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座敷童子さんは仕事ができない  作者: 天野美伽
新座敷童子伝説
6/19

座敷童子効果


 『狐寿庵』の前には、20人ほどの行列が出来ていた。


 おかしいな……。連休ではない普通の土曜日の昼だというのに。いつもなら、連休以外に行列を見ることがない。いたとしても、家族連れで2組くらいが並んでいるだけだ。


「おはようございまーす」




「注文ですねー。少々お待ちください!」


「椎名さん、これ2番テーブルね」



 店長と奥さんが、僕が来たことにも気がつかず忙しそうにしていた。なんだか大変そうだ。急いで着替えると厨房に出た。



「おっ、助かった! 晴仁、4番テーブル空くけんバッシングして外のお客さん案内して」


「はいっ」



 それからは大忙しだった。



 椎名さんは2日目だが、気にする暇もないくらい忙しかった。うどんを茹でて、レジに行き、外の客を案内し……。まだ入れないのか、あの席空いているじゃないかとの客に、客の人数と座席数を考え出来るだけ多く入るよう頭を絞った。まるでテトリスだ。


 待ちきれない客が何人か帰ってしまう。申し訳ない。


 その後も16時くらいまで客は絶えず、地獄の暑さで顔からは滝のように汗が流れた。


 待てよ……。これは座敷童子効果なのか? いや、偶々か。



「晴仁―。今のうち休憩行って来いー」



 店長から声を掛けられ、早めの夕飯くらいの時間に自分が食べるうどんを茹で始めた。



「今日は大変でしたねぇ。夜も忙しそうですね」


「そうやね。別にイベントとかもないはずなんやけど」



 店長も首を傾げていた。


 ……疲れた。今日はかき揚げうどんに、かしわおにぎりもつけよう。



「咲ちゃんごめんねぇ。いつもはこんなに忙しくないんやけど。2日目で慣れんのに、頑張ったね」



 奥さんが椎名さんに声を掛ける。椎名さんはお役に立てず……と言いながら、申し訳なさそうにしている。



「後で10分くらい休憩行ってきぃ」


「一緒でいいなら、今から取った方が良いんじゃないですか。1時間後また忙しくなるかもしれないし……」


 それに気になって仕方のないことがあるし。


「あ、じゃあ今から行ってきて良いよ」



 また店長が僕にニヤニヤした顔を向けてくるが、無視する。





「椎名さんお昼何食べたんですか?」


「えーと、月見そば」


「えっ、ヘルシーですね。忙しかったのに、よくそれでもちますね」


「そうかな……。森永君はいっぱい食べますね」



 椎名さんがトレーに載せた、かき揚げうどんとかしわおにぎりを見て言う。かき揚げはお客さんに出すものより気持ち大きめだ。



「熊みたいって言われてますからね。僕の身体はうどんで出来ているようなものです」


「確かに! 身長高いし大きいし熊みたいね」



 椎名さんは共感するように手を叩き、顔を輝かせて笑った。少し恥ずかしかったようで、すぐに目を伏せた。しかし、大きいとは大分可愛らしい響きだ。実際はぽっちゃりデブなんだが。



「椎名さんって、座敷童子伝説って知ってますか?」



 伏せていた目を上げたので、目が合った。一気に椎名さんの頬が赤く染まる。



「それ、どこで聞いたの!」


「学校で先輩が言ってましたよ。ネットで話題になってるって」


 恥ずかしそうに顔を覆う。


「多分私もそれ見たなぁ……。ネットにも書かれてたけど、私学校卒業してお菓子のメーカーの事務をしてたんだけど、そこクビになった後倒産しちゃって。びっくりするよね」


「え、マジだったんですか」


 椎名さんは頷いた。


「でも1回くらいならそういうことあるでしょう」


「いや、うん。次の会社も倒産して……」


「まあ、2回くらい……」


「次のお店は閉店したんだよね」


「わぁ……」



 それは気のせいではないかもしれない。



「大変ですね、ネットに書かれて」


「まぁ、名前はどこにも書かれてないし、大丈夫……です」



「座敷童子も嫌ですよね。妖怪って都市伝説みたいだし」


「そうだよね、妖怪はいないけど私はいるのにね。変だよね」



 椎名さんは笑う。無理して笑っているように感じたのは、気のせいだろうか。



「あ、休憩もう終わりだ。じゃ、戻ります。お邪魔しましたー」


「あぁ、はい……」



 良かった。聞きたいことを聞けて、スッキリした。さぁ、出汁が染み込んだ食べ頃のかき揚げを食べよう。



 柔らかくなったかき揚げにかぶりつく。うどんの出汁が疲れた身体に染み込む。


 うっま。


 うどんは硬めに茹でていたので伸びておらず、ちょうど良い。休憩室の冷房は中々効かないので、食べながら流れてくる汗が目に入って少し痛かった。甘めのかしわおにぎりは何個でも食べられそうだ。出汁もごくごく飲む。出汁を飲んで、水を飲むとちょうど良い塩加減でうまいんだよなぁ。うどん最高!


 椎名さんも妖怪はいないって言っていたから、別に椎名さんが座敷童子って訳じゃない。たまたま、仕事を辞めた後に倒産した会社が何件か続いたというだけで。そういうことだ。



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