表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スクランブルエッグを朝食に  作者: 中倉三利
6/33

自分と他人

「大丈夫か?」


 ソファの上で横になる塔子の側で、賢人は手を握って心配そうに塔子を見ていた。


「平気。ごめんね。帰ってきたばかりなのに掃除させちゃって。明日も仕事なのに。」

 

「午後出勤にするつもりだったから大丈夫。」

 

「ごめんね。」


 目の前で横になる女は弱々しく応える。白く美しい肌は、体調が悪いせいかもっと青白く見えた。手にしている彼女の手も、小さく、細く、ちょっと力を入れるだけで折れてしまいそうだ。

 守りたい。そう思うことは普通のことなのかもしれない。しかし、この女のために、自分は尽くすことができるのだろうか。もちろん、俺は塔子を愛している。だが、本当に愛しているのは自分自身だ。

 付き合って二年が経った頃から、塔子は結婚を匂わせてきていた。結婚。自由な生活を縛られる日々。愛おしいと思っていた癖も、段々苛立ちに変わる。

 どうして結婚しなきゃならないのだろう。いや、いつかはしたいと思うが、今ではない。ようやく自由に使える金を手にし、会社での地位も年齢にしてはそれなりのものになった。もっと俺のためになることをしたい。俺をもっと高めたい。

 そう思ってた矢先、塔子が仕事を辞めたいと言ってきたのは、とても好都合だった。彼女をアパートに住まわせなければならなかったが、今まで半同棲のような形だったからそこまで苦ではない。それよりも、家事をしないで、仕事についてしっかり考えられる時間が増えたのが嬉しかった。

 だが、その考えも半年続かなかった。やはり自身の時間は欲しくなる。会社を辞めてから一人の時間が増えたのか、塔子はよく俺に構ってくるようになった。

 正直に言うと面倒くさい。付き合いたての頃はどんな話でも興味を持てたし、仕事中心の生活をお互いにしてたから、恋人と過ごすひと時を大切にすることができていたのだが。

 

「賢人?」


 難しい顔をしていた自分が怒っていると勘違いしたのか、塔子は不安そうにこちらを見ていた。

 

「ん、何でもないよ。手首細いなぁって思ってただけ。」


 すぐに顔を取り繕い、塔子に優しく笑みを返す。そして塔子の頭に手をやると、優しく撫で始めた。

 

「もう寝な。ベッドまで行ける?」

 

「ここでいいよ。汚しちゃまずいし。」

 

「ソファも汚されたら困るよ。」


 軽いジョークを交えると、塔子はクスクス笑って、安心したように目を閉じた。

 いつかは答えを出さなければならない。塔子は口には出さないが、俺と結婚したがっている。もうはっきり結婚したいと言われるのも時間の問題だ。

 賢人は塔子の頭を撫でながら、袋小路に追い詰められている自分を想像していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ