してしまい、和夜は顔を歪め明石は苦笑しフジは分からないらしく首を傾げた。出るのが結構きつくなりそうだな。三者三様の反応に管理者はクスクスと悪戯が成功した子供のように無邪気に笑うと「嘘です」とのたまった。此処に来てから管理者が分からないと和夜は一人思った。


「嘘ですよ。壁際から出ることが出来ます。聖堂の方も此処の隠し扉と同様な作りですが、先程言ったように開閉出来ない仕組みでして」


クスクスと笑う管理者を横目に和夜は一応感謝として頭を下げておく。さて問題はこの先だ。この際なので管理者が隠し通路の中に自分達を閉じ込めて餓死させるなどと言うことはしないであろうと仮定し、聖堂に辿り着いたとしてそこからどうやってラディアから逃げるか。彼女が聖堂を探り当てるもしくは探索している可能性はなきにしもあらずだ。もうそこは運に賭けるしかない。

「ではどうぞ」とまるで何処ぞの執事のようにランタンで隠し通路を示し、軽く頭を下げる管理者に和夜はアダムと共にいるラスを思い出した。管理者に促され、最初にフジが怪訝そうに管理者を睨み付けながら、そうして何処か怯えるようにして隠し通路に入っていく。そのあとに明石が意気揚々と進み、最期に和夜が進む。


「……どうぞ精々抗ってくださいね」


嫌味ったらしくけれど何処かやはり悲しそうに言う管理者の言葉が和夜の耳元を通り過ぎていった。もしかして管理者も。そう一瞬考えて、和夜は隠し扉を閉じながら管理者に言い放った。


「どうも」


ーーガシャン。まるでなにか大切なものを落としたかのような重い音が目の前で響く。途端に目の前も周囲も真っ暗闇に染まり、遥か彼方に見える聖堂の明かりであろうものしか道しるべはなくなる。微かに壁越しにガンッと鈍い音がしたので管理者はきちんと扉を開けたらしい。再びの暗闇に和夜が暫し目を慣れさせつつ、明石とフジの気配を探っていると、右袖を誰かにクイッと引っ張られた。


「明石か?」

「ボクはもっと先にいるよ和夜」

「じゃあフジか」


和夜の前方から明石の愉快げな声がまるで歌声のように響く。明石によって暗闇は日常茶飯事だ。だからこそ、ランタンの光がなくとも悠々自適に歩けるのだろう。大方スキップを刻みながら進んでいるのか、リズミカルな音も聞こえてくる。前方にいるのが明石だとすると袖を引っ張ったのはフジということになる。多分ここら辺だろうなという視線の位置を和夜が凝視するとか細い声が響く。


「暗闇、怖、く……て」

「さっきも結構暗闇だったが、それは良いのか?」

「明かり、あった……」


なるほど、フジは暗闇が駄目らしい。部屋に入った時は和夜に横抱きされてもいたし追いかけ回された疲れでそれどころでもなく、つい先程まではランタンの光があったために大丈夫だったようだ。だが途端に支えであった光がなくなったため不安になったらしい。なんというか、フジの年齢は分からないが年相応な気がして和夜の脳内で思い出が弾けた。ラディアを正論で叩き切った時とは違うフジに和夜は小さく笑う。


「わかったわかった。さっさと行こう」

「ん……」


震えるフジの手を誘導するようにして和夜は暗闇の中を歩き出した。先に扉近くまで行った明石がトントン♪と踵を使ってリズムを奏でて手招きしてくれている。隠し通路は扉が閉まったせいで結構暗いがそこまでではなさそうだ。ブルブルと震えるフジの手を引きながらゆっくりと光へと進んでいく。部屋のような通路が異様に長かったせいか、この隠し通路は短く感じる。暫しして光が目に刺さるほどの近さになり、ピョンピョンと飛ぶ明石に後光が指しているように見える。そろそろ大丈夫だろうと和夜はフジを振り返るとフジも大丈夫だと思ったのだろうがまだ少しだけ怖いらしく、袖を握っていた。それにかつての思い出が弾け、和夜は笑みを無意識のうちに漏らしていた。ようやっと到着した明石を和夜が振り返ると、明石の後光染みた光は扉の隙間から漏れているらしく、押せば開きそうだ。和夜は申し訳ないと思いながら扉を開けるためにフジから離れようとするが、フジの手は和夜の袖を掴んだまま離さない。


「扉開けるから離れてもらっても良いか?」


優しくフジに和夜が言うとフジは「嫌」と小さく呟き首を振った。だがこれでは力を入れて扉を押すことが出来ない。位置によってはフジに怪我をさせてしまうかもしれない。明らかに仲睦まじい二人に明石はニヤニヤとにやけつつも、納得行かない表情で笑う。


「和夜、モテモテだね~ 」

「だーかーら、茶化すな。扉、悪いが頼む」

「オッケー任せて!」


ケラケラと笑って明石は任せろ!と胸を張る。その姿が頼もしくて二人はフジを横目に笑い合えば、怖いながらも一応共犯者、結託しているのだから入れろとフジが和夜の袖を引っ張って抗議してくる。そんなフジを和夜は笑ってどうにかかわすと、フジもそれで良いらしくなにも言わなかった。そうこうしている間にも明石はちょっとだけ隙間の空いた扉に感覚で手を突っ込むとグググッとありったけの力を込めて押す。すると管理者の言う通り、レバーの上げ下げで開閉される仕組みのようで明石が力を込めて少し隙間を広げればあとは勝手に半分まで開いた。先に明石が顔を向こう側に出して気配を探り、大丈夫だと判断すると「よっ、と」と声を上げて聖堂だという向こう側へ消えていく。どうやら僅かな段差があるようで飛び越えたらしい。和夜はフジに段差のことを目線で知らせると背を押して先に行かせる。暗闇から光ある場所へ行くのは怖いと云うよりも嬉しいらしく、何処か弾んだ気持ちを見せながらフジが和夜の袖から手を離して光に消えていく。そして二人のあとを追って和夜も光の向こう側へと飛び出した。その先は、奇跡だった。


「わぁ……きれぇ」

「すごぉ……」

「……こんな場所あったんだな」


三人揃って感嘆の声しか出ないほど、その聖堂は神秘的でありこれこそ神の御業というべき代物ではないかと思ってしまうほど美しく奇跡だった。まぁ殺し合いをさせる神の残酷さが逆に聖堂を美しくしているのならば鼻で嗤うものだが。

何処から入っているのか分からない太陽のように温かく、月のように柔らかい光が差し込んでおり、その光が指し示すのは美しく繊細なステンドグラス。色とりどりのガラスで描かれたそれは幾数もの長椅子に座る信者達を優しく迎えいれるのだろう。壁はクリーム色で統一され、右の壁際には邪魔にならないようキチッと本やらその他諸々が整理されて置かれている。そしてステンドグラスの真ん前、つまり聖堂の中心部分には手を組み祈りを捧げる二対の翼を持つ女性の像が置かれている。この世界に神はいるが国ごとに信仰する神が違う。また此処は()()()の儀式の場。一柱のみを聖堂で祀るのは誰であろうと抵抗があるから、天使なのだろう。この際、悪魔でも変わらないと思ったのは心の何処かで神サマを信じていたからかもしれない。憎悪にも似た感情を抱えつつも感動を覚えた心情から帰ってくると和夜は周囲を警戒して見渡した。出入口は一つだけでその扉にもカーテンがかけられ中の様子が見えないようになっている。ラディアに見つかる心配は多少軽減される。それだけでホッとした。


「窓……綺麗……」

「ホント、すごいよね?!」


フジと明石が興奮した声色で言う。美しいステンドグラスは自然光を浴びて天使の像に神々しいエフェクトを降臨させる。此処にはやはり時計もなにもないが、自然光ーー恐らく自然光、だよな?ーーが入ってきているのを見るにもしかすると地下ではなく地上なのかもしれない。まぁそうだとしてもなんだという話だが。ステンドグラスの光が降り注ぐ場所でまるで舞うように両腕を広げて遊ぶ明石の髪が軌跡を描いて回る。そんな明石と、光が降り注ぐ場所に楽しそうに手を伸ばそうとしているフジを見ながら和夜は言う。


「とりあえず、ラディアに見つかる前に一旦移動し」

「みーつけたぁ♪」


心底嬉しそうな、悦に入っているような、恍惚とした声が光指す聖堂に無情にも響き渡った。

次回は来週です!

隠し系考えるの楽しいですが合ってる自信はない(笑)

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