賞金稼ぎと古代魔導人形【8】
この一連の光景を見たキイロは唖然となってしまった。
彼女からすれば、全く理解不能な状況だった。
そもそも、キイロはイリを助ける事だけを全力で考えて、二人の姉を精一杯の誠意を見せて説得して、ようやくイリの呪いを解放する所までこぎ着けた所だったのだ。
これでやっとイリが呪いの苦しみから解き放たれる!
希望を胸に、爽やかな笑顔でドアを開けていたのだ。
しかし、今のキイロの顔に爽やかな笑みはない。
もはや片鱗所か、塵も芥もなくなっていた。
代わりにキイロの精神を支配したのは、強い憤り!
もはや般若の様な形相でイリとルミの二人に向かって、怒りの激情を強かに吐き出していた。
「ぬぅわにぃ、かましてくれちゃってんのぉぉぉぉぉぉっ!」
「あ、あはは......」
もう、頭に血流が超高速で上り詰めてしまい、血圧が大変な事になっていそうな勢いだったキイロを前にして、ルミは最大にして最高の誤魔化し笑いをして見せた。
「い、いや、まてキイロ! 俺はまだ何もしてないぞっっ!」
直後、イリが必死の形相で言い繕う。
お姫様とキスしてました。
ごめんなさい。
テヘペロ♪
......で、済むのなら、王家はいらないのである。
こんな事を王族の誰かに聞かれたら、イリの明日はないかも知れない。
「イリ、あんたは結構色々と勘違いしてる」
そこでキイロは、にっこりとした声音と表情でイリに言って見せた。
しかし、何故だろう?
優しく微笑んでいるのに、全然温もりを感じない。
朗らかな表情だと言うのに、瞳からやって来る波動は刹那的な殺意すらも感じる。
「私は全然、ルミとキスしてた事なんか、気にしてないから」
「いや、してないぞ?」
「でも、する気だったんでしょ? 正直に言いなさい? 怒らないから」
キイロは満面の笑みで答えた。
いや、その言葉は絶対嘘だろ! と、イリは思いきり内心で叫んで見せた。
「むしろ、嘘を吐いてたら......怒っちゃうかなぁ~?」
言ったキイロの目が、残念な精神の持ち主レベルにまで酷い有り様になっていた。
「わ、分かった! ルミが、なんてかそのな? す、凄く可愛くて......つい」
「なるほど、それでルミ姫様に手を?」
言った瞬間、キイロは右手をイリに向けた。
イリの表情は真っ青だ。
「え? あ、ちょっとキイロさん? 今の俺がそんなの喰らったら、マジで死ぬんですけど......?」
やっぱり怒ったじゃねぇかよっ! と、イリは心の中でのみバケツ一杯分の涙を流して叫んでいた。
今のキイロがどんな魔法を放とうとしてるのかは、今一つ良く分かってはいなかったが......呪いを受けて本来の十分一以下の力しかないイリが喰らえば、ほぼ間違いなく常世の国への片道切符だ。
ハッキリ言って洒落にもなっていない。
果たして。
イリが、少しだけ黄泉の世界を垣間見た所で、
「......へ?」
キイロに抱き付かれた。
ポカンとなるイリ。
取り敢えず、キイロの右手から凄い魔法がボンッ! と飛んで来る事はなかった。
その代わりと言うのも難だが、キイロの優しい抱擁がやって来た。
「だから言ってるでしょ? 素直に言ったら怒らないって」
つまり、逆に言うと嘘を言ってたら呪われているイリでも魔法をぶつけて来た事になる。
もしかしたら、キイロと言う娘は物凄く恐ろしい子なのかも知れない。
閑話休題。
「けど、さっきのは私......ちょっとショックで、泣きそうになった。切なくて、一瞬前が見えなくなった......だから、やめてね?」
「......うん」
切実な感情を瞳に乗せて言うキイロに、イリは思わず頷きを返してしまった。
なんだかんだ言って、キイロも自分にとっては勿体ないまでに良い女なのだ。
本当......困ってしまう。
見た目が可愛いだけでも困るのに、性格まで良いのだから。
強いてキイロの難点を述べるのであるのなら......。
「でも、次はないからね?」
背景になんかダークマターの様な物を背負いながら言うキイロがいた。
とてつもないヤキモチで、一途過ぎるが故の独占欲が激しいって事だろうか?
これさえ無ければ完璧なのだが......そんな事をイリは胸中でのみ毒吐いた。
その時だった。
ドォォォォォォォォォンッッッ!
尋常ではない大爆発が、辺り一面に谺した。
「な、なに?」
余りの大轟音に、キイロも目をパチクリとさせて見せる。
他方のイリは、ポカンとなった。
この、尋常ではない大爆発の正体を、イリは知っていたのだ。
「超炎熱爆破魔法......だと?」
唖然とした顔のまま、イリは世界でも使いこなせる者が限定される魔法の名を口にした。




