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お茶会

 午後のシャーリーの王妃教育は、シャーリーの部屋で行われた。そして私はお部屋の隅っこでそれを眺めていた。うん。やることがない。

 私に受ける意志がないし、シャーリーたちも受けさせようとは思わなかったみたいだね。当然と言えば当然だけど。だから私は邪魔にならないように、お部屋の隅っこでのんびりしてます。


 気を遣ってくれたメイドさんから本を一冊借りています。魔力についての専門書みたいなやつ。難しい本を持ってるなと思ったら、なんとシャーリーの私物だった。まさかこんなに難しい本を読んでるなんて……。見かけによらないね。

 それにしても、難しい。むむむ……。


「シャル。終わりました」


 声をかけられてはっと我に返ると、シャーリーがいつもの笑顔で目の前にいた。


「びっくりした。お疲れ様、シャーリー」

「ありがとうございます。その本、どうですか? 分かります?」

「んー……。なんとなく?」

「なるほど……。シャルはすごいですね。私もその本についてはまだ勉強中です」


 お茶にしましょう、とシャーリーが言うと、メイドさんたちがてきぱきと準備を始める。シャーリーに本を返すと、そのままメイドさんに渡してしまった。


「あの本は、この学園を卒業した後の研究機関で使うような本です。それをなんとなくでも理解できてしまうシャルがすごいと思いますよ」

「へ、へえ……。予想以上にすごい本でびっくりだよ……」


 難しいはずだ、と思ったところで。

 いやいや待ってほしい。シャーリーは、勉強中とか言ってなかったっけ? じゃあ、この学園で学ぶことは?


「これでも公爵家なので、一通りは」

「すごい! シャーリーすごい!」

「え、そ、そうですか? その……。ありがとうございます」


 照れたようにはにかむシャーリー。なんだこのかわいい生き物。なでなでしたい。

 お茶の準備が終わったので、部屋の中央に用意されたテーブルへ向かう。椅子に座ると、すぐに紅茶とクッキーを出してくれた。


「どうぞ」

「い、いただきます……」


 すごく、貴族っぽい。シャーリーを見ると、紅茶を飲んでいた。その姿が、とても様になっていて、ちょっと格好いい。普段は私に合わしてくれているだけで、やっぱりシャーリーも貴族なんだね。


「えっとですね。シャルもあの本を理解できるなら、将来はきっと魔法の研究者になれますよ。王宮が雇うことになるので、将来安泰です」

「えー。私はパン屋さんになりたい」

「ふふ……。シャルらしいです。私も、シャルはパン屋さんでいてほしいと思ってしまいます。王宮で働いてくれたら、それはそれでいつでも会えるようになるので、嬉しいですけど」


 そう言ったシャーリーは、ちょっとだけ寂しそうだった。

 もしもシャーリーが王妃様になって、私がパン屋さんになったら、今みたいに会うのはまあまず無理だろう。今でもかなりぎりぎりだと思う。王子とか公爵様が胃を痛めてそうなぐらいには。

 だから、シャーリーは私に王宮で働いてほしいのかもしれない。ちょっと、迷う。


「私も研究者になるかもしれませんし」

「そっか、シャーリーも……、はい?」


 いやなんで? 確かに婚約は保留中だけど、正式決定みたいなものでしょ? なんで研究者とかそんな話が出てくるの? ちょっと意味わからんですよ?


「実はですね。私がこの本を勉強中なのは研究者の方々もご存知でして。是非とも、王妃なんてならずに一緒に働きましょう、と」

「え、と……。断った、よね?」

「保留しました」


 なんでだよ! そこは断りなよ! 保留って、研究者になるつもりがあるってことなの!? だめでしょさすがに!

 叫ばなかった私を誰か褒めてほしい。私がぷるぷる震えていると、メイドさんが肩に手を置いた。振り返ると、小さく首を振られた。

 うわあ、この人も絶対苦労してるよ……。心中、お察しします……。


「何を勘違いしているんですか、シャル」

「え? 勘違い?」

「そうです」


 な、なるほどそうだよね。あくまで選択肢の一つとして考えてしまっただけだよね。まあさすがにね、他でもない王家からの打診なのに軽々しく断るなんてことしないよね! あはは、もうびっくりしちゃうなあ!


「私に決定権があるので、王妃は遠慮したいです」

「あほかああ!」


 思わず怒鳴った私は悪くないと思う。


「メイドさんメイドさん! ちょっとこの子、ぶったたいてもいいですか! 叩いたらあんぽんたんも治るんじゃないかな!」

「お気持ちは分かりますが、お止め下さい、シャル様」

「どうしても?」

「手遅れなので」

「ひどくないですか?」


 シャーリーが不満そうに頬を膨らませる。不満なのはこちらだと言いたい。

 大きなため息をついて、椅子に座り直す。紅茶をちびちび飲んで、気持ちをリセット。うん、まあ、仕方ないね。分かってたことじゃないか、私。


「シャーリーがぶっ飛んでるのは分かってたことだね、気をつける」

「ひどくないですか?」


 それほど言われていることを自覚してほしいね。


「シャーリーは殿下のことが嫌いなの?」

「ええっとですね……。まあ、確かに、殿下は優秀です。格好いいですし、成績も学年で並ぶ者がないほどに優秀、その上武術の心得もある」

「うん……。改めて考えるとすごいね殿下」


 アッシュ王子はそれはもう、とても優秀な人だ。まさに文武両道を絵に描いたような人。その上、性格もいい。貴族特有の傲慢さなんて見られないし、ちゃんと平民のことも考えてくれる。

 さすがヒーロー。こわい。


「まあ、はい。とてもいい方だと思います。どこの誰とも知れない貴族と結婚するぐらいなら、殿下の方が間違い無くいいでしょうね」

「うん……。じゃあ、なんでそんなに嫌がるの?」

「嫌がっている、わけじゃないですけど……」


 少しだけ、シャーリーが視線を彷徨わせて、


「あのですね……。私の自惚れでなければ……。殿下は、私のことを好いてくれていますよね?」

「うん。まあ、そう、かな?」


 ちょっと濁しちゃったけど、その通りです。本人が言ってました。


「一目惚れみたいなもの、ですよね」

「あー……。そう、なるかな?」

「正直、冷めてしまった時が怖いです」

「あー……」


 なるほどなあ、とちょっとだけ納得した。一目惚れって、つまり何に惚れたのか全く分からないよね。それこそ外見なら一緒に生活して冷めてしまうこともあり得るわけだし。


「それを避けるためにも、もっと殿下とお話ししてみたら?」

「外堀埋められませんか? 殿下が、ではなく周囲が埋めてきませんか?」

「んー……」


 それは心配しすぎじゃ……なんて思うけど、貴族社会のことはシャーリーの方が詳しいだろうから、何とも言えないんだよね。お話でも、その辺りはかなり曖昧だったし。

 うんうん唸っていたら、シャーリーが小さく噴き出した。何事?


「色々言いましたけど、大丈夫です、シャル。私にも貴族としての責務があります。学園卒業までに殿下のお気持ちが変わらないのなら、受けますから」

「そ、そっか……」


 でもそれは、あくまで貴族としての責務、なんだね。

 色々言ったけど、私だってシャーリーに幸せになってほしい。嫌いな人と結婚なんてしてほしくない。けれど、貴族の責務がそれを許さない。

 分かってる。貴族はたくさんの贅沢が許されてるけど、それはそれ相応の責任があるからだ。分かってるけど、それでもやっぱり、私はシャーリーに幸せになってほしい。


 お話ではシャーリーは殿下のことが好きだったから、きっとここでも好きになるはず、なんて思っちゃったけど、お話はお話、ここはここ、だよね。王子を好きになるとは限らない、か。

 うん。反省、しないといけないよね。シャーリーの気持ちを勝手に分かってるつもりになってた。まったく、友達失格……、いや友達じゃないから。友達じゃないの。違うってば。


「シャル、なんだかとても不思議な百面相になってますよ?」

「ん……。ごめん。ちょっと考え事」

「そうですか」


 二人で紅茶を飲む。ちょっと冷めてきたけど、それでも美味しい。


「私は殿下のことよりも優先しておくべきこともありますから」


 シャーリーが、身を乗り出してきた。な、なに?


「ねえ、シャル。ここまでお話ししましたし、友達、ですよね?」


 直接的に確認してきた……!?


「ち……」

「ち?」

「ち、違うよ? 私とシャーリーは、ただの顔見知りだし? 友達じゃないし?」

「むう……」


 わあ、すごく分かりやすいぐらいにぷっくり頬を膨らませてる。かわいい。ぷすぷすしたい。

 でもそれとこれとは話が別なのだ!

 確かに今の状態なら嫉妬に狂うなんてないかもしれない! けど、この先のことは分からないわけだ! この先シャーリーが殿下に惚れて、私に嫉妬しちゃう、なんてこともあるかもしれないのだ!


 可能性は低そうだけど、零じゃない。それならやっぱり、距離を置かないといけないのだ。

 …………。あれ? なんで私ここでお茶なんて飲んでるの? 距離置くどころか、縮まらない? 馬鹿か私は馬鹿だな私はああもう!


「というわけで、ごちそうさまでした!」


 カップをテーブルに置いて、すぐに立ち上がる。メイドさんは察してくれたみたいで、扉を開けてくれた。


「いいです。今日は諦めます」


 シャーリーの、不満そうな声。


「ですが、覚悟してください、シャル」

「え、な、なにを?」

「私は絶対にシャルを諦めません! 射止めて見せます!」

「殿下に言え!」


 私に言うセリフじゃない! 私にそっちの趣味はないから!

 そうしてすぐに部屋を出て、振り返ると。

 シャーリーは楽しそうな笑顔で手を振っていた。


 むう……。なんだかなあ……。


壁|w・)昼食の後、王妃教育のあとの二人きりのお茶会。

昼食についてはまた別の機会に。いや、書いてみたんですけど、微妙でした……。


次話は『朝食』、(シャーリーによって破らる)平穏なはずの朝ご飯です。

一週間以内の更新を目指して私は今日もツイッターを更新する。かきかきなう。ふるい。


10話をこえたので、たまには、ということで……。

面白いと感じていただけたのなら、ブクマや評価、感想、是非是非お願いします。

励みになります。書くスピードがちょっぴり上がるかもです。多分。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 かわいいふたりですね。 いつも楽しみにしてます。
[良い点] メイドさんが首を無言で振る つまり、結婚しないは公爵さんもご存じだった。 それでいいのか、シャーリーパパとママ( ̄▽ ̄;) [気になる点] そうだ、公爵に手紙をこっそり送って シャーリ…
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