オカルト研究同好会
オカルト研究同好会――。
今どきオカルトなんか流行らないのだけど、この大学の歴史は古く、今もまだ廃部にならずにだらだらと活動している。と言っても、実際は今日みたいにホラー映画やらアクション映画やら特撮やらアニメやらを、プロジェクターで上映しているだけだ。
あとは持ち込んだゲームをしたり、棚にある昔の――同好会ではなく部だった頃の――VHSテープに録画された、当時のオカルト番組を見たりしている。まぁ、管理がずさんなのでテープが伸びきっていたりカビが生えていたり、早送りをすると最後まで飛んでしまうものも多い。DVDにダビングすればいいと思うかもしれないが、この膨大な数のビデオテープを前に誰もそこまでしようとは思わない。
「結構面白かった!」
ウトウトしていると、隣から声がして驚いた。どうやら、菓子を食べ終わって映画を見ている途中に寝てしまったようだ。
「なぁ、座敷童子伝説って知ってるか?」
いきなりユーチさんが真剣な顔をして話始めた。スクリーンはDVDのチャプター画面で、女の悲鳴をバックに不気味な家が映し出されている。
「ユーチさん、それくらい誰でも知ってますって。旅館とかに出てくる子供の妖怪でしょ。見たら幸福になるとかいう……」
隣の馬鹿はユーチさんと仲が良い。
「いや、マサ、そっちじゃなくて新バージョンの方だよ」
思わず僕は馬鹿と顔を見合わせた。
「新バージョン!?」「新バージョン!?」
声もそろえる。
「会社を辞めたらその会社は次々と倒産していくって女がいるっていう伝説だ」
「何すかそれぇ!」
聞いたことのない話に馬鹿は身を乗り出した。どうせユーチさんの創作だろう。ここで釣られた後には、ユーチさんから馬鹿にされるのが目に見えている。
「知らないのかよ。ほら、座敷童子って住み着いたら商売繁盛して、出ていくと不幸になる……みたいな話あるやん。あと、見た目も座敷童子っぽいけん、ネット上で話題になっとるんよ」
「ほーん」
馬鹿は興味がありそうなくせに、返事が適当である。
「座敷童子なんて……いたとしてもここ九州だし」
「いや、子供なんやけん、岩手やなくてもどこにでも座敷童子は湧くやろ」
ユーチさんは真面目な顔をして返す。座敷童子って湧くものなのか?
「それに新座敷童子伝説は、妖怪とかやなくて、普通の人間なんだって。普通に働いてんの。だから伝説なんだって!」
「はぁ、そっすか」
気のない返事をしたにも関わらず、ユーチさんは興奮して、現代に妖怪伝説あり! すげぇだろ! なんて騒いでいる。伝説を創ったのはお前ではない。そして馬鹿は、すげぇ! と何故か盛り上げている。
ちなみに自分はというと、妖怪どころか幽霊やUFO、オカルト全般を実在するものだとは信じ切っていない。たとえ実在するとしても、出会えないのなら自分にとってはいないも同然だ。ただ、創作物としては好きという話。それだけだ。
子供の頃は少しの希望……サンタクロースを信じたい気持ちのように、午後10時にUFOを見られる確率が高いと聞いては毎晩夜空を眺めたり、電柱から2mの手を伸ばしてくる宇宙人の姿を期待したりした。時には本気で異世界に行く方法を試したし、心霊スポットや廃墟を巡ったりした。
時には自分が生まれてきたことさえ、前世からの陰謀だと考えたり、この世界は仮想世界だと思い込んだりした。
でも、どんなに追い求めたって、真実は分からないのだと諦めている。
信じる者は救われるって言葉が嫌いだった。信じなくても救えよと思っていたからだ。でもある時、救いたくても信じてくれないと、救えないのかもしれないと気がついた。きっと信じる力は強くて、本当に信じていないと、そういったオカルトや神秘に遭遇することすら出来ないのかもしれない。それに、そんなものが見えるほど、僕は心が綺麗ではないし。