第1話「vanish」
こんにちは。はやぶさ7ごうです。
学校の帰り道に電車に乗っていた時にふと思い付いた話です。
戦闘的要素は少ないと思うのでらしくないと思ったり。
2045年6月22日、この日を始めとして、人間が消える事件が次々と起こった。
しかもその数は、2~3件なんてものではない。日本国内で確認されているだけでも既に5000~6000万件、そう、日本国民の半数は既に消えたのだ。
しかし、彼らは死んだ訳ではないとされた。なぜなら、消えた地点に必ず、次のような書き置きが、テンプレとして残されていたからだ。
『拝啓 ○○氏の近親者或いはご友人様
この度は大変ご迷惑をおかけしました。
○○氏は私共の方で保護させていただいております。
いずれはあなた様も、私共が保護致します。
それでは、よき日常をご期待ください。
敬具
OTCA 異世界転移保護協会
追伸 下記アドレス先に○○氏のマイナンバーをご入力いただきますと、10分100円にて○○氏の様子をご覧になれます。
Otherworld☆☆☆☆@con*gle.ca.jp』
不思議なことに、このアドレスに飛び、マイナンバーを入力し、クレジットカードやコンビニ払いを指定し支払うと、見慣れない景色の中で生活を営む人の姿が見られた。場所が特定できないが、確証はゼロ金利等しいものの差出人名から、本当に異世界なのではないか、と、ネットでは騒ぎになった。
しかし、消える人々は日を追う毎に増えていく。
ネットでかまびすしく議論する人々も減り、当然政界の重鎮、テレビ局のアナウンサー、動画投稿者、そういった人々ものべつまくなしに消え、国としての機能はどんどん失われていった。
俺の街もそうだ。
学校には、俺を含めてクラスメートは6人しかいない。先生は昨日消えた。俺達の目の前で、光とともに消えていった。街の商店街にはもう人はいない。
運転が機械化されたおかげで電気・ガス・上下水道は生きているが、人が管理するものは悉く停止している。例えば教育、例えばテレビ、例えば家庭。
もう人々の意見は、消えることに積極的なものが多数だった。家庭を失った者、愛する人を失った者、そういった人は強く消えることを望んだ。
俺も、既に両親を失った。親のマイナンバーカードを探し、入力し、毎日貯金を切り崩して生活の様子を眺めている。幸い2人とも近い場所にいたらしく、早く再会できたらしい。しかし、やはり1人息子の俺はおらず、悲しんでいるようだった。なんとか親に再会せねばならない。そのため俺は、早く異世界とやらに行ってしまいたい。
そんなことを考えていた矢先、俺の隣の席の水浦の足元が光った。
「ひゃっ!?」
俺じゃない。と思っても何も変わらないが、また人が消える。
「結城くん!」
水浦が叫ぶ。
「水浦……元気にやれよ。」
「わ…私……いやだ!!」
「水浦……?」
見ると、水浦の頬は濡れていた。
「結城くん……私、結城くんと離れたくない!!」
水浦は俺の手を握った。
「いやだぁ」
叫びながら、水浦は消えた。
触れていた俺は、微塵も消えなかった。
水浦は実は俺を好きだったのかもしれない。実はちょっと前からもしやと思っていたが、もしそうなら、ちょっと惜しいことをしてしまった気がする。それに俺は、目の前で人が消えるのは初めてだったのだが、消える人間を触れていても共に消えることはできないようだ。
俺の虚空を掴む手の下に無情に書き置きが落ちているだけ。
ハハッと言ってみて、俺の心は荒んだ。
ノイズが頭蓋を伝う。
今日は帰りに食べ物を買わなければならないな。そろそろ冷蔵庫の中身が寂しくなる。
暗いカーブの道を歩いていたその時、後ろからトラックが走ってきた。
私はそのトラックが目に入ったが、そのトラックがただ事ではないことに気づくには数秒を要した。
なんてタイミングが悪いのか。運転手が消えかかっている。このままカーブに直線経路で入ろうものなら、その直上にいる私は直撃だ。
それに気づき、逃げようとした時には、もうトラックはすぐ近くに迫っていた。
まずい、私は轢かれて死ぬのか?このような所で、なんと無様な。滑稽な人生である。
走馬灯じみた思考をめぐらす最中、私は私の足元がこうこうと照るのを目撃した。もう何べんも、自分以外の誰かがこの光とともに消えるのを見てきた。
やっと、やっと消える。
私も消えるのだ。
さあ間に合ってくれ。私を両親のもとへ、あの世界へ連れていってくれ。
続く