賞金稼ぎと古代魔導人形【18】
刹那。
「ぐあぁぁぁぁっ!」
いきなり、道化師の隣にいた次期王様が苦しみ出した。
な、何が起こっているのです?
良く分からなかったけど、確実な事だけが一つあるのです。
今の次期国王を苦しめている犯人が、誰であるのか!
「貴様ぁっ!」
直後、みかんは伝承の道化師に向かって攻撃しようとする。
けれど、それより先にシズさんが動いていた。
「腐れ外道がっ!」
気合い一閃。
否、違うかな?
見た感じは一閃と言う感じなのですが、実際は何百となく斬撃を浴びせたシズさん。
伝承の道化師は動く事すら出来ずに、その全ての斬撃を受けていた。
......?
変ですね......?
確かにシズさんの剣術は凄いし、文字通り瞬きも出来ないようなスピードで剣を振るう事は分かっているのですが......それにしても呆気なさ過ぎる。
あの道化師が、こんなに簡単にやられるとは思えないみかんがいた。
それは、かつての壮絶な戦いの追憶が、みかんへと無言で語っていた。
「くくく......良い太刀筋です。いや、素晴らしい」
パチパチパチと、軽く拍手して見せた道化師。
程なくして、身体中のあちこちに切れ目が入る。
最終的には細切れになって行くのが分かった。
細切れになった伝承の道化師は、
『残念ながら、既に采は投げられたのですよ? もう、誰にも止めれられません。もちろん、私にもねぇ......ククク』
どうにも嫌悪感を抱いてしまう、不気味な言霊を周囲にいる全員の精神に送り込み......そのまま、消滅するかの様に消えて行った。
「......く」
シズは苦い顔になる。
「手遅れって事か......?」
他方のういういさんも、神妙な顔付きになって虚空へと口を開いた。
「ぐぉぉぉぉっ!」
シュバァァァァァッッ!
そこで、次期王様から果てしない負のオーラが放出される。
闇色のオーラは、あたかも竜巻を彷彿させる渦状になって次期王の周囲を取り込むと、
『ふ、ふふふ......』
一分程度で竜巻の様なオーラが消え去り、次期王が不敵な笑みを強かに作っていた。
見た目はほぼ変わっていなかった。
けれど、違うです。
もう、色々と明らかに違った。
きっと、もう......人間と呼べない存在にまで成り下がってしまった。
「ぐぅむ......」
みかんは唸りながら、歯を食い縛る。
どうして、こんな悲惨な状況に陥っているのだろう?
まさに最悪の事態かも知れない。
『なんて清々しい気分だ。これが魔族になると言う事なのか』
......ああ、だめだ。
もう、完全に悪魔に精神を奪われている。
いつから、次期王様は伝承の道化師に唆されていたのかは知らないですが、悪魔に魂を売る真似までしていた事には......もう、残念と言う言葉しか見当たらない。
せめて、もう少し早く、次期王様に会う事が出来ていたのなら、この悲劇を回避する事が出来たのかも知れない。
もう少し違った未来を見る事が可能だったかも知れない。
けれど、もう......遅かった。
時は遡らない。
何もかも、全てが手遅れだったのです。
仕方ない。
「せめて、みかんが貴方を倒すです」
みかんは改めて戦闘入った。
『うぬらの処罰は持ち越しだ。まずは断罪すべき者共を片付けてからだ』
悪魔と化した次期王様は、そう答えると、
「......消えた?」
周囲にいる全員が目を見張った。
実際に消えたです。
完全なる空間転移魔法を使いましたね。
大体、何処に向かったのかは見当が付きます。
きっと、リダがいる所なんでしょうねぇ。
あっちで何があったのかは知らないですが、次期王様の企みを防いだ事で、次期王様の逆鱗に触れたって事だけは分かったです。
「行きましょ~」
言うなり、みかんは魔法の絨毯を再び召喚した。
召喚と同時にみかんが飛び乗ると、周囲にいた全員が直ぐに絨毯の上へと乗った。
「アテはあるのか?」
「う! 多分、さっき街で戦闘してたっぽいトコが怪しい!」
ういういさんの問いかけに、シズさんが即答して来た。
これに、フラウさんとユニクスさんも相づちを打った。
「私も、あそこは怪しいと思ってた。最初はそこが目的地だと考えてた位」
「フラウの言葉に同感です。あそこからリダ様の神々しい気が感じられました。確実に何かあると踏んでいたのです」
神々しい......リダ?
禍々しいの間違いでは?
そんな事をみかんさんは思いましたが、敢えて口にはしませんでした。
いやねぇ......すんごい、真面目に言うんですもの。
リダ教信者は怖いので、ここは何も言わない事にしておいたです。
何より、今は止めないと行けない存在がいる!
「行きますっ!」
みかんが気合いを入れて叫ぶと、魔法の絨毯が勢い良くニイガの街を滑空して行く。
とにかく......あの次期王は危険だ!
みかん達は、魔導大国ニイガの街を悪魔と化した次期王の手から救う為、全力で魔法の絨毯を飛ばして行くのだった。
次回に続く!




