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座敷童子さんは仕事ができない  作者: 天野美伽
新座敷童子伝説
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 座敷童子だ……!


 赤ら顔の椎名さんが、着物だか振袖だかを着て畳の上に座っていた。多分あれはお座敷だった。『一緒に遊びませんか』椎名さんに誘われる。ね、と笑いかけられて僕は『椎名さんって座敷童子だったんですか』と聞いた。椎名さんが手に持っていた人形が笑い出す。ケタケタケタケタ……笑っているのは、人形だけでなく椎名さんもあの赤ら顔で笑っていた。





 そんな夢を見て、ユーチさんが言っていた座敷童子伝説、新バージョンを思い出したのだった。ユーチさんは何と言っていたか……。辞めた会社が倒産していく? でも、椎名さんが座敷童子伝説の人かは定かではない。



 確かに見た目はイメージする座敷童子そっくりだ。



 通常、座敷童子は東北地方――主に岩手県を中心として、座敷や蔵に住みつき、見ると幸福が訪れる、家に富をもたらすという伝承がある。5、6歳くらいの子供で、悪戯好きらしい。昔、テレビで座敷童子をカメラにとらえようとして、タレントが1人、座敷童子の出る部屋で寝るという番組を見たことがある。



 番組では、おもちゃがひとりでに動き出して音を鳴らす、オーブが飛ぶ、タレントが気配を感じたと言う……などの場面があった。その旅館は座敷童子が住み着いているとのことで有名なのだが、怪しい所だ。


 口コミなんかで噂が広まり、皆は思い込みで座敷童子の姿を見ているだけなのではないかと疑ってしまう。しかし、その噂で繁盛しているそうなので、伝承としては正しい。


 我ながら夢がないなと思う。番組を見ている際は純粋に楽しんでいるが、CMの時や終わった時に急に分析のようなことをし出して、どうしても冷めた気持ちになってしまうのだ。伝承は喋りや文章で聞いた方が怖く、事実に感じるのは何故だろうか。



 ユーチさんが言っていた新座敷童子伝説が真実かは分からない。たとえ真実であっても、仕事を辞めて倒産するということが偶然あっただけであるはずだ。だって椎名さん……いや、人間にそんな力があるはずがないのだから。



 今日のバイトの時、本人に直接、座敷童子伝説のことを聞いてみよう。



 そんなことを考えながら、朝食のトーストを口に頬り込む。ハムとチーズを載せて焼いた食パン。口の中がぱさぱさして、あまり美味しくはないしトーストに飽きているのだけど、一応朝食は食べたほうが良い気がして牛乳で流し込んだ。朝食は食べたほうが良いというのもきっと思い込みなのだろう。


 窓の外でセミが鳴いている。雲ひとつない晴天で、照り付ける日光を見て外に出ることにうんざりした。テレビでは、現在の気温は37度です、なんて馬鹿げた数字を言っている。クーラーの効いた部屋からは想像もつかない温度だ。


 きれいに畳まれたバイトの制服と財布をリュックに入れて、背負う。



『嫌だなぁ嫌だなぁ~暑いな暑いなぁ~って思っていると、扉の向こうからス――ッとね布が擦れる音が聞こえたんですよ……』



 リビングからテレビの笑い声が聞こえる。


 ドアを開けると、むわっと熱くて重い空気が玄関に入って来た。なんでこんなに暑いんだよ。僕は心の中で悪態をつきながら、灼熱の外界へと足を踏み出した。


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