警鐘と悪夢
ガンガンガンガン。
警鐘が鳴っている。真っ白な空間に警鐘だけが響く。
「ここはもう駄目だな。あっちはまだ大丈夫だ。向こうへ行くぞ。」
聞き覚えのない声に導かれ、俺は走る。目の前を走る大柄な男が、俺を誘導する。さっきの声はこいつから発せられたのだろうか。
「あんた」
呼びかけようとしたら、後ろから大きな音がした。振り返れば、さっきまで真っ白だった空間が瓦礫の山になっている。
「ぼーっとするな!走れ走れ!」
慌てて男の後ろを付いて走る。次第に真っ白だった景色に色が付き、景色が現れる。瓦礫、土煙、頭上には黒煙。ここはどこだ?
「お、おいあんた!ここはどこだ!」
「無駄口叩く余裕は無ぇよ!早く走るんだ!」
俺達は走った。理由などわからない。逃げるためか、戦うためか、救うためか。
「どこに向かっているんだ!」
未だに顔が見えない男に向かって叫ぶ。男は急に立ち止まり、慌てて俺も立ち止まった。
「どこに向かうんだろうな。」
「なに?」
「俺達は、いや、お前はどこに向かえばいいんだろうな。」
「お前、穂高か。」
振り返った男は、傷だらけの顔をした穂高だった。
「どうしたんだよ!なんでそんな怪我を!」
「賢人、お前の進むべき道は、お前しかわからない。でも、後戻りはできないんだぞ。」
「どういう意味だよ!穂高!」
気がつけばあたりはまた真っ白な空間に戻っていた。穂高ももういない。
ガンガンガンガン。
警鐘だけが、無くならない。
「…頭、痛い。」
のそりと起き上がる。見たことのない夢だった。寝ぼけ眼で辺りを見て、ようやく自分の部屋でないことに気がついた。そして、隣に寝る女が塔子ではないことにも。
一瞬にして覚醒、と同時に現状把握。俺、裸。女、裸。女、美雪!?ここは、ホテルのベッド?
顔に手を当てて、やっちまったと思う。よりによって美雪。どうやってここまで至ったかの経緯を全く覚えていない。ただ、この現状から見て、どうやら美雪とやったことは確からしい。
ゆっくりとベッドを抜け出して洗面所へ向かう。頭が痛い、ひどい二日酔いだ。鏡に映る自分の顔は、青白く、死人のようだった。口の近くには淡い紅色が付着していて、そこだけが色鮮やかだ。何も考えず、手で拭う。まじまじと手についた紅を見て、ようやく自分の愚行を実感する。
「後戻りはできないんだぞ。」
夢の中の穂高、いや俺の本心が語った言葉。
もう、戻れないんだ。
「先輩、先帰ったかと思ったじゃないですかー。」
いつものように美雪が話しかける。
「俺、お前と寝たの?」
「まあ、寝たと言えば、寝たことになるんですかねー?」
曖昧な返答に疑問を抱き、肩を掴み美雪を問い詰める。
「昨日の夜から何も覚えてないんだよ。何か知ってるなら教えてくれよ!」
「構いませんけど、まずは、服を着たらどうですかー?」
頬を赤らめ目線を外す美雪の言葉に、改めて自分が裸であったことを思い出した。