賞金稼ぎと魔導大国の王子【12】
更に、悪魔王子が獄炎嵐魔法を受けた後にイリの一撃で倒された所で、再び大歓声が上がった。
一般人の視点からすれば、良く分からないけれど、巨大な蛇を倒した仲間と思われる者が、悪魔としか言えない様な強敵を倒す事で街を救ってくれた。
こんな風に映った。
実際の所は本気で良くわかってはいないのだが、その仲間とも言える古代魔導人形を大破させた人物がそれっぽい事を言っていたから間違いはないだろう......と、まぁ。
その仲間の中に実はこの国の君主になるだろうルミ姫様が混じっていた事も知らない面々からすれば、かなり曖昧ではあったのだが、街が救われたと言う事実だけ分かれば、彼らからすれば大団円だったのである。
彼らからすれば......唐突にやって来た脅威があり、街が壊滅の危機にあった所を、これまたなんの脈絡もなく現れたヒーロー集団がやって来て、たちまち街の危機を救ってくれた。
冷静に考えると、いきなり街を壊滅させかねない程の迷惑な戦闘に巻き込まれただけに過ぎないとも解釈出来る事柄なのだが、何故かそう考える人間は誰も居なかった。
根本的にニイガの住民はお人好しが多いのである。
おおらかな人間が多い街で良かったと感謝せねばなるまい。
結果的に、上空から降りて来たイリ、リダ、みかんの三人はニイガの地元民からの拍手喝采を受けながら、地上に降りて来た。
「......な、なんだこれ?」
リダは思いきり驚いた。
「し、知らないです!」
みかんもかなりビビっていた。
そこから二人は英雄扱いで名前も知らない住民から歓迎を受け、何だか良く分からない内に揉みくちゃにされ、近所の酒場へと直行する事に。
「お、およ~」
「ま、いいか。ここの酒も呑んで見たかったし」
結果、誰だか分かんない人の奢りで祝賀会っぽい宴会へと発展して行くのだった。
■イリ■
みかんとリダの奴が、英雄の凱旋よろしく状態で街の連中にラチられていた頃、俺は揉みくちゃにされてる野次馬からすり抜ける形で、人混みの中から出て来た。
まぁ、ここいらの連中は祭り好きだからな。
何か理由があると、それを理由に騒ぎたがる。
それが悪いとは言わないし、俺も後からそっちに顔を出すとは思う。
思うんだが、だ?
その前に、俺にはやる事がある。
正確に言うのなら、私になる必要があるんだが。
取り敢えず、まずは女になって置くか。
そんな事を考えていた時だ。
「イリィィィィィィィッ!」
物凄い甲高い声を力一杯に乗せて、俺目掛けて全力疾走して来るドラゴン女がいた。
キイロだ。
キイロは色々な激情をぐちゃぐちゃにした顔をしたまま、俺に飛び付いて来た。
......やれやれ。
「良かった! 本当に無事で良かった!」
「当然だろ? 俺が簡単にくたばってたまるかよ」
「そうかも知れないけどぉ......でも、心配だったんだよ! ふみぃーんっ!」
叫んで、思いきり本泣きしていた。
......ったく。
なんて、可愛い事をして来るんだろうね? このドラゴンは。
まぁ、今回ばかりはコイツもかなり心配だったんだろう。
それだけの脅威は確かにあったし、俺も自分が死ぬ可能性だって考えていた。
「......イリ」
そこから、ルミの声が聞こえた。
やんわりとした笑みを清々しく作っていた。
「この街を救ってくれてありがとう。ニイガ王家の人間としてお礼を言います」
そこから、ペコリと頭を下げて来た。
......?
ルミにしては随分と堅苦しい態度を取って来るな?
妙な違和感すら抱く俺。
「どうしたんだ? もしかして、今回の事で王家の人間になる事に決めたのか?」
「絶対に嫌」
笑顔でキッパリと答えた。
これはこれで清々しいばかりの答えだった。
「......なら、どうして、王家の人間としての態度なんか取ってるんだ?」
「その答えを聞いちゃう?」
ゾクゥッ!
瞬間、俺の背筋が凍った。
心成しか? ルミの笑みが冷ややかになった気がする。
え? 何これ? さっきのが地雷ワードだったのか?
「じゃあ、言いましょう? もしここで『王家の人間ではない態度』を取ったとしたら、どんな惨劇が待っていると思います?」
え? さっ惨劇ですか?
いや、ちょっとルミさん?
なんか顔が怖いのですが......?
「なんだかんだで、私としては街を救ってくれた英雄に謝辞を述べる立場を見せないと行けないのですよ? ええ、そうですとも。こないだ拾った来た小娘ドラゴンといきなり浮気しまくる不埒な英雄であっても、国民の面前では爽やかな笑顔で頭を下げるのが王族の勤めなのです」
......。
つまり、そうじゃない場合は......?
よぉーし!
ここらは、お姫様のままでいて頂こうか!




