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王様


 なんだろう、この空気。

 アレイラスのお屋敷で、ちょっぴり贅沢な朝ご飯を食べています。焼きたてのほかほかのパンに、ここの料理長自信作のジャム。自然な甘さをしっかりと感じられるコーンスープに、あつあつのベーコンとサラダのセット。そのどれもが、とても美味しい。

 問題があるとすれば、緊張でお腹が痛くなりそうなことぐらい。

 もぐもぐパンを食べつつ、向かい側に座る男の人を見る。初老にさしかかった程度の男。うん。紛れもない、この国の王様。うん。現実逃避がしたかっただけだよ。


「ふむ……。シャル。俺のことは気にせず食べなさい。まずく感じてしまうだろう?」


 無茶言うな馬鹿野郎。思っても、口には出さないけども。


「はい……。かしこまりました」


 まあ、うん。直接会話しなければ大丈夫、かな?

 ジャムをパンにぬりぬり、一口食べる。甘くて美味しい!

 コーンスープも、すごく美味しい。ベーコンもかりかりっと焼けていて、サラダもしゃきしゃきしてて、なんだこれ! うまうま!


「シャーロット。シャルはとても美味しそうに食べるのだな。私はもう食べ終えたはずなのだが、見ていると食欲がそそられる」

「はい。シャルは食べることが好きなようでして、いつもそれはもう美味しそうに食べています。ですが、お気を付け下さい。欲に負けて食べてしまうと、太ります」

「む……。そ、そうだな……」


 なんか、すごく失礼なことを言われた気がする。シャーリーをじっと見つめると、何故か微笑まれた。むう。

 あまり気にしても仕方なさそうなのでご飯を食べましょう。美味しいは正義だー!

 ……なんか、二方向からとても優しい視線を感じるんだけど、気のせいだと思いたい……。




 食べ終わった後、さあ帰ろう、とは言えなかった。


「では、少しいいか?」


 王様から直々のお誘いです。怖い。


「なに、取って食おうとは思っておらんよ。食後のお茶でも飲みながら、少し話をしよう」


 王様がそう言うと、私たちの目の前に紅茶が運ばれてきた。いつもよりちょっといいお茶、らしい。シャーリーが小声で教えてくれた。よくわからん。


「はあ……。えっと。何でしょう?」

「うむ。君の将来の話だ」


 おおう。なんか、すごく個人的な、でも私にとっては大事な話がきた。でもどうして王様から直接なんだろうね。学園で先生に聞かれると思ったんだけど。


「形式上とはいえ、王家が雇うからだな。故に、私自ら聞こうと待っていたのだよ」

「なるほど……。陛下は心の声でも読めたりします?」


 口には出してなかったはずなんだけど。


「表情を読んだだけだ」

「王様ってすごい……」


 思わずそう零してしまうと、王様は笑いながら、そうであろうと、頷いた。最初のイメージと違って、なんだか少し話しやすいかもしれない。もちろん、私に合わせてくれてるだけだと思うけど。


「ええっと……。将来って、どういうことですか?」

「うむ。シャーロットから聞いたのだが、パン屋になりたいそうだな」


 何言ってるのシャーリー。何を言っちゃってるのシャーリー。事実だけど、それ王様に言っちゃだめなやつだと思うよ私は!


「まずは、そうだな」


 王様が手を二回ほど叩くと、控えていた使用人さんたちが全員出て行った。護衛の騎士さんたちまでも、全員。部屋に残ったのは、私とシャーリー、王様の三人だけ。なんだこの状況。


「シャル」


 王様に呼ばれて、姿勢を正す。なんだか、ちょっぴり怖い。


「謝罪を。申し訳なかった」


 そう言って、王様が頭を下げた。

 ……うん。いや、ちょっと。え、なにこれ、どうしたらいいのこれ!?


「あ、あの、陛下、急に謝られても、えっと……」

「多くの平民は、自身が魔力を持っていると分かった時、喜んで王家に雇われてくれるのだ。今まで例外などいなかったものでな。全員がそうだと思ってしまった」

「あー……」


 まあ、普通はそうだと思う。この国の王家はすごく敬われている。だから王家に雇ってもらえるなんてとても光栄だし、さらには将来も安泰。嫌だと言う人の方が少数だと思う。私みたいに、明確にこの仕事がしたいと思ってなければ、素直に雇われるんだろうね。

 むしろそうした希望があっても、喜んでそっちにいっちゃうんじゃないかな。それぐらい、王家は尊敬されてるのだ。

 まあ、つまりは。


「私が例外中の例外だと思うので気にしないでください」


 私も、みんな王家に雇われるから勘違いしちゃったけど、なんだかこっちが選んでもいいみたいだね。


「すまぬ。遅くなってしまったが、選んでほしい。君の夢の通りにパン屋になるか、我々王家に雇われるか。こちらに来てくれるなら、そうだな、一代限りではあるが、伯爵と同等の扱いをさせてもらっても構わない」

「うえ」


 なんか、あり得ないことを言われた気がする。伯爵って、正真正銘の上級貴族なんだけど。

 シャーリーはなんでさも当然かのように頷いてるの? さすが陛下分かっていらっしゃる、みたいな心の声が聞こえてくるんだけど。いや、うん。何も言うまい。


「すごく、破格の条件ですね……」

「そうだな。それだけ君のことを評価しているのだ。ああ、もちろん、すでにこの旨は他の貴族にも伝えて、了承を得られている。随分と気に入られているようだな?」

「心当たりないんですけど」

「ははは」


 んー……。どうしよう。多分、ここで決めたことが最終決定になるんだろうね。どうしよう。

 シャーリーを見る。なんだか、ちょっと怖くなったから。

 シャーリーは、微笑んでいた。


「シャルはずっとパン屋さんになりたいと言っていたじゃないですか」

「あー……。うん……」

「ずっと、私が振り回していたことは分かっているんです。私が、私との付き合いが、いろんな迷惑になっていたことも」

「んー……」

「だから、陛下にお話ししました。お父様にお願いして、こっそりと。シャルが、シャルの人生を歩めるように。……まあ、まさかこんなにいきなりとは思いませんでしたけど」


 そう言って、シャーリーが苦笑する。シャーリーも今日のことは驚いたらしい。

 ふむう……。


「陛下。聞いてもいいですか?」

「うむ。なにかな?」

「もしもパン屋さんになりたいって言った場合は、どうなります? 学園とか」

「魔力の制御は必ず覚えてもらわなければならない。学園には卒業まで通ってもらうことになるな」

「なるほど……」


 つまり、いきなり学園から追い出されることもなくて、シャーリーとももうしばらく一緒にいられるわけだ。ふむふむ。

 隣で、シャーリーが小さくため息をついた。安心したみたいに。不安なら、最初から言わなければいいのにね。本当に、変なところで気を遣うなあ、この子は。


「悩むようなら、卒業までに決めてもらえれば……」

「ああ、いえ。じゃあ、はい。雇ってください」

「む……」


 王様と、シャーリーが目を丸くした。なんだよそんなに意外かな?


「あ、あの、シャル? ちゃんと考えて言ってます? パン屋さんになれなくなっちゃいますよ? 頭働いてます?」

「いきなり随分な言い方だね。ひどくないかな? そんなにひどいこと言うのはこの口かな?」

「ひゃ。い、いたひれす、シャル」


 シャルのほっぺたをむにむにむにょーん。ぬう。柔らかい。いいなあ。


「シャル。本当に、いいのかな?」


 おっと、王様の前だった。すぐに手を離して、椅子に座り直す。


「はい。構いません。たまに趣味で焼ければいいです。……ちっちゃくてもいいので、それだけ用意してくれると、嬉しいです」

「よかろう。君の実家と同じものを用意させる」

「それはそれでお父さんが拗ねそう」


 趣味で続けられるなら、まあ十分かな。別に私は、パンでお金儲けがしたいわけじゃないし。ただ、うん。私がパン屋さんになりたいのって、食べて笑顔になってくれるのが、嬉しかったからだし。シャーリーがね、美味しそうに食べてくれるから。


「シャル。いいんですか?」

「いいんです。というかね、シャーリーを放っておくと何しでかすかわからないし」


 会えなくなったら、ちょっと気になりそうだから。


「友達を放っておけるわけないでしょ」


 そう言ってシャーリーのほっぺとをぷにぷにつつく。もうお話の流れなんてなくなってるし、この親友と一緒にいるのも悪くない。まあ、振り回されてるだけだけどさ。

 シャーリーはきょとんと不思議そうにしてたけど、すぐに嬉しそうに破顔した。


「シャル!」

「わぷ。やめ、くっつくなー!」


 抱きついてくるシャーリーを押しとどめるけど、シャーリーの方が微妙に力が強いんだよね……。すっぽりシャーリーの腕の中におさまりました。誠に遺憾です。

 ふと王様を見ると、なんとも優しい笑顔でこちらを見つめていた。言いたいことがあるなら言えばいいのに。


「うむ。シャルがこちらに来てくれるのなら安心だ。シャーロットのこと、よろしく頼むぞ」

「あー……。はい。了解です」


 この子、何をしでかしたの……? 王家の人にも迷惑かけたんじゃないだろうな。……かけたんだろうなあ……。


「では、私はそろそろ失礼するよ。また会おう、二人とも」


 王様がそう言って立ち上がる。私たちも慌てて立って、頭を下げた。




 王様が帰ってからもシャーリーにくっつかれたままだった。おもい。


「むう……。何がそんなに嬉しいのさ……」


 家に帰る馬車の中。くっつき虫なシャーリーに聞くと、


「友達だとようやく認めてもらえたことです!」

「あー……。そっか」


 うん。そう言ってもらえるなら、私もちょっぴり恥ずかしいけど、嬉しいかな。

 でもね、シャーリー。


「私は少し後悔しています」

「ええ!? どうしてですか!」

「うっとうしいからだよ! いい加減離れろ!」


 アレイラス公爵様の視線とか、いろいろ痛かったからね! ずっとくっつかれてたからね! 本当に、いい加減うっとうしい!


「だからそろそろ……」

「嫌です」

「むう……」


 いや、いいけどね。今までの反動だと思っておくよ……。

 これからもシャーリーに振り回される日が続くと思うとちょっと面倒に思っちゃうけど、なんだかそれも悪くない、と素直に思えるようになりました。まる。




 それはそれとして、おもいなあ……。

「えへへ……」

「んー……。まあ、いいか……」


壁|w・)魔導師確定なのです。一代限りの爵位をもらえるよ!

いろいろ考えるのが面倒になったので、このままの関係を続けることにしました。


次話は『おわり』、えぴろーぐです。

うん、その、なんだ。友情と恋愛の両立は難しいと学びました。やるんじゃなかった。

ジャンル変更を検討しておこう……。

20日6時に更新予定だよー。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。


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― 新着の感想 ―
[一言] 頭を抱える王子も出てきてないと思うの… だって全部諦めてるじゃない王子様…
[良い点] おめでとう! これで、時間がある時にたくさんパンが焼けるね! [気になる点] この使い道のない波動砲をどう使うのだろうか(;'∀') もしかして、こっちの世界で言う所の戦略核つまり持っ…
[一言] キャラクターに主導権わたすとだいたいこうなるんだよ。 …………わたしも次がだいいちぶえぴろーぐなのにかきおわれないよぅ。(とおいめ
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