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座敷童子さんは仕事ができない  作者: 天野美伽
新座敷童子伝説
9/19

座敷童子さんは看板娘



「リポーターに何か聞かれたら、自然に答えて下さい。では、最後のお店のPRだけ、練習しましょうか……」



 地元のテレビ番組で、狐寿庵が取り上げられるということで、開店前に番組スタッフと椎名さんは事前打ち合わせをしていた。本番は生放送の中継だ。


 地元の商店街を盛り上げる、今話題沸騰中のうどん屋として取り上げられ、リポーターが食レポに来るらしい。


 1週間ほど前に番組に出る許可を取りに来たスタッフは、店のPRをする役目に看板娘として椎名さんを抜擢したのだった。文章も用意して練習していたらしい。が、緊張をしているらしく、椎名さんは何度もメモを見て、噛みながらPR文章を読んでいた。



「うーん、緊張してる? 大丈夫だよ、リラックスして」


「はいっ」



 ちなみに椎名さん以外の、僕と店長、奥さんは、PR後に声を合わせて「狐寿庵に来てみんね~!」と言って、映像がテレビ局に戻るまで椎名さんの後ろでにこやかに手を振るという役目がある。僕はテレビに出たかった訳ではなく、ただ単にシフトが当たっただけだった。これを聞くと、ユーチさんは羨ましそうに「俺なら一発ギャグくらいする」などと言っていた……。



 開店前に朝の生放送で流す、ということだったが、それを聞きつけた子供や商店街の人で店の前には行列が出来ていた。それを見て、到着したリポーターが店に入るところも映しましょうと提案したのだった。スタッフは慌ててPRの時間を調整し、椎名さんのPR文章も少し削ることになった。



 テレビの中で見ていた女性と男性のリポーターが、よろしくお願いしますと挨拶し、本番が始まった。






「今、ここ毋多羅町商店街で一番アツい! 饂飩・蕎麦屋の狐寿庵にやってきました~!」


 女性リポーターがそう言うと、カメラは店の前に集まった子供や近所の人に向けられた。子供はテレビに映ろうと必死でジャンプしたり、ピースサインをしたりして騒いでいる。


「どうも~。おはようございます」


「おはようございます」



 店長が硬い顔つきで挨拶をする。



「すごーい。ほら、見て下さい! 狐の置物やぬいぐるみがたくさんあります。かわいくて綺麗な店内ですねぇ」


 女性リポーターが言って、店内を映す為にカメラがゆっくりと動かされる。椎名さんが2人のリポーターを席まで案内し、すぐに後ろに下がる。



「あっ、これがメニューですね。店長! オススメはどれですか?」


 呼ばれた店長ははいっと返事をして、背筋を伸ばして答えた。


「私のオススメは、きつねうどんと、後は夏限定メニューですね」


「狐寿庵という店名も、きつねうどんから来ているというのは本当なんですか?」


「えぇ、本当です。私はきつねうどんが大好物でして……」



 へぇ、じゃあ店長こだわりのきつねうどんという訳ですかとか、めずらしいですねぇなどと驚いたように2人のリポーターはリアクションをする。



「じゃあ、きつねうどんを1つお願いします」


「えー私は……冷やし梅ぶっかけうどんと、かしわおにぎり1つで」


「あ、ぼくは高菜おにぎりを1つ付けて下さい」


「はいっ」



 事前にメニューを聞いていた為、うどんとそばは茹で始められており、僕はおにぎりを作っていた。椎名さんと奥さんで皿や盛り付けの準備を進める。



「お待たせ致しました!」



 椎名さんが言い、2人の前におぼんを置く。続いて奥さんもおぼんを置いた。


「味の染みてそうなお揚げに黄金の出汁! 美味しそうです。いただきます……ん~! ふっくらしたお揚げの中からじゅわっと甘い味が溢れてきて……うまかぁ~!」


 男性リポーターが言い終わると、隣の女性リポーターは梅干しを箸で持ち上げた。


「梅干し大きいですねぇ」


 カメラに梅干しを見せる。それを聞いて、奥さんがそれ自家製なんですよと声を掛けた。


「あ、自家製なんですね……。ん~酸っぱい! 夏の暑さに勝てそうですね」



 そうして食レポは進み、椎名さんの出番がやって来た。



「では、最後に! この店の看板娘の椎名さんから、PRして貰いたいと思います。どうぞ!」



 男性リポーターが椎名さんにマイクを向ける。



「狐寿庵はグレーの瓦屋根が目印です。夏限定メニューもやっていて、毎週金曜日はお得なセットもあります。店内のかわいいキツネ達に癒されてみませんか? 毋多羅町商店街に来た際は、ぜひ狐寿庵にお越しください! せーのっ」



『狐寿庵に来てみんね~!』



 椎名さんの合図で声を合わせると、笑顔でカメラに手を振った。自分が笑顔を作れているのかが分からないが。



「狐寿庵の皆さん、ありがとうございました~」



 こうして、無事に中継は終わった。



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