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こうして私は無双する・イリVer  作者: まるたん
第一編・最終章
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賞金稼ぎと魔導大国の王子【10】

 この時、イリは心の底から思った。


 みかんは、馬鹿なのかな?


 ......と。


 これが素因で勝機を掴んだイリだったが、そこを差し引いても悪態の一つは吐き捨てたい!

 こんなふざけた魔法を、街のド真ん中でやる馬鹿がいるかっ!


 果たして。


 カッ!


 チュドォォォォォォォォンッ!


 頭を潰される様にして衝突した超巨大隕石の一撃で、ヨルムンガルドはグチャッ! と潰れてしまう。


 さしもの巨大蛇も、宇宙からの飛来物には勝てなかった。


 ヨルムンガルドと隕石が衝突した事で、周囲に核爆弾でも投下されたかの様な強烈な爆風が巻き上がる。


 これでも剣聖の護りが発動していた事で、地表に到達する前に見えない透明の壁が隕石の侵入をガードし、更に衝突時の衝撃をかなり吸収・相殺してくれたので、元来の百分の一程度で済んでいた。


 それでも、常人なら吹き飛ばされて塵一つ残らないだろう。

 偶然だけど、女になって防御壁を展開していて良かったと本気で思った。


 その一方で、獄炎嵐魔法ゲヘナストリームを受けた悪魔王子は、燃え盛る業火に嵐が追加され、暴れ狂う業火の中で少しずつ身体を消し炭状態にして行く。


 ここは色々な意味で凄まじい。

 どんな存在であっても一瞬で融点以上にまで昇華され、地獄の業火に嵐が加わった荒れ狂う業火は無慈悲に暴れまわり、骨の髄まで焼き尽くす。


 残酷な業火に例外の二文字は存在せず、ただただ対象を燃やし続けるのだ。


 だが、しかし。


『私は、この国......そして大陸を統べる帝王となり、行く行くは世界を手にする者! こ、こんな所で......っ!』


 決して消えないゲヘナの炎を前に、それでも抗う悪魔王子がいた。

 

「マジかよ......」


 この調子だと、決して消えない筈のゲヘナの炎を打ち消せてしまうのではないかと思ったイリ。

 そして、何より......。


「どこまでも悲しいヤツだな」


 ポツリとイリは呟いた。

 

 思えば、この王子は被害者なのかも知れない。

 

 確かに、根本的な所は身から出た錆ではある。

 王子がルミを狙わなければ、こんな事にはならなかったのだから。


 しかし、それを焚き付けた者がいる。

 伝承の道化師ピエロだ。


 本当に憎むべき存在は、コイツなのではないのか?

 ぼんやりと、曖昧ながらイリは思った。

 

 伝承の道化師ピエロが、王子に変な未来を予言して、その未来を見せなければこんな事にはならなかっただろう。

 王子は順当にニイガ王へと即位し、この国を納めたに違いない。


 それで良かった筈なのだ。


 所が、こうはならなかった。

 王子に悲壮な未来を見せ、恐怖を植え付けた上でルミ姫を秘密裏に社会から抹殺しないと、王子に明るい未来はないと吹き込んだふざけた野郎が、彼を狂気の世界にいざなってしまった。


 結果、王子に待っていたのは、知らず知らずに悪魔と融合させられていた醜い己と、地獄の業火に焼き尽くされると言う無惨な顛末であった。


 そう考えるのなら、王子もまた......今回の被害者であったのかも知れない。


 何もかもが遅すぎた結論であるのだが。


「もう十分、お前は苦しんだ。せめて最後は苦しまずに逝かせてやる」


 憐憫れんびんにも似た瞳を作り、イリは右手から光の刃を作り出す。


 ニイガでは比較的メジャーな武器魔法、オーラブレイドだ。


 ニイガの魔導歩兵も良く使う、一般的な魔法の剣でもあるのだが、イリのオーラブレイドは独自の改造を施してある特殊な魔法剣でもある。


 イリは右手に持った自前のオーラブレイドを両手に持つ。

 すると、片手剣だったオーラブレイドが自動的に両手剣に変わった。

 意識すれば、更に大きくなり大剣にもなる。


 両手剣に変わったオーラブレイドを持ったイリは、そのままゲヘナの炎に抗い続ける悪魔王子の眼前までゆっくりと近付いた。


 消えない業火を......しかし、それでも全力で消し去ろうとしていた悪魔王子が動く事は出来なかった。

 完全にゲヘナの炎によって動きを封じられていたのである。


「またな、王子。その内、そっちに行くと思うから」


 地獄でまた会おう。

 そうと微笑み、イリは悪魔王子にオーラブレイドを振り抜いて見せた。


『ふぐぅおぁぁっ!』

 

 一刀両断。

 一閃されたオーラブレイドの一撃によって、悪魔王子は頭から縦一文字に真っ二つとなった。


 同時に完全に炎に淘汰された肉体が灰塵と化して行く。


『......姫を、ルミを頼む』


 いまわの時。

 消滅するその瞬間、王子はイリに答えた。


 これが何を意味しての言葉であったのかは、もう消滅してたが故に分からず仕舞いではあったが......。


「あんなじゃじゃ馬、頼まれても困るんだがな」


 ルイ王子が口にした最期の言霊を耳にして、イリはただただ苦笑でそうと答えるだけに留めた。

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