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こうして私は無双する・イリVer  作者: まるたん
編末・オマケ短編
99/1261

賞金稼ぎと恋する混沌龍【2】




   ■□■□■




 所変わって、こちらは魔導都市・ニイガ。

 

 その日、イリは完全オフだった関係もあり、近所のカフェテラスでオリオンと一緒にお茶を飲んでいた。


「くそぉ……キイロのヤツ……滅茶苦茶しやがって……」


 イリは、テラス席に座りながらも、苦い顔をしてブツブツとぼやいていた。

 そんな彼の頭は見事に焦げていた。

 ついでに、頬には噛まれた跡がある。


 ……一体、何があったと言うのだろうか?


「いい加減、その格好を治したらどうだ?……流石に格好悪過ぎるぞ?」


「分かってるよ……ったく」


 言うなり、イリは女性に変化すると、回復魔法を自分に掛けて見せる。

 さっきまであったチリチリ状態の頭と、頬に出来ていた歯形の跡が綺麗に消えた。


「……本当、キイロのヤキモチは、何とならないモンかなぁ……」


 回復魔法を発動させてから男に戻ったイリは、再び苦い顔に戻って頬杖をついた。


「大体の見当は付くし、お前が悪いって所も分かるんだが、取り敢えず話を聞こうじゃないか」


 頬杖をつくイリを前に、オリオンはテーブルの上に置かれたティーカップを軽く口に付けてから答えた。

 イリの眉間に皺が寄る。


「どうして俺が悪い前提で話を聞こうとするんだ? おかしいだろ? そもそもがっ!」


「おかしくはないさ? そもそも、キイロちゃんがお前絡みで怒る時は、決まってお前が他の女にチョッカイ出した時なんだからな?」


「……う」


 しれっと図星を言うオリオンに、イリは思わず口ごもった。

 けれど、直ぐに開き直る感じで言い放った。


「男が女性にときめくのは自然の摂理だ! そうであるからこそ、人類は種族を保存する事が可能なんだ! 言うなれば、これは人間が人間である以上、仕方のないサガなんだよ!」


「……で? そのサガとやらのせいで、種族保存がちゃんと出来る相手がいると言うのに、他の女に手を出した人間失格男の言い訳は、それで終了なのか?」


 気合いを込めて言い放つイリがいた所で、オリオンは涼しい顔のまま、ニヤニヤと口許を緩めて返答して行く。


「……お前、少し性格悪くないか?」

 

「イリには負けるさ」


 つまらない顔のまま言うイリに、やっぱりオリオンは涼し気な顔で、しれっと憎まれ口を叩いていた。


 そこから、再びオリオンは口を開く。


「まぁ、お茶でも飲んで少しは頭を冷やせよ。……それで? 何があったんだ?」


「……大した事じゃないさ」


 穏和に尋ねて来るオリオンに、イリは後味の悪い顔を作りつつお茶を一口ばかり含む。


 程なくして、イリはこれまであった出来事を話して行った。




 話の内容はこうだ。


 それは、今日の午前中の事である。


 先程も述べた通り、本日のイリは完全なオフであった。

 この関係もあり、その日は少し遅めの朝食を取っていた。

 

 普段、変則的な時間を余儀なくされ、己の命をベットに賞金首を倒すと言う……血生臭い仕事をしているだけに、休みの日くらいはゆっくりとした生活をしたい。

 そんなイリの気持ちを誰よりも分かっているキイロは、完全に寝坊状態のイリがいても、文句の一つも言わず……起きて来るタイミングを見計らっては、食事の準備もしていた。


 まさに良妻賢母の鏡である。


 出て来た食事も、イリの身体を十分に考えての内容であった。

 ちゃんと栄養のバランスの考えた食事であり……かつまた、驚く程に美味しい。


 伊達にドラゴンメイドと呼ばれる時代が長かった訳ではない事を、無言で証明していた。


 食事が終わった後は、気分転換も予て散歩にでも出ようかと考える。


「キイロ、ちょっと外に出て来る」


「え? そう? なら、私も一緒に行く~♪」


 ニコニコ笑顔で言うキイロ。

 とにかく、かまって貰いたいし、かまいたい。


 凄腕の賞金稼ぎでもあったイリは、仕事の都合で良く家を開ける。

 レンジェンドランクの賞金稼ぎともなると、国内だけではなく国外からの賞金首を受け持つ事だってザラだ。


 そうなると、どうしても出張する形を取らざる得ないのだ。


 結果、イリは年間を通すと、半分程度は自宅を開けている。

 そして、キイロはその間、ずっと一人で留守番を強いられるのだった。


 理由としては……まず、キイロは賞金稼ぎではないと言う事。

 つまり、部外者である為、同行させなかった。


 ここらは、冷静に考えるとそこまで不思議な事でもない。

 彼女や嫁さんと一緒に出張する会社員は、そこまで一般的ではないだろう。

 

 つまり、これと同じ事が当てはまる。

 なんらかの偶然で、途中まで一緒に行くと言う事はあっても、彼女または嫁を同伴させて出張しに行く人間は、驚くまでに仲良しなカップルまたは夫婦と呼べるだろう。

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