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ナイトメア・シンドローム  作者: Riviy
一章 不老不死の代償理論
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第九ノ夢 実験という殺戮について


和夜の目の前に現れた男性は薄汚れた白衣を着、ガスマスクを首から下げていた。めんどくさそうに、それでいて何処か不機嫌そうに顔の半分を覆う痛々しい火傷の痕を歪ませる。その火傷は首元にまで及んでおり、時折痛むのかそれとも肌が引っ張られるのか、不機嫌さと共に痛みを孕んだ瞳を投げている。


「実験?……此処は、図書室で」

「はぁ?それがなんだって云うんだ。別に俺が何処で実験したって構わないだろ」


茫然とおそらく実験器具であろうガラス製の品々を横目に和夜が云えば、男性はバスの声をまるで吐き出すように響かせる。彼にとって図書室はどうでも良いらしい。少しでも管理者の言葉を思い出せば、()()()()()()()()可能性も示唆できると云うのに。咄嗟に和夜は男性が危険かつ集められた七人のうちの一人と確信し、脇に持つ本を一瞥した。このまま置いていけば、妹との思い出の本さえ消えてしまう。そんな焦燥にかられ、和夜は袖口を使って鼻と口を押さえるふりをしながら本を懐に隠した。男性は和夜の動きを不審に思ってはおらず、逆に実験を邪魔されたことに対して怒っている。


「とっとと出て行ってくれ。邪魔だ」

「実験なんて部屋でやれば良いだろう。此処では人が来る」


煩わしそうに手を振り、和夜に背を向ける男性に和夜は云い放つ。和夜の言い分は言い得て妙、実際に和夜が図書室に来た。男性は和夜をギロリと睨み付けるとテーブルに広がる資料の一枚に手を伸ばす。


「俺は殺し合いなんかする必要もねぇし、する意味もねぇ。だったら実験してた方が良いだろ?お前みたいな()鹿()図書室(ここ)に来るとは予想外だったがな」


侮辱し、見下した言い分にピキッと和夜のこめかみからガラスが割れるような音が響く。それでも和夜は極めて冷静さを保つ。もし、彼の言い分が本当なら、実験がしたいだけで殺し合いなんて望んでいないと云うことになる。逆に云えばこれはチャンスだ。アダム同様、意味合いは異なるが殺し合いをしなくても済むかもしれない。そんな和夜の考えが読めたのか、男性はハッと鼻で笑い、資料から顔を上げる。


「なに馬鹿なこと考えてるか知らねぇけど、みんな仲良くお手々繋ぐなんて、出来やしない」

「それはわからないだろ」

「分かるさ。どうせみんな死ぬんだーー自分の罪に殺される」


男性は意味深げにそう呟き、首にした黒百合のネックレスに触れた。まるで愛おしむような優しい指先に和夜は戸惑う。彼の本性、というか本質がわからない。けれど、話す価値はある気がした。テーブルに広がり……なかには床に散乱した書類やなにかの破片の事は和夜にはわからない。だが和夜は敢えて一歩、中央へと足を踏み出した。それに男性は再び不機嫌そうに顔を歪める。


「協定とか休戦の話なら降りるからな。つぅーか、邪魔」

「実験がしたいだけなら殺し合いをするなんて嫌じゃないのか?」

「それは一利あるな」


散乱する破片と紙を避けながらやってくる和夜に男性は何処か神妙な顔つきで笑う。和夜を試すかのような笑みはまるで獲物を狙う獣のようでもあって、飄々としたなにかでもあった。


「殺し合いをすれば実験は奪われる。なら、そうならないように手を打った方が利益は良いだろう」

「デメリットとメリットの話か。でもな、管理者ってやつが言った権利は少ないんだ。そしてそれは、意味のない権利でもある」


両者一歩も譲らない腹の探り合い。だがその探り合いを先にやめたのは研究者もしくは科学者ぶったーー実際にそうなのだろうがーー男性だった。男性はあきれたと肩を竦めながら首元にぶら下がるガスマスクに片手を伸ばす。


()()()()みたいにな」


顔をすっぽりと覆うガスマスクを男性がつける。彼の言葉に和夜が怪訝そうに首を傾げた次の瞬間、ガァン!と大きな衝撃音と共に円形に並んだ本棚が二階へ勢いよく吹っ飛び、倒れ、破壊された。突然のことに茫然とする和夜の目の前に白煙が上がり、警戒を強める。と、ガッと男性がテーブルを蹴り上げた。雪崩のようにテーブル上に散乱していたガラス製の品々や書類が滑り落ち、床に甲高い音を上げて割れる。パリンッと割れた試験管の中身と中身が床で合わさり、周囲を取り巻く白煙以上に煙たく灰色をした煙を吐き出す。なんだが先程嗅いだ臭いにも似ている気がして和夜は口元を袖口で覆った。


「いきなりなんっ……ゲホッ」


突然のことに微かに煙を吸い込んでしまったようで和夜が咳き込めば、ガスマスクで完全防備を整えた男性が二階への螺旋階段を呑気に登りながら言った。


「俺は()()()()の相手出来ねぇからな。お前にやってもらおうってこった。これなら、殺し合いしなくても済む」


ケラケラと愉快げに笑う男性に和夜は「はぁ!?」と怒りを滲ませた罵声にも似た声を上げる。()()()()って誰だよ?!と目と鼻に来る刺激に耐えつつ咳き込む和夜の背を殺気が走った。その殺気を和夜はよく知っている。足元から感じる悪寒のような微かな振動とピンッと張った糸のような緊張感が場を支配する。一度触れれば、いや動けば命はない。まるそう言っているかのような殺気に和夜は袖口で口元を隠しながら抜刀した。鞘に刻まれた藤が白煙の中、舞い上がる。そうして白煙と灰色の煙を睨み付ける和夜の目の前に二種類の煙を切り裂いて現れたのは異形な姿をした化け物だった。化け物の異形な姿と殺意、そして狂喜を称えた瞳に和夜の心中に復讐心が甦る。だがそれを極めて冷静に落ち着かせ、和夜は刀を構える。化け物には男性が叩き割ったーー落としたとも云うーー薬品が調合されてしまった異物は効果抜群らしく、和夜がいる数メートル手前までは来るが、その先までは寄ってこない。それを使えば有利に戦えるが、何故


「なんで化け物が此処に?!」


そう、まさにそこだった。此処はある意味、管理者の箱庭ーー神が仕組んだ遊技場。そんな場所に化け物がこうも易々と侵入出来るものなのか?もしくは……二階に逃げ延びた男性を横目に一瞥しようとするが煙が濃くて何処にいるかわからない。だが、彼の言い方を考えるに男性が侵入を手助けしたとも読み取れる。いや、今は目の前の敵に集中しよう。和夜は刀の切っ先を爛々と目を輝かせる化け物に向ける。化け物は煙の隙間を狙っているようで体をユラユラと揺らしている。煙の中で揺れ動くその姿は幽霊のように見える。まぁ足と云うか二足歩行なので幽霊とは程遠いが。と、その時、ガッと化け物の一体が和夜に向けて鞭のような腕をしならせた。バシンッと破裂音にも似た音が響き、空中に散布された煙を蹴散らし、ついでとばかりに床に散乱したガラスの破片をも取り除いていく。いつまでも此処にいては全部の化け物の餌食になる。なら、どうするか?和夜は咄嗟に後方を振り返るがそこは灰色の煙に覆われており、逃げ込んだとしても目眩ましにしかならない。また何度も云うが此処には窓がない。おそらく空気を巡回させる機械もない。ならば、この刺激臭漂う煙は上へと向かう。先程の男性はガスマスク着用のため大丈夫だろうが、和夜は大丈夫ではない!ならばやるべきことは二つに一つ。和夜は深く、深呼吸をすると片足を軸に半回転し、背後に倒れたテーブルに足をつけ、強く突き出し跳躍した。煙を蹴散らすように跳躍し和夜は目の前で鞭のようになった片腕を振るう化け物に向かって刀を突き刺す。跳躍した勢いも相成って胸元に強く突き刺さった一撃に化け物が悲鳴を上げながら鞭を振るえば、他のテーブルに残っていた薬品が鞭で払われたことにより割れ、先程よりも化け物を近付かせない。バッと刀を容赦なく抜きながら化け物の体を足場に和夜は跳躍する。和夜に蹴られた化け物は大きく吹き飛ばされ白煙へと消えていく。その数秒後にガシャンッ!と音がしたので倒れた棚にぶつかったのだろう。ついでに壊れた棚の切っ先にでも貫かれて欲しい。トンッと空中で回転しテーブルに着地すると白煙の中からいくつかの殺気を感じ取ることが出来た。全部で三つ、先程のを抜かした数だ。この白煙の中、三つの殺気は和夜のみを狙っている。


ふと、和夜は守り刀であり明石ーー悪神の『嫉妬』が宿っていると思われる刀を見る。例え本当にそんな父親が懸念していた呪いの品であっても、もうどうでも良かった。会えたと、そう思えればもう、全てが消えた。フッと小さく笑い和夜は刀を顔の横で構える。三つの殺気の位置を入念に白煙内から観察し、そうしてテーブルを蹴った。途端に一瞬の隙をついて化け物三体は煙の切れ間を縫って和夜に襲いかかる。だが和夜はテーブルを蹴り跳躍しているため、三体の攻撃は当たらない。テーブルの高さもあるため、二階に避難した男性と和夜の目が合う。ガスマスクの下で男性が笑みを浮かべているのだと思うと、何処か可笑しかった。すると空中にまるで足場があるかのように化け物が一体、和夜に接近してくる。和夜は空中を跳躍し、真っ正面から化け物の刀で受け流す。それでも化け物は巨大な刃となった腕を横に振り回し、和夜を切り裂こうとする。その攻撃を和夜は振り返り様に刀を振り、牽制しつつついでとばかりに片足で回し蹴りを放つ。運良く腹と腕を切り裂くように当たった攻撃に化け物は呻き声を上げる。その二つ折りになった腹に容赦なく蹴りを入れ、ガラスが散乱するテーブルに叩きつける。そのまま急降下しテーブルの傍らに和夜が着地すると煙に巻かれて姿を隠していた化け物が彼に牙を剥いた。


「っ、嗚呼、くそっ」


悪態をつく和夜の視界では化け物の牙が彼の腕を切り裂いていた。いや、それは比喩に異ならない。牙のように尖れた爪、刃物の如く尖った爪が和夜の腕にかすったのだ。かすったと云っても浅い傷ではあるが、化け物はニヤリと崩れかけた顔を歪ませた。素肌が見える腕に細い紅い線。それを一瞥し、和夜は刀を振り回す。ガッと刀が化け物の口元を掠め大きく開いていた口をさらに大きく広げていく。さしずめ口裂け女か。そんな気色悪い化け物から一旦距離を取り、和夜は崩れかけた本棚の横に立つ。相当強い力が加わったようで本は引き裂かれて散らばり、棚は見るも無惨な姿へと変貌している。先程倒した化け物のように尖った破片は凶器だ。化け物がそれに気づく可能性はなきにしもあらずだが、注意が必要だ。目の前から突き刺さる殺気に和夜が鋭い眼差しを返せば、そこには先程の化け物ーー四足歩行の獣と二足歩行の何処か人間に似ていながらも異なる化け物二体がいた。和夜は刀をもう一度構え、化け物達を睨み付けた。それはまるで、その眼差しでトドメを刺すと言わんばかりの眼力だった。

次回は来週日曜日です!

ほーら、言わんこっちゃない!!←

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