プロローグ
はじめましての方ははじめまして!既に別の作品でお会いの方はお久しぶりです!さて、作者がやりたい放題詰め込んだこちらをお読みいただき誠にありがとうございます!
バトル・ロワイアル系、殺し合いの物語は一度書いた事があるのですが、それとはまたちょっと違う物語なんじゃないかなーと思います。まぁ、楽しければ良いんですよ!
話は変わりますが、投稿日は土日のどちら17時から18時を予定しています。もしかすると忙しくなって投稿出来ない、という日があるかもしれません。その場合は別の日もしくは一週間後に投稿します。事前に分かれば良いんですけど多分そうも言ってられないので。
と、長らくお待たせ致しました!それでは、『ナイトメア・シンドローム』をどうぞっ!
やけに静かだと思った。
昨日から風邪を引いてしまい、「誕生日なのに残念だね」って母親が笑いながら布団をポンポンと優しく叩いてくれていたのがついさっき。ウトウトしていた眠気から目を覚ませば、家は恐ろしいほどに静寂だった。この家は結構大きく、屋敷と言っても過言ではない。だから、お手伝いさんが多くいる。そのお手伝いさん達が屋敷を歩く音も聞こえない。なんでだろう?咳で異様に喉が渇いて、不思議に思いつつも自室から出た。風邪で声があまり出ないから呼び鈴を鳴らしたが静寂に音が消えていくだけで反応はなかったから、自分から動くしかなかった。
動かなければ、悪夢を見ずに済んだのに。
螺旋になった階段を降りて誰もいない。変だなぁと首を傾げて、手すりに掴まる。シン……と静まり返った空間は何処か自分の家ではないような気がして、怖かった。
みんながいるのは何処だろう?初めに思い浮かんだのは居間だ。居間は和室になっていて生け花や家宝が飾られている。家族の憩いの場であり休息の場だった。もしかするとそこでみんなして眠っているのかもしれない。炬燵に入ってぬくぬくしてしまって……なんて、ちょっとだけ狡いと憤慨しながら居間へと足を運ぶ。居間へと進む廊下にペタペタと音が響く。それが自分の足音であると気づくとちょっとだけ楽しかった。理由はわからないけれども楽しかった。ふと前を見れば、居間へと続く扉から光が漏れている。嗚呼、やっぱりみんなして風邪を引いた自分を差し置いて炬燵に入ってたんだ!そうとしか考えられなくて、大きく肩を揺らしながら居間に駆け込んだ。
「みんな、なにし」
ちょっとだけ喉を気にして出した声は居間に消えていった。そこに広がっていたのは、地獄。壁には紅と黄色いなにかが飛び散り、絵を描き、その絵に寄りかかるようにして何人ものお手伝いさん達が磔にされていた。まるで玩具を片付けるように、お気に入りを飾るように。なかには頭や腕がない者、あり得ない方向に曲がった者までいた。現実とは思えない光景に足が震える。胃からなにかが沸き上がって来て今にも口から吐き出しそうだ。ふと、居間の、憩いの場になっている壁際を見て、絶望した。
「母さん!父さん!」
テーブルにうつ伏せになって倒れている母親と、その近くで座り込むように壁に寄りかかっている父親。父親は生け花を取ろうとしたのかそれとも家宝である刀を取ろうとしたのか、そちらに向けて手を伸ばしていた。我が家の守り刀に救いを求めたような形で、まだ父親が生きていると思った。震える足を叱咤し、両親のもとに駆け寄る。けれど、既に二人は息絶えていた。下半身を大きく抉られ、左足の骨が見え隠れした母親と右半分を食い千切られ見るも無惨な姿になってしまった父親。幼いながらに助からないと理解した。なにが起きたのか分からなかった。わかりたくもなかった。そうして脳が混乱と怒りと悲しみで支配されつつもようやっと落ち着きを取り戻せば、此処にいるはずの妹がいないことに気づく。
「……茉昼?」
もしかしたら、生きてるかもしれない……!
そんな希望に無我夢中ですがり付いて、両親の亡骸から泣く泣く視線を外す。ちゃんと葬ってあげたいが今は生きてるかもしれない妹を探す方が先決だ。その時、カタッと背後で音がした。驚いて振り返れば、音がしたのは押し入れからだった。なんで?あの押し入れには座布団くらいしか入っていなかったはず。なんでそんなところから音がするわけ?再び足が震え出す。押し入れにいるかもしれない、地獄を作り出した張本人を想像して。すると、次の瞬間、押し入れが大きな音を立てて内側から破裂した。いや、破裂と言うよりも破壊されたと言った方がしっくり来るかもしれない。四つに切断された襖からなんとか逃れ、家宝を背に立てば目に入ったのは巨大な獣だった。青白い色の獅子、前足のところからは金槌と釘を持った人の手が伸び、ふさふさのたてがみは真っ赤に染まっている。尻尾も真っ赤に染まった剣を持ち、刀身からは鮮血が雨のように滴り落ちている。そして、異様な化け物の口元に咥えられた物体を見た瞬間、冷静になりかけていた脳内は再び真っ白になり、目の前は真っ赤に染まった。嘘だ、ウソだ、嘘ダ、ウソ嘘ウソ嘘ウソ嘘ウソ嘘ウソ嘘ウソ嘘ウソ嘘ウソだ!!!
「茉昼っっ!!」
その物体は腸を食われた愛しい妹だった。化け物の牙は妹の心臓に食い込み、紅い華を咲かす。血が螺旋を描くように腕に垂れ落ち、美しくも残酷な未来を描く。虚しく空を見つめる妹の瞳にはもう光は宿っていない。希望は打ち砕かれた。それを幼い頭できちんと理解した瞬間、鈍器で頭を殴られたような衝撃が走った。希望を持って伸ばした手は絶望によって叩き落とされる。化け物が妹を咥えたままこちらを見る。血のように真っ赤な瞳が恐怖に震える自分を写し出す。
殺される。反射的にそう思った。
よくも家族を、みんなを!反射的にそう思った。
逃げなきゃ。反射的にそう思った。
怒りと恐怖と、絶望に苛まれ、足は震え体が武者震いを訴える。けれど、化け物はこちらを定めたままゆっくりと、ゆっくりと歩み寄ってくる。絶望の未来を、妹を突きつけながら。どうする?どうすれば良い?微かな熱におかされた脳では冷静に考えることすら、助けを求めることすらままならない。ただ、後退りするだけで。カタンッと後退りすれば、震える手と背中になにかが当たる。何処か冷たい感触が熱くなった脳を壊していく。
『*******?』
声が聞こえる。嗚呼、これは幻聴だ。恐怖で狂ってしまったが故に聞こえてしまった忌まわしき哀れなモノ。でも今、それにすがるしかなかったのかもしれない。背中と指先に当たったのは家宝の刀。太刀掛けに置かれた一振りの刀。血に濡れた刀。静かに静かに、家族を見守って来た刀。父親から「絶対に触るな」と言い付けられていた刀。
『*****。***?****!』
今ではその理由さえもわからない。けれど、自分の身を守るのに、怒りを抑えるのに精一杯だった。いっぱいいっぱいだった。その体に委ねるのは、無謀だった。嗚呼、だから。目の前で白濁した目をした妹が揺れる。どれほど痛かっただろう、苦しかっただろう。痛いほど、辛いほど分かって、分かりたくもない。嗚呼、だから、だから、だからだからだからだからだからだから!!なにが正しくて、なにが間違っているかなんてわからない。家宝の柄を後ろ手に掴み、勢いよく前に持ってくる。鞘を放り投げる勢いで抜けば、血に反射する刀身が現れる。妹の手が微かにこちらを向いて、化け物の憎き口元も動いて、嗚呼、嗚呼、全ては
「ーーあ、ああああああああああああ!!!!」
真っ赤に染まり、絶叫が響くだけ。
後書きも毎回一言は書けるようにしていきたいと思います!