みんなの就活ストーリー〜大卒・売り手市場編〜
私は、双六・人生ゲーム・桃太郎〇鉄など、運に左右されるレースゲームで一番になったことが滅多にない。
始めにトップを走っていても、あるときから止まるマスが
「三歩戻る」
「一回休み」
「振り出しに戻る」
「〇〇を買う」
「〇〇の被害を受けて〇億円失う」
…などといった苦しいものが多くなり、いつまでもゴールすることができない。
やっとゴールしたと思えば、すでにみんなの興味は移っていて、1人取り残されたような気持ちをよく抱いていた。
今、私はあるゲームの真っ最中だが、やはり上手くいかない。
「みんなの就活ストーリー〜大卒・売り手市場編〜」
11月頃から準備して、1月下旬にプレー開始。
私と同じく企業就職志望の友人よりも、2マスほどはリードしていたはず。
3月、情報解禁とともに競技人口増加。
1マス進む、2マス戻る、3マス進む…
「いち抜けた!」
4月が終わる頃、遠くの友人が叫ぶ声が聞こえた。
「おめでとう、良かったね!」
と、心からお祝いを伝えた。私も、着実に駒を進めてきたから。
それに、電車には真っ黒な戦闘服を着たライバルがたくさんいたから。
私も、負けられないと燃えていたから。
「に抜けた!」
5月の終わり頃、業界は違えど二人三脚で歩んできた友人が、そう叫んだ。
「お疲れ様!いいな、私も頑張る。本当におめでとう!」
一番近くで一緒に戦ってきた友人のゴール。
本当に嬉しかった。一緒に喜ぶことができた。
早く追いつきたかったから。私も、あと一歩でゴールだったから。
“だった”から。
メールが届いた。
期待をこめて開くと、温かいのに冷たく突き放すことば。
「貴殿の今後のご活躍をお祈り申し上げます。」
それすなわち「振り出しに戻る」
6月、止まったマスは
「初めての圧迫面接官との面接。準備不足が仇となり追い詰められる。1マス戻る。」
「3社を1日で受ける面接3日前に何年振りかの発熱。喉をやられて声が出なくなる。5マス戻る。」
メール開封、「振り出しに戻る」
胃がキリキリと痛むようになった。
夜、不意に涙が出るようになった。
感情が制御できなくなった。
でも、「一回休み」はない。
今日も戦いに行く。
ライバルを久しぶりに見かけた。
少し嬉しくなったが、ふと友人のことばを思い出す。
「内定者懇親会のため明日は久しぶりのスーツ。嫌だなぁ。」
あぁ、あそこの仲間はボーナスステージかもしれないのか。
「頑張ろう!」
「また最初から…」
「まだまだ、これから。運命の企業はきっとある!」
「もう休みたい。」
気分の乱高下に疲弊する心。
飲酒量がおかしくなった。
ゴールがどこだかわからなくなった。
あがりが先か、私が壊れるのが先か。
7月、今日もルーレットを回しに行く。