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ナイトメア・シンドローム  作者: Riviy
二章 宝探し
20/95

第十九ノ夢 視線の先には


ーーガシャンッッ!!

鳴り響いた音は皿かガラス製のコップが床に叩きつけられ、無惨にも破壊された音で。なんだと和夜と明石が音をした方向を一斉に振り返れば、まだ盗った盗らないの言い合いを繰り広げていたであろう少女とローブの人物の足元にガラスの破片と水が散らばっていた。何処か自信満々の少女の手は人物の細い手首を折らんばかりに握りしめており、少女の後ろでは鞭を手に女性が狂喜的な笑みを浮かべて舌で唇を舐めていた。しかも服が軍服のようにーーしかも世界の東に位置しているエル帝国の軍服を着ているように見える。胸元もしくは襟元のエンブレムか紋章を確認しなければ、エル帝国の何処に在籍している者かは分からないが、非常に分が悪い相手だ。国としても人としても。一方、少女に腕を捕まれた人物は手首を見る限り、女性ーー少女のようだがはっきりとは分からず、しかもその体は恐怖かか細く震えている。それもそうだろう、身に覚えのない窃盗で傘下に加われと脅されているのだから。人物と同じく脅迫を受けている男性は煮え切らない態度を顔に張り付けたまま抱き抱えられるほどの棺を愛でている。明らかに一触即発なのに殺し合いが発生しないのは此処が広間という食事処だからだろうか。


「離して……」

「あら、なんで?アンタはアタシのモノを盗った。ならその報いを受ける義務があるわ……アタシの味方モノになるっていう義務がね!!嗚呼、もちろん、アンタに拒否権はないわ!だって、アタシのなんだから」

「はぁ、聞いてくれそうになくねぇ?ねぇローズ」


男性が爛々としたまるで獣のような瞳で自分達を見つめる少女から呆れたように視線を棺に移す。棺の中には誰かが納められているのか、二人がいるところからは表面が天井の光に反射してしまい、よく見えない。だが名前のイントネーションから考えて棺の中にいるのは女性らしい。男性はもはや『強欲(少女)』と『暴食(女性)』のことは放置する方向なのか、チラチラと扉を盗み見ている。少女と女性が扉がある方を背に立っているために逃げるに逃げることが出来ないようだ。これはどう考えてもどちらかの策略であり傘下もしくは殺し合いによって勝利を得るための作戦だろう。いつの間にか、アダムとラスは扉から何事もなかったかのように広間から出て行っていた。彼らの姿を視界(気配)の端で捉えた明石が「ちょっとぉ!」と先程の言葉の意味はなんだと声を投げるが、二人は既に広間を出て行ってしまっており明石の声がむなしく扉に当たって跳ね返っただけだった。アダムに共犯者の件を言い忘れたがあの様子だとなんとなく気がついている気がする。気づいていながら答えを待っているような気がして和夜は結構優しいのか?と苦笑を漏らした。けれど、今はこの状況だ。


アダムとラスは()()()巻き込まれを回避したが和夜と明石はそうは行かない。逃げようと扉を盗み見ていた男性の視界に案の定二人は入ってしまっているし、少女の視線が標的である二人(人物と男性)に行っていようともその後ろにいるある意味危険な女性の視線も和夜と明石を殺し合い対象(ロックオン)している。完全に逃げ遅れたと言った方が良い。それは明石も分かっているらしく、腰のベルト辺りに装備した扇にゆっくりと手を伸ばしている。そんな明石を女性が射ぬくように見ている気がする。とその時、人物のローブが小さく揺れた。その揺れた先、恐らく視線を向けたであろうその先にいるのは和夜で。人物と目が合った気がした。途端、彼の背筋を駆け巡ったのは戦闘で感じる警戒や恐怖ではなく何処か懐かしくも悲しいものだった。それがなにを示しているのか正直和夜にはわからない。けれどこれだけはわかった。助けを求められている。人物には武器がないのかそれともあるはずもない犯罪に良心の呵責を覚えているのか。分からないが逃げる手段がないようだ。男性は棺がどうなるかで逃げれそうではある。和夜はグルグルと回る、決定しない自身の心中を嘲笑うと膠着状態の彼らに声をかけることにした。


「それは誤りだと思うが」

「はぁ?なに言ってんのアンタ?」


突然の横やりに少女の口調が崩れる。明石は和夜の突然の行動に動揺することもなく、ゆっくりと扇に手をやり、男性はこちらの意図に気づいたのか軽く腰を上げる。


「彼らが物を盗んだという証拠は?」

「証拠ならアタシがいるじゃない」


何言ってんの?と云わんばかりに少女が和夜を睨み付ける。そう、普通なら「盗まれた!」と分かれば捜索する。約六人しかいない殺し合い(この中)に犯人がいると考えるのが妥当だ。しかし前提を考えてしまえば全てがひっくり返ってしまう。


「俺達はよくわからない空間(ここ)に連れて来られた瞬間から所持品はほとんどない。例外は武器かそれに相当するものだけだ」


和夜は演説をするように少しだけ大袈裟に腕を振って言う。此処に来た時、和夜と明石の手には買ったはずの日用品が消えていた。いや、逃げる最中に落としたとも考えられるが肩から掛けていたのに普通落とすだろうか?それかあの集団に剥ぎ取られたと考える方が道理に合う。つまり、この空間ーー場所に来るまで武器以外は没収されている可能性が高いのだ。無論、ロイのような能力は省くし実験室に改造したのも管理者の息が少しはかかっている可能性だってある。だって此処は殺し合いを目的とした神聖(笑)な儀式なのだ。不要と思われる寝食住と娯楽があるだけまだマシだ。だから和夜はこう言いたいのだ。「所持品がほとんどないこの状況でなにを盗むのだ」と。和夜の言い分に女性はへぇと何処か恍惚の笑みを浮かべ、少女は意味が分からないと首を傾げる。まるで全て知らない無垢な赤子のように()()()()()()()と不思議に思っている。純粋すぎて無垢すぎて、アタシ(自分)がいるからと笑う。嗚呼、気味が悪い。少女に、『強欲』に対して抱いていた印象が覆される。悪神の生け贄(宿り主)らしく、全てを欲する少女。これ以上、なにをやらかすか分かったもんじゃない。ヒタリ、と和夜の額から冷や汗が垂れた。


「それがなんだって言うの?アタシが欲しいって言ってるんだから、手に入れるのは不思議じゃぁないでしょ?」

「……和夜ぁ、多分話通じてないよ」

「云うな明石、俺もそう思うが」


首を傾げて笑う少女が不気味に見える。話が通じない。嗚呼、なら、首を突っ込んだことだが逃げた方が身のため。そう考えていた和夜と明石だったが、突然少女に腕を捕まれていた人物が彼女の手を振り払った。勢いよく振り払われた手に少女は振り払われるとは微塵も思っていなかった彼女はキョトンと唖然とした表情を浮かべる。和夜に助けを求めた結果、勇気でも湧いたのだろうか。


「……私から、離れろ。私は、盗んでいないし、彼の、云う通り。間違いは君」


人物の見えない瞳が少女を貫けば、少女は首を傾げ、クスリと笑った。その静けさはまるで嵐の前のようで、不気味だった。


「ふふ、ふふふ」


そうして少女は笑い出した。不気味に、愉快げに。突然笑いだすものだから人物が驚いたように身を引く。少女の言動にドン引きしているような気がしないでもない。そんな少女に女性は狂喜的な笑みを深くし、男性はもはや様子を見ながら逃げようということではなく、いつでも逃げられるような体勢になっている。


「姫?」

「うるさいわよ?アタシに楯突こうっての?ふふ、バカねぇ。逃れられないっていうのに!!」


女性の問いかけのような言葉が引き金となったのか、少女は凶悪的な何処までも無邪気な笑みを浮かべる。来る、そう思わずにはいられないほどに食卓を囲む空気はガラッと暖かいものから冷たいものへと変貌し、そこにいる全員に恐怖にも似た吹雪を浴びさせる。少女は丈が長く、スカートのようになった後ろ丈を優雅に持ち上げた。少ししか見えなかった少女の青白いほど白い素足が顔を覗かせる。まるで人形のように白く、何処か不健康な足が余計にこれからの恐怖を掻き立てる。途端、彼女の影が生気を帯びて起き上がり狐の姿を取る。いや、狐に似たなにかだった。左右色違いの瞳と、真っ黒な影のような色をした巨体、鋭い牙と爪はまるで刃物のよう。異形すぎるその姿は化け物というには神秘的すぎ、神獣という神が使役する獣には到底届かないほど異様で醜悪な姿だった。どちらにも当てはまらず、少女の指示を健気に待つ姿は愛らしい気もするが緊迫した状況ではそう思えるはずもない。つまり、『強欲』の能力と考えるのが合理だ。和夜が明石を見れば、明石はそうだと云うように和夜の問いに頷いた。


「全て全てアタシのよ?だって、()()()が言ってたのよ。だから、渡しなさいよ!」

「どっちかっていうと『強欲』ではなく『傲慢』な気がするが?」

「和夜、合ってるその子『強欲』だから!『傲慢』はローブの子!」

「助けに来たはずがもれなく巻き添えだねぇローズ」

「貴方もいいから!」


今か今かと攻撃の指示を待つ獣と女性の爛々とした殺気にまみれた瞳に和夜と明石、棺を抱き抱えた男性の悲鳴にも似た声が響く。攻撃される可能性が低いと云ってもこれ以上は殺し合いでしかない。和夜は刀の柄を握り、明石は扇を開く。扉を背にする二人の脇をどうにか通り抜けなければいけない。ある意味引き金となった人物も逃げる体勢が出来ているようであとはタイミングだ。両者の警戒が膠着状態を生み出す。


「悪いのはぜーんぶ、そっちよ。だって、くれないんだからっ!」


バッと少女の言葉と共に数体の狐ーーであろう獣と女性が跳躍する。と同時に男性は棺を抱き抱えているにも関わらず、素早い動きで狐の鋭い攻撃をかわすと目にも止まらぬ速さで女性の脇を通りすぎ、運良く鞭のしなりもかわす。そうして一足先に扉にたどり着くと「じゃぁねぇ~」と嫌みったらしく笑って出て行った。そのため矛先は逃げようとしていた残り三人に絞られた。和夜は咄嗟に手近にあったテーブルクロスを引っ張るとそれを突撃してきた数体の獣に向けて靡かせた。猪突猛進で来た獣は急ブレーキをかけることもなく、真っ白なテーブルクロスに突っ込み、挙げ句足が布に絡みついて雪崩を起こすように倒れ込んだ。和夜の考え通りで思わずニィと微笑んでしまう。そこへ女性が鞭を振りかぶれば、二人の間に明石が割り込み扇を振るう。バシンッと乾いた音と共に明石は女性の腹に蹴りを入れつつ、扇で鞭を絡め取り弾く。後方に仰け反った女性の肩越しに『傲慢』である人物が見え、明石は目があったような気がした。和夜とは()()()()()


「行くぞ!」

「うんっ!」


若干の隙をつき、和夜と明石は一斉に駆け出す。そのあとに人物もローブをはためかせて続く。体勢を崩した女性が慌てて体勢を立て直そうとするがもう間に合わないと踏んだらしく、それ以上は鞭を振るうことはなかった。攻撃を指示ーー共犯なのに()()()()ように少女には見えたらしく、顔に憤怒を張り付けていた。そんな少女の脇を刺激しないように、些か遠回りをして扉に駆け込む。そうして広間を振り返ることなく走り続けた。


「ウソッ!全部、アタシのよ……!」


癇癪を起こしたような少女の声が背後で響いていた。それはまるでなにかを宣告し、宣言しているようだった。

次回も来週です!忘れずに出したい……

あと、『強欲』っ子は書きながら「これ、ワガママでも通るくない?」と思ってました……でもちょっと違うのです。

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