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ナイトメア・シンドローム  作者: Riviy
二章 宝探し
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第二十三ノ夢 果てしない鬼ごっこは


次の道を右へ。いや、左へ。真っ直ぐなのか円を描いているのか。目の前の廊下さえラディアの能力による錯覚だと感じてしまうほどに鬼ごっこは白熱していた。もちろん、楽しんでいるのはラディアだけだ。広間から逃げ出してよく分からない空間というか場所を走り抜けること早数分かおよそ数十分。ラディアは和夜達ーーむしろ標的になった和夜と彼女を怒らせた人物を執拗に追いかけていた。時折、廊下で装飾品に狐が大袈裟な音を立ててぶつかってはこちらの行く手を破片で妨害している。が明石がロイの能力の熊に追いかけられたことを教訓に狐に向かって扇を投げているため、今のところ大きな攻撃は来ない。しかし、いつまでも逃げてばかりはいられないだろう。ラディアも恐らくどちらかを手に入れるか殺すまで諦めない。それこそ欲深い執念だが、悪神と契約している以上、それは全員に言えることだった。


では、どうするか?

和夜は明石が後方で攻撃してくれるのを気配で感じながら必死に脳を回転させる。部屋が集中している生活区域に行くのは駄目だ。ラディアにとっても安心する場所であろうが、何処かの部屋に入って部屋の主が敵対でもしたら一貫の終わり。両方から挟まれ逃げ道がなく、確実にどちらかが殺られる。辛うじてアダムとラスがいる部屋に逃げ込めれば幸いだが、確率は三分の一。そのうち一つはどうなったか分からないが危険な『暴食』。男性は分からないが確率が悪すぎるので却下。

ふと、逃げる和夜の目に「図書室」と書かれた札が目に入る。ロイと遭遇しなおかつ何故か化け物が現れた場所だ。そのあとに薬品を嗅がされ実験されそうになったせいか、和夜の背を悪寒が駆け上がった。図書室なら死角が多く、古書もあるだろうし狐ーーで良いのだろうかーーの嗅覚も誤魔化せるだろう。その場合も出入口が正面の扉以外にもあることを事前に知っていれば良いが。ラディアの目を誤魔化せ、煙に巻けたとしても本棚で入り組んでいるため、逃げる途中にバッタリ遭遇してしまっては意味がないし一貫の終わりだ。和夜は図書室の出入口は一ヶ所しか知らない。危険が多すぎる。却下、ということで図書室の前を急ぎ足に通りすぎる。そうすると後に残されたのはこのままラディアが諦めるまで逃げ回るか殺し合いをするかである。もし殺し合いをするとしても人物の武器が不明な以上、狭い廊下での乱闘は不利。何処かの部屋に入った方がこちらにとっては比較的有利だが……そんな都合のいい部屋なんであるのだろうか。逃げ回っていたために素通りしてしまっただけかもしれないが。


「和夜!どうする?!」

「今考えてる!」


背後から慌てた明石の声がする。明石も無限に扇を取り出せるわけでは多分決してない。扇を投げるだけの明石と巨大な狐を使役しているラディアとでは先に負けるのはこちら。体力の限界が近いのか、和夜の隣で懸命に走る人物の呼吸が荒い。なんとかしなければ。そう思いながら和夜は目の前の十字路を右に曲がった。二人も和夜の後を追い曲がってくる。が和夜は少し廊下を進んだところでUターンし、曲がってきたラディアと狐数体と対峙した。いきなり方向転換したことにラディアは驚いていたが獲物が自ら手中に飛び込んでこようとしていることに喜び、彼らを嘲笑う。しかし、笑ったのは


「明石!」

「了解、和夜!」


和夜と明石だった。明石が両手に扇を取り出し、手裏剣のように一斉に投げる。二扇の一撃は両側の壁に当たって跳ね返り狐の脳天に突き刺さる。あまりの痛さに狐が悲鳴だろうか、甲高い声を上げればそれが合図だ。


「悪い!」

「え、っ!?」


和夜は隣にいた人物の手首を掴み、自らの方に引き寄せて勢いをつけて抱き上げる。突然横抱きにされて人物は驚いていたがそれに答える暇はない。明石と共に駆け出し、悲鳴をあげつつラディアの指示にどうにか従おうとする狐の前の床を強く蹴り跳躍。そうして壁に着地すると素早くラディアと狐の脇を通り過ぎ、壁を蹴って先程通った道へと着地する。ラディアが振り返る前に先程通った廊下を逆走する。後ろの方でラディアの怒りの声が木霊している。それを気にする間もなく、和夜は明石と共に隠れられそうな場所を探す。ふと、早く逃げるために抱き上げた人物が気になり、和夜は自らの腕の中を見る。人物は恥ずかしいのか目深に被ったフードをさらに深く被り、フードが外れないよう両手でギュッと掴んでいる。腕の中で丸くなっているようにも見え、まるで猫だ。こんな状況ではあったが和夜は思わず笑ってしまいそうになり、視線を人物から外した。すると和夜の視界にある扉が入った。ガラス貼りの扉で部屋の内側にカーテンがかかっているようで濃紺色の布が見える。しかも扉は誰かが閉め忘れたのか微かに開いている。先程は見つけられなかった、救世主にも似た扉。和夜は背後を一瞥し、ラディアの様子を確認する。どうやらラディアは今出している狐よりも巨大な狐を出現させようとしているらしく、此処にまで恨み言が呪詛となって聞こえてくる。他の狐が来ないところを見るに脳天の攻撃で消滅したか、ラディア自身がそこまで頭が回らないか。まぁどちらでも良い。


「明石」


小声で和夜は明石を呼びながらガラス貼りの扉に手を掛ける。音が出ないように慎重に手前に引くと、全く無音で扉が開いた。些細な疑問に和夜は瞬時に意味の分からないことが起こっているのだからと当然と言えば当然かと思い直し、人物を抱えたまま部屋へと滑り込む。そのあとに明石も続き、静かに扉を閉めれば濃紺色の布が大きく波打つ。ガチャッと明石が扉を閉めたその瞬間、ガリガリッというなにかを抉る不気味な音が扉の向こう側から響き渡った。それと同時にラディアの「逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない」という呪詛が響き、三人の背筋を恐怖が走る。時期に此処も見つかるかもしれない。最悪な未来を想像してしまい、和夜は目を閉じた。カツンカツン、と踵がリズミカルな音楽を奏でつつも恐怖の波を与えてくる。ガリガリッという音がこちらを懸命に探っている。二つの音は和夜達が隠れる部屋に近づいてくる。バクバクとうるさい心臓の音があちらに聞こえてしまうのではないかと思ってしまうほどの静寂に耳が悲鳴をあげかける。二つの音が扉の前を通過する。扉に掛かった布、カーテンに当たらぬよう明石が少しだけ後ろに身を引く。その時、ちょうど目を開けた和夜の視界に明石の腕が微かにカーテンに当たったのが目に入った。人物も気付き、「あっ」と声を荒げかけたが咄嗟に口を自らの手で塞ぐ。二人の慌てた気配に明石も腕がカーテンに僅かに当たったことに気づいたらしいが、カーテンに揺蕩う僅かな波を今押さえつけたりでもしたら相手に気づかれてしまう。ユラユラとカーテンが揺蕩う。どうか気づかないでくれ……!誰もがそう願った。


「あら」

「!?」


だが、その願いは虚しく崩れ去る。ラディアが()()()に気づいてしまった。それはこのカーテンの波打ちかそれとも和夜達の居所か。全身から冷や汗が滝のように流れ出る。絶体絶命。ラディアが扉のドアノブを捻って中に入ってくる。そう思い、和夜は明石と共に身構えた。


「……なんでもないわ。さっさと見つけるわよ」


二つの音が遠ざかっていく。どうにかやり過ごせたようだ。殺し合いをしなくて済むということに、助かったとホッと胸を撫で下ろせば三人のため息が重なった。しかし、足音が遠ざかったとはいえ、ラディアが引き返して来ないとも限らない。とりあえず、足音が完全に反響せず聞こえなくなったのを明石が扉の近くで耳を澄ませて確認する。ついでにラディアと狐の気配もないか探ってもらえば、四感が異常に発達した明石は満面の笑みで親指を立てる。それに和夜は心底、今度こそ安心して人物をゆっくりと下ろした。急とは言え、答えも聞かずに横抱きにしてしまったことに多少の罪悪感を抱えつつもそれを解消しようと和夜は人物の手を取って支えてやる。人物はまだ横抱きにされたことが恥ずかしいのか、和夜に手を取られつつもフードを掴み顔を隠している。


「ねぇー此処ってなに?」


明石が和夜の隣にやってきて言う。部屋の中は薄暗く、電気もついていないのでどうなっているかは分からない。辛うじて暗闇に慣れてきた目にシルエットのような物は黙視できるが、何かまでは和夜にも分からない。人物から手を離し、黙視できる物に近づき手を伸ばす。指先に触れたふわふわとした感触。その感触に身を委ねるままに和夜は指先を横に滑らせれば、足のすねに固いなにかが当たった。さらに暗闇に慣れた目に和夜の目の前に置かれた物の姿が露になる。それはソファーベットのようでクッションがたくさん置かれていた。和夜が触っていたのはクッションだったようだが、それでもこの部屋がなんなのか分からない。


「電気を付けたら彼女が戻ってきた時に怪しまれるしなぁ」

「とにかく、座り、たい……」

「嗚呼、それは悪い」


はぁと肩で息を吐く人物に和夜は謝罪というか言い返し、恐らくソファーベッドに誘導しようとするが……誰が使っているか分からないものを使って良いのか?と不安になり、人物を振り返る。すると人物はもはや限界だったのかその場に座り込んでいた。明石が近くで「大丈夫?」と心配そうに声をかけ、人物は頷いている。本当に座りたかっただけらしい。それに安心する和夜だったがふと、名前を知らないと思い、問う。


「こんな状況で悪いんだが、貴方の名前は?」

「……結託?」


名前を聞いたことで結託すると思ったらしい人物が勢いよく顔を上げ、嬉しそうに声色を変える。


「んーそれはまたあとで……」

「そう……なら、フジ。フジ、と、呼んで」


一瞬断りを入れた和夜に人物ーーフジは少し悲しそうに微笑んだが、そう告げた。


次回はいつものように来週です!

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