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勝ち組ぼっちの僕が高嶺の花と同居する件について

俺は今、極度の緊張状態にあった。

具体的にいうと吐きそうである。

口の中にすっぱいものがこみ上げており、今にもリバースしてもおかしくなかった。


だがそれだけはできないのだ。

なぜなら俺の目の前に、現在の状況を作り出した元凶が、申し訳なさそうに目を伏せて座っているからである。

心細げに震える彼女に、みっともない姿なぞ見せられない。文字通り、男の尊厳がかかっていた。


だけど俺は緊張しながらも、心のどこかであることを期待してもいたのだ。

目の前に座る学年一の美少女、八坂雅(やさかみやび)ともしかしたらワンチャンあるのではと。


烏の濡れ羽のような綺麗な黒髪。輝くような天使の輪。

同学年でも飛び抜けたスタイルの良さに圧倒的な美貌。


改めて全身を舐めまわすように見てしまったが、それほどまでに八坂雅は凄まじい美少女なのだ。

その美少女と同じ空間に二人きりでいるという現実。思わずグビリと生唾を飲み込んでしまうが、その音に反応して彼女の体がビクリと震える。

そしてジリジリと後ずさりしていく。俺は明らかに警戒されていた。


無理もない。同じ学校に通っているとはいえ、いきなりろくに話したこともない男と同棲することになったのだ。無防備なほうがむしろ心配といえる。

彼女の両親の教育は行き届いていたといえるだろう。問題は、その大事に育て上げた一人娘を俺の両親なんぞに預けたことにある。

最後の最後で、彼女の両親は選択を誤ったのだ。


俺はゆっくりと立ち上がり、八坂へと近づいていく。

驚いた彼女もまた、立ち上がろうとしたが足が痺れたのか、上手く立てないようだった。

もたついている彼女に一歩一歩近づいていく俺を、八坂は怯え切った瞳で見上げていた。


――そんな目で見ないでくれ、興奮しちゃうだろうが


俺はSであった。俺が所持している大人の絵本も、大抵そっち寄りの趣向となっている。

絶望した表情で俺を見る八坂に対し、俺は笑顔で笑いかけた。


「俺も初めてだから、緊張しないでくれ」


父さん母さん、本当にありがとう。

芹沢隼人(せりざわはやと)、15歳。

俺は今日、大人になるかもしれません。






「今度お前のマンションに、知り合いの娘さん住ませることになったから」


「え、なにそれ新手のギャグ?」


高校に入学して少し経った頃、俺は親父からそんな連絡を受けていた。

実家から少し離れた高校に入学を決めた俺に、通学には少し遠いからという理由で両親がマンションを購入してくれたのだ。


このことに俺は狂喜乱舞した。頑張った甲斐があるというものだ。

うちの両親が金持ちであるということは知っていたが、これほどとは。

俺は15歳にして自分が人生の勝者にして絶対的な勝ち組であることを確信する。


普通の家はいくら金を持っていようと高校生にマンションなど購入することはないだろう。アパートがせいぜいのはずだ。

しかも生活費も全て親持ち。スマホもネットも使い放題ときたもんだ。


このことを中学卒業間際に周囲に散々自慢したところ、中学時代の友人とは全て絶縁状態に至ったが、進学先には俺の知り合いは一人もいない。いや、俺の知っているやつなら一人だけいたのだが、そいつは俺のことなど気にしてすらいないだろう。

そんなわけでいくら孤立しようとも、俺にはいささかのダメージにもならなかった。


最悪、大学を卒業したら実家に寄生すればいい。

俺は将来ニートも視野に入れている。無限の選択肢を前にした俺はまさに無敵の人だ。

そんなわけで俺は一人暮らしの高校生活を晴れて謳歌していたのだが…ここにきてまさかの事態である。


「いやいや、マジな話なんだよ。俺の知り合いが海外に転勤することになってな。娘さんが着いていくのは嫌だと拒否したみたいで、相談されたんだわ。それで息子が一人暮らししてるから、一緒に住ませるんなら大丈夫ですよって答えたわけだ」


「え、それで向こうさん承諾したの?危機感薄すぎない?母さんの作る味噌汁並に薄いだろ。ちなみに転勤ってどこによ」


「まぁ俺も冗談のつもりだったんだがな…そういうわけで、来週には荷物をそっちに運ぶことになるから、掃除しとけ。あと娘さんには手を出すなよ、絶対出すなよ。あと転勤先はイスタンブールだな、トルコだ」


なるほど、そりゃいかんわ。高校生のトルコ知識など、せいぜいオパール等の宝石の産地ということくらいだ。タピオカドリンクがあるかすら分からない。遊び盛りの俺たちの年代にとってはキツイだろう。


「分かった。絶対手を出すわ。なんならビデオレターも送るから、向こうさんの連絡先教えてくんない?」


「おいばかやめろ」


親父がマジトーンで説得しにかかってくるが、それは無駄な抵抗というやつである。


冷静になって考えて欲しい。見ず知らずの男女がひとつ屋根の下で暮らしていいと両親から許可を得たのだ。

なら手を出さない男がいるだろうか。いや、いるはずがないと断言できる。


相手の顔が分からないからまぁ断言はできないが、よほどのことがない限り好意を持つなというのが無理というものである。

まぁ一応名前くらいは確認しておくかと、相手の名前を親父に訪ねた。


「ちなみに相手の名前はなんて言うんだよ、俺と同い年なのか?」


「ふふふ、それは当日までのお楽しみに…」


「分かった、家に帰って誰かがいるようなら問答無用で警察に通報するわ。俺はキッチリ強盗だって証言するからそのつもりでな」


「まってまってほんとやめて」


慌てて相手の名前を伝えてくる。最初から素直にいえばいいのに…

そもそも相手の情報を教えずに同棲とか、保護者の自覚があるんだろうか。

家に帰ったときドアが開いてて見知らぬ誰かがいるなら俺は本気でビビるし間違いなく警察に連絡し、己の正当性を訴えるつもりだ。妥協はしない。


「この息子冗談が通じない…」とか電話の向こうでブツクサ言っているおっさんのことは無視である。俺は自分の身が一番かわいい。


「八坂さんだよ。お前と同い年だ、中学も一緒だったろ?美人で自慢の娘だって自慢げにいっていたから、俺もお前のことは自慢できるところがひとつもないクソ息子だっていっておいたぞ」


「…八坂か。なるほど。ありがとう、クソ親父。あんた最高だぜ」


八坂といえば、俺の心当たりは一人しかいない。

中学でも美人で有名だったが、さらに美しくなって今や学校中の話題となっている隣のクラスの少女。

八坂雅で十中八九間違いないだろう。俺は口角が釣り上がっていくのを感じていた。


「お、おう。そうか…あのな、隼人。頼むから、手を出さないでくれよ。マジだからな、本気だからな、ねぇ頼むからほんとやめてな」


「本当にありがとうな、俺をここまで育ててくれて…答えは得た、大丈夫だよ親父。俺、これから頑張っていくから」


「えっ、なんでそんないい笑顔で消えてきそうなこと…」


俺は親父の言葉を最後まで聞くことなく電話を切った。その後、着信拒否に設定し、チャットもブロック。これで邪魔者はいなくなった。

来るべき日に向けて、俺はウキウキ気分で空き部屋の清掃に向かうのだった。






八坂雅は俺にとって高嶺の花だった。

その美貌を笠に着ることなく誰にでも平等に接し、慈愛の表情を向けることから女神と称える生徒がいるほど、俺には縁のない少女だと、そう思っていたのだ。

まともに彼女と話したことも、ほんの数回程度。彼女もきっと覚えていないだろう。それくらい、俺と彼女の間には文字通り、天と地ほどの差があった。


そんな女神が、俺の手の届くところまで降りてくるという。

ぶっちゃけよう。たまらないです、はい。


俺は健全な思春期男子である。具体的にいうと常日頃から性欲を持て余しているどこにでもいる15歳だ。

そんな男が誰もが憧れる美少女に紳士的に接することができるとでも?

答えは無論、Noである。そんなことができるはずがない。キョドりまくる自信がある。

さらにいえば、俺はぼっちだ。対人経験などほとんどない。恋愛経験?ハハッ、ワロス。


結論から言おう。俺はテンパりまくっていた。

もうすぐで八坂が家にくるというのに、全く落ち着くことができない。

妄想の中では八坂に幾度も飛びかかっていたのだが、実際にはそんなことなどできそうになかった。彼女に触れただけで、俺は鼻血を吹き出す自信すらある。


現に彼女の荷物が運び込まれていたとき、衣類と書かれたダンボールを見ただけで俺の鼻からは一筋の紅い雫が垂れてきたのだ。俺は純情な男だった。

今か今かと部屋の中をウロウロしていると、玄関からチャイムの音が聞こえてきた。


き、きたっ!


俺は慌てて猛ダッシュし、玄関の扉を開く。

そこにいたのは、白いワンピースを着た輝くような美貌の少女。


「あ…芹沢くん、だよね…」


「うん、芹沢でちゅ」


素で噛んだ。だが、そんなことなどどうでもいいと思うほどに、間近で見た八坂雅は美しかった。







そして時間は冒頭へと巻き戻る。

あれからリビングと案内したが、八坂はなにも言わずに床へと座り込んだのだ。

ずっと申し訳なさそうな顔をする八坂にいてもたってもいられず、立ち上がって声をかけたのが事の顛末だった。


同棲なんて初めてだから緊張しないでほしいと言おうとしたのだが、どうやら彼女は大いに誤解したらしく、慌てふためき俺に謝罪してきた。


だが、俺としては大きな収穫でもあった。八坂はそっちの知識もしっかりあるということだ。初心なネンネではないらしい。

こりゃ今後に大いに期待できますなぁと俺は影で下劣な笑みを浮かべるのであった。もちろん、表に出すようなヘマはしないが。


「私、芹沢くんのことを誤解していたかもしれません…いい人だったんですね、良かったです」


「うん、俺は超いい人だよ。ほんとだよ。…ちなみに、八坂は俺のこと、どう思ってたの?」


「えっと…噂に聞いた話なんですけど、お金持ちであることを鼻にかけてぼっちになった、下品でかわいそうな人だと…」


「…そっかぁ」


因果応報というやつだろうか。

いつの間にか中学の頃の悪行のツケが、しっかり回ってきていたらしい。

とはいえ、それもすぐにプラスに転じることだろう。


なぜならこんな美少女と、ひとつ屋根の下でこれから暮らすんだからな!

俺は超勝ち組にランクアップしたのだ!クラスメイトよ、思う存分悔しがるがいい!


「あ、ちなみに芹沢くん。私に手を出すというのなら、覚悟しておいてくださいね。私、浮気とか絶対許しませんから」


「はぇ?」


思わず間抜けな声をあげてしまった。

え、いきなりそんな話するの?ぶっちゃけすぎてない?


口を開けてポカンとする俺に、八坂が笑いかけてくる。

俺が見た中で、一番綺麗な微笑みだった。


「私、なんで今の学校に入学したと思います?」


「え、学力に見合ったところだったからじゃ…」


「それじゃあ、なんで両親の転勤について行かなかったと思います?」


「それは海外だったから…」


「残念、全部外れです」


そう言って、八坂は人差し指を自分の唇に当てた。

茶目っ気のあるその仕草に、俺の心臓が跳ね上がる。

おい待て、俺は童貞なのだ。そんな仕草を見せて、本気になったらどうするというんだ。責任取れるのかお前。


俺は謎の罵倒を八坂に向けていると、彼女は穏やかな笑みを浮かべて言った。


「あなたがいたからですよ、芹沢くん」


「…………ほぇ?」


この子、なに言ってんの?


「こんな状況になるなんて思ってませんでしたけど、これは私にとってもチャンスなんです。あなたのこと、きっと振り向かせてみせますから」


「えっと…はい」


振り向くもなにも、俺は今すぐあなたに飛びかかりたいのですが。


「これからよろしくお願いしますね、芹沢くん♪」



……えっとこれ、なんてギャルゲー?

流行りの同棲ものを一度書いて見たかったので書きました

そのうち書き直すかもしれません


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[良い点] やおらひっそりと鳴り出すヤンデレ警報。 ま、まあお幸せに?
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