ふくきた アイドル
昔々、…と言うには少々無理がある程度には古くない。とある日常のある日のお話。
どこかの国には、その国を統べる女王様がおりました。
その女王様は明晰であり、国民もそれ以外も認める名君でありました。ただひとつ、潔癖であることを除いて…。
そんな女王様の治める国で活躍する一人のアイドルに向けて、女王様が言いました。
「なぜおまえは服を着ないのだ?」
アイドルは困惑しました。アイドルは服を着ていました。なぜ、女王様がそのようなことを言うのか。その真意を理解できませんでした。
「私は服を着ています」
アイドルは女王様に向けてそういいました。
「いいや、お前は着ていない」
しかし、女王様は聞く耳を持ちません。
「大臣も、そう思うだろう」
女王様は大臣に聞きました。大臣は悩みます。アイドルは確かに服を着ています。しかし、女王様に逆らったら自分と家族の身がどうなるかわかりません。
「…はい、着ていません」
結局、大臣はそう答えました。
「他の者も、そう思うであろう」
女王様は他の者にも聞きました。
大臣よりも立場の低い市井の者たち。
「はい、何も着ていません」
彼らは口々に、そう答えました。
「私は服を着ています」
そんな女王様たちに向かって、アイドルは再び声を上げました。
「いいや、お前は何も着ていない」
しかし、女王様たちはその言葉に聞く耳を貸しません。
そして、その中の一人が声を上げました。
「そうか、バカにしか見えないんだ。裸の王様だ」
古い古い童謡。バカには見えないと謳われた布地で作られた服を着た王様が、最後には民衆に『裸の王様』と歌われる古い童謡。
「そうか、彼女は裸の王様だ!」
「裸のアイドルだ!」
「つまり彼女はバカなんだ!」
それに彼女をなぞらえて、民衆は口々に声を上げました。
「違います。私はバカではありません」
アイドルは言いました。しかし、女王様たちは止まりません。
「ならばちゃんと服を着ろ」
「バカにしか見えない服を着るな」
「バカでないならバカでないことを証明しろ」
口々に言い放つ、無粋な言葉の雨あられ。
その言葉に耐えられず、ついにアイドルは泣き出します。
しかし、民衆は止まりません。彼女はバカだと、口々にののしります。
女王様は言いました。
「お前は、バカではないというが、皆はそうではないという。誰か、お前がバカではないと、そう言えるものはいないのか」
女王様は聞きました。アイドルがバカではないと、その言葉に賛同する人がいないか、市井の者たちに聞きました。
民衆は黙ります。誰も声をあげません。
女王様は満足そうにうなずきました。
「だれも、声を上げないではないか」
女王様の言葉に、民衆が同意の声を上げようとします。
「彼女は、服を着ています」
そんな時、そんな声が上がりました。声の主をみんなが探します。
一人の男が出てきました。若く、汚れた服を着た男。
決して裕福ではなさそうなその男を見て、民衆は鼻で笑いました。
「それはお前がバカだからだ!」
皆が口々にそう罵りました。
「彼女は、服を着ています」
しかし、男は罵倒にどこ吹く風。同じ言葉を繰り返します。
そんな男に、女王様は聞きました。
「おまえは、裸の王様を知らないのか?教養が足りないのではないか?」
男は沈黙しました。
一秒、十秒。皆がなぜ答えないのか首を傾げ始める程度の時間、男は沈黙していました。
そして、男は首を傾げ、女王様こう答えました。
「裸の女王様?」
女王様は激怒した。男のその言葉の真意はわかりません。
しかし、女王様は侮辱の言葉には人一倍敏感でした。
「不敬!」
男は捉えられました。
牢屋の中で、男はひとり呟きます。
「バカなのは、お前たちのほうだ。まともなのは、ボクだけか」
久しぶりに書いてみたものがコレだよ!