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座敷童子さんは仕事ができない  作者: 天野美伽
新座敷童子伝説
4/19

椎名さんは恥ずかしがり屋

 20時近くを回ると、金曜日でも客足は少なくなってくる。


 椎名さんは初日ということで、今日は20時に上がるらしい。



「晴仁君、咲ちゃんを送ってあげたら? なんかあたし心配だわぁ」


 奥さんは心配そうに椎名さんを見た。


「えっ、そんな、大丈夫ですよ。年下の子に送ってもらうなんて、悪いです」



 どう見ても、僕の方が年上に見えそうだ。今日の様子を見ていたら、奥さんが心配になるのも分かる。



「夜はこの辺人通りも少ないし……。お客さんも減ってきたから今日は一緒に上がりなさい」


「僕は構いませんよ」


「えっ……あ、ありがとうございます」



 店長が僕の方を見てにやにやしていた。何ですか、というように店長を見る。



「良かったな!」


「何がですか!」


「そりゃあ、なっ! なっ!」



 何度もな! と言ってくるので、僕は意味が分からんという表情をして見せ「じゃあ20時なったんで、お先失礼します~」とさっさと切り上げた。さっき椎名さんの年を聞いたから、からかわれているのだと気がついたが、こういう時は気づかないふりが一番だ。



「先に着替えていいですよ。あぁ、店長のことは気にしなくて大丈夫です」


「わ、分かった」



 椎名さんは何故か、顔を真っ赤にして頷いた。こっちまで恥ずかしくなってくる。



「どうぞ」


 ジーパン姿に着替えた椎名さんは、ますます中学生……。いや、小学生でも通じそうだった。





「家遠いですか?」


「20分くらいです」


「地味に遠いですね」



 2人でとぼとぼ歩く。自分が180センチあるので、椎名さんが隣に並ぶと本当に小さく感じた。神社の方の木々が揺れる音がして、ぬるい夜風が吹き抜ける。




「狐寿庵って名前なのは、この先の神社が稲荷神社だからですかね? 店の中は狐の置物がいっぱい置いてあるし……」


「いや、ただ店長がきつねうどんが好きで、商売繁盛するようにって寿って字を付けたって言ってましたよ。狐の置物は、まあ店の名前にも合うし、観光客が喜ぶから……らしいです」


「えーそうなんですか! てっきり神社由来かと……」


 確かに皆そう考えるだろう。実際、僕も店長に聞いたのだから。


「結構皆そう思ってるっぽいですけどね。初日のバイトはどうでしたか?」


「あー今日は迷惑かけてごめんなさい……。私いっつも仕事でミスばかりでして。今までもクビになったり、続かなかったり……」




 椎名さんは、落ち込んだようにしゅんと小さくなった。



「店長も言ってましたけど、初日だし大丈夫ですよ! 僕もどんぶり何個か割ったし」


「本当? なんかごめんね、年下に励まされちゃいましたね」



 街頭に照らされた椎名さんの顔は、また赤くなっていた。



「椎名さんって、すぐ顔赤くなるんですか」


「あ、うん。赤面症なんだよね、恥ずかしいからあんまり見ないで下さい……」


「そうなんですか。あと、年上なんですから敬語じゃなくて大丈夫ですよ」



 赤い顔で頷く椎名さんを見ながら、何かが心の中で引っかかった。


 何だろう。何か、忘れているような……。



「今日は家の近くまで送りますよ。奥さんを安心させないといけないんで」




 椎名さんはまだ恥ずかしそうに俯きぎみで、ありがとうございますと言った。


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