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ナイトメア・シンドローム  作者: Riviy
二章 宝探し
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第二十四ノ夢 鬼ごっこの終着点は


フジと名乗った人物の名前は恐らく偽名だろう。その証拠にフジはフードを頑なに外そうとしなかった。それでもフジは少女で間違いはないだろう。和夜と明石が名を言えば何故か軽くキーの高い声が響いたため、ラディアと同い年くらいの少女だと予測できる。だからこそ、冤罪という悪に彼女の正義感が突き動かされたのだろう。その結果が全て良い方向に行くとは限らないが。


互いの名を言ったその時、部屋の奥から突然、ぼんやりとした明かりが現れた。ランタンを持っているのか、何処か星のように輝く光に彼らは咄嗟に身構え、体に緊張が走る。まさか、ラディアが違う出入口を見つけて入ってきたか?もしそうだとしたらこんな暗闇で戦うのは不利でしかないし危険だ。思わず和夜が刀の柄に手を掛ければ、光が徐々にこちらに近づいてくる。光に反射して暗闇でなにかが輝いた。


「なにをしているのですか?」

「この、声……」


光が灯される方向から響いた聞いたことのある声にフジが声を上げる。ラディアではない?警戒を示していると光が彼らの前にまでやってくる。そうしてランタンの光に照らされて姿を現したのはヴェールを纏った管理者だった。管理者の登場にラディアではないと安心したのも束の間、どうして此処に管理者がいるのかという疑問が浮上する。疑問が顔に出ていたのかランタンを先程和夜が探し当てたソファーベッドの傍らのローテーブルに置きながら言う。


「私は此処でよく休憩をしているんです。これで納得頂けます?」

「え、あ、嗚呼。でも何処から……」


入り口は和夜達の背後にある扉だけではないのか?と和夜が疑問と共に背後を一瞥して促せば、管理者はその質問の何が面白かったのかヴェールを揺らしてクスリと笑った。何故笑ったのか和夜には分からず首を傾げたが、何故か自分の代わりにフジが管理者に掴みかかろうとしていたため、大丈夫だと宥めた。


「この部屋にはいくつか仕掛けがありまして。その一つが廊下からこの部屋に直接入れる仕掛けでして、そこから入りました」


何処か楽しげに言う管理者に和夜はなるほどと頷く。いくつも仕掛けがあるとしたらそのうちの一つをラディアが発見でもしたら、仕掛けを全て把握していないため敵の手中に嵌まる可能性もある。


「でもさぁ和夜、ラディア(あの子)は分からないと思うけど」

「頭、足りない……」

「本人がいないからって言いたい放題だな貴方達」

「うん」

「ん」


クイッと和夜の着物の裾を引っ張って明石が彼の心配を一刀両断すれば、フジも同意見だと言う。本人がいないのを良いことに言いたい放題だな。まぁ確かに、冤罪をかけられたと思ったら手に入れるためにと追いかけられたのだから文句や愚痴が出るのは無理もない。和夜が複雑そうな表情を暗闇の中、晒せば本当になにが面白いのか再び管理者がヴェールを揺らして笑った。手で口元を押さえて小さく笑うものだから、もうどうでも良くなって和夜は肩を竦めた。フジは笑う管理者にご立腹らしく、フードの下から管理者を睨み付けつつ舌打ちをかます。隣から舌打ちが聞こえたことに明石は少し驚いたようでビクリと体を震わせていた。


「で、何故君たちは此処に?」


ようやく笑いを納めて管理者が問う。最初に会った時は頭が沸いてるんじゃないかと正気を疑ったりもしたが、管理者も此処にいるのはなにか理由があるのではないかと和夜は考えていた。ただの和夜の考えだし、明らかに神サマ側に間違いはないのだが、時たまに自分達へ向ける視線と声色が憐憫を帯びているのが気になっていた。ただの気のせいかもしれないが。だからだろうか。殺気を駄々漏れにして襲いかかってくる悪神の宿り主達よりもよほど安心出来るのは。


「ラディア……『強欲』に追いかけ回されてるんだ。フジが正論で論破したからか分からないがな」

「嗚呼、なるほど。それでこの部屋に逃げ隠れしていると」

「貴方は休憩しに来たんだったな。邪魔なら出て行くが」


和夜が退室を申し出ると管理者は「大丈夫です」と断りながらランタンを手に取った。その際、巫女のような管理者の姿が露になる。ほぼ真っ白な格好をしているがために光が反射して幽霊に見える。そんな管理者がおいでと手招く。手元も振り袖になっているため、管理者が手首を捻るたびにユラユラと天女の羽衣のように揺れ動く。


「此処で会ったのもなにかの縁でしょう。少しだけ手助けしましょう」

「管理者が誰かに肩入れするの、駄目なんじゃないの~?」


からかうように明石が笑って言うと管理者は明石を首を傾げて見る。その眼差しが何処か悲しみと愛情というか哀愁を漂わせていて和夜は眉にシワを刻んだ。一方そんな視線を持ちかけられた明石は分が悪いというかいけすかないというか、なんだがむず痒い気分になったらしくチシャ猫のようなニヤニヤとした笑みを引っ込め、顔を背けた。明石のそんな反応に管理者は先程の表情とは一転し、嗤った。


「私の勝手です。その勝手で誰が死のうと生き残ろうと私の知ったことではありません。君たちに命の自由はなく、殺し合いをするしかないのですから」


小馬鹿にするように鼻で笑う管理者に和夜が不機嫌そうに顔をしかめ、フジが管理者を睨み付ける。嗚呼、管理者ーー彼は本当に神サマ側なのだという実感がし、目の前に靄がかかったようだった。


「悪、趣味……」

「管理者ですので」


そう言って笑った管理者の口元は明らかな憐憫を抱き、揺れたヴェールの隙間から白装束とは正反対の真っ黒な色が見えた。まるで闇と光、相対する色はなにを示しているのか分かるはずもない。

和夜達は管理者の好意というかなんというかそれに甘えることにした。一応気づかれていないとは言え、ラディアは一瞬自分達に勘づいていた。つまり、場所もしくは空間を隅々まで探したあと、此処に戻ってくる可能性も低くはない。そうなるとラディアの裏をかく必要がある。だからこそ管理者の好意に甘える選択を取ったのだ。まさかラディアも管理者が多少とはいえ、干渉してくるとは考えにくい。明石とフジが言ったことを繰り返すわけではないが、ラディアは目の前のことに執着しすぎる傾向があり、恐らく頭はあまりよくない。冷静になれば脳の回転が早まるタイプかもしれないが、そこは本人にしか分からない。


ランタンを持つ管理者を先頭に部屋の中を歩く。結構広い部屋なのか、奥行きがまるで廊下のように長く、左右には装飾品なのか絵のない額縁や割れた彫刻、綿がはみ出たソファーなどが無造作に置かれている。その間には古びた扉のようなものが見える。もしかすると今自分達が使っている部屋や図書室、広間は殺し合いに際して新しくしたものなのかもしれない。そうすると此処は昔の面影が残る墓場なのだろう。まぁそれさえもただの推測でしかないのだが。


「そういえば、フジ。貴方の武器はなんだ?ラディアの件で一時的に、結託……と言うのか、している状況だし」

「ホントっ!?」


和夜の結託と謂う言葉が嬉しかったのか、フジが声高に叫ぶ。フードをユラユラと揺らして暗闇の中、和夜の顔を覗き込む。その口元は心底嬉しそうに歪んでおり、嬉しすぎるあまりか「むふ、むふふ」と変な笑い声まで漏れている。結託すると明言したわけではないのにこの喜びよう。そこまでして心細かったのか、と和夜は思ったがなんとなく違うと直感が叫んでいて不思議だった。とりあえず、彼女であろうフジの誤解を解かなくてはならない。


「まだ確実視ではないからな?ラディア(強欲)に追いかけられている状況から見て両方から挟み撃ちされちゃ、たまったもんじゃない。共通の、敵……がいるから今のところ一時的だ」


共通の敵、という言葉で和夜に声が途切れたのは、自分がラディアを殺し合いの敵ーーつまり、殺さなければ自分が死ぬと認識してしまったからだ。そのあとの声が少し震えた気がして咄嗟に和夜はフジから顔を逸らす。すると明石が「大丈夫だよ」と分かっていると言わんばかりに和夜の背を優しく擦ってくれた。きっと、その優しさに気づいているのは和夜だけ。それを()()()()()のも一人だけ。


「それ、でも、良い!……で、なん、だっけ?」

「ッハハ、マジかぁ!!」


結託がよほど嬉しかったらしくフジがそう聞いてくる。たまらず明石が「聞いてなかったの!?」と腹を抱えて大爆笑するものだからフジの機嫌が急激に下がっていくのが分かる。まるでフジの周りだけ吹雪が吹き荒れているかのような感覚。結構対照的な二人だが相性は良いのかもしれない、と一瞬現実逃避してみる和夜である。


「武器」

「嗚呼、武器……私、カズと、同じ」


見える口元に人差し指を置いてふふっと悪戯っ子のようにフジは笑う。自分と同じということは刀と云うことだろう。和夜はフジのように武器を隠してはいないのでだからこそ同じと云ったのだろう。


「(カズ、なぁ)」


和夜の遠い記憶の彼方で、懐かしい妹の声が甦った。その愛称は、和夜の亡き妹が二人だけの秘密と言って遊んでつけたものなのだから。


「(……たまたまか)」


脳裏に走る悪夢を振り払い、和夜は前を行く明石を追った。

いつの間に二月入ったんですかええ……(唖然)


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