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ナイトメア・シンドローム  作者: Riviy
二章 宝探し
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第二十一ノ夢 台風の目の行く末は



一方その頃。何時間かそれとも数分か経った広間で。いやもしかすると経ったのではなく()()()()()()()()()()。時間の概念が奪われた此処ではもう分かりっこない。シン……と静まり返った広間には『強欲』の少女と『暴食』の女性が対峙していた。と云うよりも女性は立っておらず、冷めてしまった紅茶を優雅に飲んでいた。しかも威圧的に余裕綽々と足まで組んでいるのだから少女にとっては屈辱的で腹立たしかった。そんな彼女の足元に広がるのは白いガラスの破片と水っぽい液体や残したと思われる緑色の葉っぱ。少女は苛立たしげにカチッとガラスの破片を靴の底で踏み潰した。


「なんで」

「なに?」

「なんで、アタシの言ったことが出来ないの?()()()()の?」


怒りを滲ませた少女の声が広間に響く。そう、彼女は怒っていた。共犯となったから簡単に奪えると思っていたのに。思っていたからこそ少女は異形な狐をーー能力を発動させてまで追い詰めたのに、女性は攻撃できたにもかかわらず三人を見逃した。攻撃しなかったのだ。体勢を崩した()()()攻撃を躊躇った。それが少女にとっては許せなかった。能力もテーブルクロスで遅れを取ってしまったがあの場面では『傲慢(人物)』くらいなら奪うことが出来たはず。なのに……嗚呼、それでも少女は心の何処かで分かっているのだ。自らも躊躇った、見逃したと。遠回りにされていたが少女の距離からならもう一体出せば簡単だった。後悔にも似た焦りが少女を覆い隠して全てが彼女のモノだと声が響く。そんな少女を見据えてか、それとも気づいたのか、カチャリとカップをソーサーに置き少女を見上げる。見上げると言ってもまるで睨み付けるような視線に少女は「なによ」と目を逸らしながら聞く。


「共犯者に対してどういう口の聞き方かな?」

「はぁ?」

「共犯者は()()()()()()()()。私だけがやるのは割に合わないと思われるが?」


女性のもっともな正論に少女はうぐっと反論も出来ずに狼狽える。少女の足元で能力の黒い狐が少しずつ形成されて行っているのを女性は知らない。だからこそ少女は俯きながら見えないように口角を上げて笑う。全く、馬鹿ねと。それは、どちらかもわからないのに。


「それにあそこで攻撃すれば、管理者に目をつけられる可能性もある。もう一つ、攻撃すれば明らかに負けていただろうねぇ。四体二……いや……最悪六体二か……嗚呼、面白いなぁ。六人も()()()なんて楽しくて愉しくて仕方がない」


恋した乙女のように頬をピンク色に染めて微笑む女性は旗から見れば微笑ましいのだろうが、言葉の羅列といえる台詞を聞いてしまった少女によっては乙女になんぞ到底見えなかった。戦闘狂ともまた違うような言い分に少女は引いた目で女性を見る。女性と組むことになったのは少女がなんとなく女性が殺し合いでのヒエラルキーの頂点にいると考えたからで、全てを手中に納めるために必要だったから。だから、少女アタシに付き従うのは普通で。求めるモノを与えるのも普通じゃないの?


「それでもアタシの云うこと聞くべきでしょ!アタシが誘ったのよ!?」

「それがなんだっていうんだい?姫?」

「っ」


少女を嘲笑う女性。姫とは少女の愛称ニックネームだ。エル帝国の人間である女性は少女の名と容姿だけで彼女の知らないと思い込む正体を見破った。つまり、皮肉を込めた呼び名だった。その呼び名を少女は本のちょっとだけ気に入っていた。自分の居場所のような気がしたから。でも、今はただ嫌悪感が沸き上がる単語でしかなかった。


「私が姫と組んだのは()()()と思ったからさ。それ以外に理由なんてあるのかい?この殺し合いと称された神秘の食事処で?」


燃えるように真っ赤な女性の瞳に吸い込まれる。吸い込まれてしまえば、その先にあるのは一体なんなのだろうか。女性の言い分に少女は怪訝そうに首を傾げる。彼女の云っていることが理解出来なかった。だからこそ、侮辱されているのは分かったし女性にとって少女は要らないと言われたようなものだというのも分かった。ズルッと少女の影からゆっくりと狐が巨体に似合わぬ可愛らしい手を差し出す。女性も少女の能力に横目で気づき、椅子を蹴り後方に飛び退く。そうすれば、強大な爪がテーブルと椅子を一刀両断され、真っ二つに切断される。それを行ったのはチョコンと可愛らしく少女の隣に座る狐で。左右の異なった目が女性を睨み付けんばかりに凝視している。女性は素早く腰から鞭を取り出すとバシンッと床に当てる。強烈な痛々しい音に少女も狐も怯えることなく、女性を睨み付けている。


「交渉決裂、と言ったところかな?姫」

「その呼び名、金輪際呼ばないでくれるかしら?共犯者(アタシの)になるっていうから快くいれてあげたのに……もうイラナイ」


ギロリと刃物のような目で女性を射ぬく少女。だがそれに女性は怯えることもなく、ペロリと舌で唇を舌鼓を打つように舐めた。愉しんでいると思うのは無理もなかった。


「私が姫のモノになった事実なんて無いが?お互いの利益のみの関係だろう?嗚呼、それさえも欲するのならば、なんと『強欲』か」

「るっさいっ!」


明らかな女性の挑発に少女が勢いよく言い返せば、彼女のスカートのようになった後ろ丈が羽のように風もないのにバサバサッと揺れ動く。少女の感情に反応していることなぞ容易に分かる。問題は悪神特有の特定感情かそれとも全てか。


「イラナイアンタは消えてしまえっ!」

「ちょうど良い。喰えなくて腹が空いていたものでなっ!」


両者の足元から不穏な音が響けば、そこはもう殺し合いの戦場で。比較的、危険度の低いはずの広間で殺し合いを始めた二人をある人物が扉越しに聞いていた。その人物はアダムと共にいるラスだ。


「………………」


ラスは爛々と輝く殺気の籠った目を晒す二人を静かな眼差しで眺める。どうやら様子を見に来ただけらしい。二人がテーブルや椅子を投げ飛ばし蹴り飛ばしながら戦い始めるのを見るとすぐさま踵を返して歩き始める。広間は比較的安全地帯のはずだが、もう何処にも安全(そんなもの)が存在する訳がないとラスのガラスの瞳に現実を突きつけてくる。

部屋に戻ろうとするラスは広間の方向へ行く管理者とすれ違った。すれ違い様にラスが()()()()()()()という主張を無感情な瞳に込めて管理者に軽く頭を下げて通り過ぎる。そんな彼女を管理者は一瞥し、先程までラスが様子を伺っていた広間へと歩を進める。そうして扉越しに殺し合いの音を聞くと広間に一瞬顔を向けたあと、悲しげに目を伏せた。いや、ヴェールで本当に悲しげに目を伏せたのかは定かではない。けれども小さくヴェールが揺れたのは事実であった。


「哀れ」


ポツリと呟かれたその単語は無感情に思えそうなほどに小さな憐憫を帯びていた。管理者は一言、そう呟くと広間から視線を外し、再び歩き始める。


「広間はあとで修理しなくてはいけませんかねぇ」


何事もなかったかのように呟く管理者の背後に忍び寄る黒い影。ヴェールに覆われた白い顔が背後の稚拙な気配を感じ取り、足を振り返り様に振った。ガァン!という甲高い音と共に管理者の背後にいた気配から殺気が漏れ出る。背後にいた……いや、すでに立ち去った気配という()()に管理者は今度こそその顔に哀れみを張り付けて口角を上げた。


「嗚呼、本当に哀れ」


はてさて、それはどちらのことかな?

ちょいちょい他の宿り主が出てくるようになります……

次回は来週です!

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