賞金稼ぎと古代魔導人形【6】
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他方、その頃。
「外が凄い事になってるな......」
イリは自宅の部屋にある窓の外を軽く見ながら、自分なりの感想を口にして見る。
実際、日常ではまずあり得ない光景が、ニイガの街中で展開されていた。
「そうだね......」
山の様な超巨大魔導人形が街で暴れていると言う一連の非現実な光景を前にして、イリの近くにいたルミも返事をして見せる。
「どうして、こんな事になっちゃったんだろうね......」
そこから俯き加減に目線を下に落とした。
ここからだと、遠すぎて良く分からないが......しかし、何らかの被害が少なからず出ている事だけは、今のルミにも見て取る事が出来た。
魔導人形から遠いこのエリアでも、先程から色々な怒号めいた声がアチコチから聞こえて来る、
必死で逃げ惑う住人と、なんとか安全な場所へと避難しようとあがく人物。
中には必死で子供達を連れ出しながら、安全な場所へと避難しようと奮闘する親子連れまでいた。
それら諸々の市民を衛兵が誘導し、避難地域に指定されている堅牢な建物へと向かわせている姿も、この部屋から見る事が出来た。
「私......帰って来なかった方が良かったのかな?」
今にも泣きそうな顔になって、ルミはポツリと言う。
「なんでそう思うんだ?」
「だって、これ......私のせいだもの」
「......はぁ」
イリは軽く頭を右手で掻きながら、ため息を吐いて見せる。
「本当にお人好しなお姫様だ」
「じゃあ、誰のせいだって言うの!」
ルミは叫んだ。
大粒の涙を瞳から滴らせながら。
刹那的な負の悲しみに、今にも心が押し潰されてしまいそうな......そんな顔だった。
イリは真顔で言った。
「そんなの決まってる。あの魔導人形を召喚した犯人だ」
「その素因を作ったのが私であっても?」
「ルミは素因なんかじゃないさ。むしろ被害者だろ? 勝手に命を狙われて、御大層に街の住民まで巻き込む様な兵器まで出して来て......良い迷惑だ」
「そうだよね......私がここに来なかったら、そんな迷惑だって起きなかった」
「......はぁ」
項垂れ、心を痛め続けるルミに、イリは再び溜め息を吐いた。
「全く。どこまでも後ろ向きなお姫様だ。もっと前向きに物を考えられないのかよ?」
「じゃあ、どんな前向きな事を考えれば良いと言うの?」
「そうだな? 例えば......俺はルミと言う女の子に会えた。これは奇跡だ」
「......」
少し考えてから言ったイリに、ルミは無言になった。
言い返す事は幾らでも出来た。
今の問題は、自分とイリが出会えた事とは関係ないと言い返せなくもない。
しかし、物事の視点を変え、なおかつ前向きな思考を述べよと言う例題はクリアしている。
そして、何より。
「そこは......私もそう思う」
ルミはちょっとだけ頬を赤らめて答えた。
久しぶりの里帰りだと言うのに特に楽しみもなく、父母に顔を見せる目的くらいしかない......と言うのが、元来の予定だった。
所が、実際に里帰りして見ると、思わぬサプライズの数々が目まぐるしく展開されて行った。
帰郷途中で拉致られると言うハプニング。
飛竜に乗っての帰郷。
ドラゴン・ハーフに狙われて......しかし、仲良くなってしまう。
挙げ句、恋敵にまで発展して。
......ん? 恋敵?
「いやいや、そこは違うし!」
ルミはブンブンと顔を高速で横に振っていた。
「何が違うんだ?」
「な、何でもございませぬぅっ!」
明らかに何でもないと言う言葉からほど遠い態度を示していた。
そこでイリはクスッと笑った。
「何だよ、ルミらしくなって来たじゃないか」
「こ、これが私らしさ?」
ルミは不本意極まりない顔になった。
ちょっと前の自分を振り替える。
無意識の内に自然と妄想してしまい、勝手に顔を赤くして顔をブンブン振っていた。
「いや、それが私らしいとか失礼だし!」
「......失礼な事を考えていたのか?」
「えぅ.....そ、それは」
「ま、何にせよ......だ?」
ポンッ!
......と、イリはルミの頭に手を置く。
「ルミは笑ってる方が良い。それだけで皆が幸せになれる。最低でも俺はそれだけで幸せだ」
「うぅぅぅ......」
ルミは赤い顔のまま目線を下に落として、どこかの剣聖染みた唸り声を出しながらも、イリに頭を撫でられ続けた。
恥ずかしいけど、やめて欲しくない。
凄く複雑だ。
そんな今の気持ちをくれたイリがちょっと嫌だ。
ほんの細やかな事で、いたずらに心が揺り動いてしまう。
動揺しなくても良い場面でも無秩序に心臓が跳び跳ねて、破裂しそうな位に苦しくなる。
本当に嫌だ!
でも......。
「大好き......」
ぽそりとルミは答えた。




