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太陽が昇らない国の物語(仮) 第三部  作者: 岸田龍庵
月の使徒の冒険
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恨み渦巻く墓場

大虐殺の現場で、月の使徒セレンは、過去のある事実を知ることになります

【地下150メートル どこかの洞窟】


セレンの目の前に騎士の亡霊が浮かび上がる

セレン:「戦場には亡霊がつきものですね」


◆炎の魔法を使い、亡霊を退けるセレン



サーラの声:「セレン、大丈夫」

なおも浮かび上がる騎士の亡霊

ところが、おぞましい死霊の姿ではなく、色こそ青白く不気味だが、美少年達の霊が浮かび上がる

セレン:(これは、まさに紅顔の美少年。なんという美を湛えた少年たちだ)

セレン:「どうやら何か訴えかけたいようですね。少し話しをしてみましょう」

【大地の大聖堂 沐浴(もくよく)室 砂風呂の間】


サーラ:「話すって、霊と話すの?」

顔を見合わせるサーラとアリア




【地下150メートル どこかの洞窟】


セレン:「ここが冥府だと思えばたいしたことではありません。

 大地の乙女、しばらく通信を切りますよ。水晶玉を使って話をしてみます」

サーラの声:「気をつけてねセレン」



水晶玉から砂風呂部屋の映像が消えて、代わりに騎士団の亡霊の映像が浮かび上がる



セレン:「五芒星(ごぼうせい)を抱きし誇り高き星の騎士達。

 あなたたちは、何故ここで(むくろ)と成り果てているのです?」

騎士の亡霊:「私たちは流星の騎士。ここに忘れ去られ、(ほうむ)り去られた騎士だ」

セレン:「流星の騎士?」

騎士の亡霊:「私たちはこの地で起きた紛争(ふんそう)を勝利に導いた。

人の世を創り出した(いしずえ)となった。

 だが、私たちには強大な力があった。その力が仇となって、ここに葬り去られた。

 私たちと同じ人間に」


セレン:(紛争?人の世を作り出した?)

考え込むセレン

セレン:(これは月の使徒である私すらも知らない太古(たいこ)の話なのだろうか。私はこの亡霊と、騎士達と話すことで、現代に伝わっていない知識を得ようとしている)



水晶玉にかざしている手の動きが一瞬止まる



セレン:(しかし、これは得てもよい知識なのだろうか?)

躊躇(ちゅうちょ)するが、意を決して水晶玉を握る手に力を込めるセレン

セレン:「私はあなた達より遠く下がった時代の月の使徒です」

騎士の亡霊:「なんと、司る者!そうか人の世が、人が司る世界になったのか。

 人の世が到来したのだ」


セレン:(人の世が到来?やはりこの亡霊たちは、私たちが知らない何かを知っている・・・)

セレン:「今の時代、あなたたちの武勇は伝わっていません。

 失われた知識を得ること、得た知識を伝え広めることが、知識を司る月の使命です。聞かせてもらえませんか?あなたたちの失われた物語を」

騎士の亡霊:「なるほど。ならば月の使徒に語ろう。私たちの物語を」



◆ここからは騎士の亡霊とセレンの会話を交えた回想シーン

◆映像はほとんど文明らしいものを持たない、狩猟採取生活を営む人間の様子

◆人間同士の紛争でも、近代的な甲冑や剣を用いたものではなく、気を削りだしただけの棍棒を使ったような前近代的な肉弾戦が繰り広げられている



騎士の亡霊:「私たちが生きたていた時代。

 そこでは空も地も大洋も人のものではなかった。

 人よりも優れた種族が司っていた。彼らが司る地で、私たち人は生かされ、細々と営みを続けていた」

セレン:「人よりも優れた種族とは?」

騎士の亡霊:「それは人には分からない。人より優れた種族としか聞かされていない」

セレン:「その、人が生かされている世で、人は何を望んだのです?」



◆映像は夜の星々を見る人々の様子。

いくつもの計算式が生み出され、カレンダーが作られ、星の運行が正確に割り出されていく様子



騎士の亡霊:「人は、私たちは星に願いを求めた。星を見上げ、星の運行を知ることで、少しでも司る者に近づこうとした」

セレン:「星?太陽ではなく星?」

騎士の亡霊:「そうだ。人は星に力を求めた。

 その力を持って、司る者の支配から逃れようとした。

 その力を持つことを許されたのが、私たち流星の騎士団だ」

セレン:「流星の騎士団・・・」



◆映像は五芒星が刻まれた武具に身を包み、颯爽(さっそう)と大地を駆ける流星の騎士団が各地で戦う様子



騎士の亡霊:「強大な星の力で、人は司る者となった。

 そして私たちは捨てられた」

セレン:「捨てられた?」

騎士の亡霊:「そうだ。人の世をもたらした、星が持つ強大な力を、人は恐れた。

 それまであった全ての文明を消し去るほどの強大な力を。そして人は私たち流星の騎士を葬り去り、星を遠ざけた」

セレン:(なるほど。星の姿が遠くにあるのはそういうことか。星は遠くにあるのではなく、人の世が星を遠ざけていったということか)



騎士の亡霊:「私たちは人の世を見ることなく、この地中深く捨てられた。

 人の世を知ることなく。ただ(うら)みだけを(ふくれ)れあがらせて。

 まだ二十歳にも満たない私たちが持つことを許されたのは、恨みという感情だけだ」

セレン:「それは・・・」

セレン:(恨んでも恨みきれないだろう。このような美しい青年が、恨みしか持てないとは)

セレン:「あなたの名前は?」

騎士の亡霊:「流星の騎士エルランド」

セレン:「エルランド、確かに覚えましたエルランド」

騎士亡霊:「人の世の月を司るものよ。私たちの悲しみは、月の使徒とともにある。 伝えてくれ。私たちの恨みと悲しみを」



セレンの体内に亡霊の意識が入り込む

セレン:「がぁは」

セレンの全身の血管がどす黒く浮かび上がり、総毛立つ

ライタとレフタ:「セレン様?」

地面に突っ伏せるセレン。止めどなく涙が頬を伝ってゆく

おびただしい数の亡霊はすべてかき消えている

セレン:「流星の騎士よ。あなたたちの物語、月の使徒がしかと受け止めました。

 そして伝えましょう。あなたたちの恨みではなく、悲しみを」


流星の盾を拾い上げるセレン

読了ありがとうございました。

まだ続きます。

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