賞金稼ぎと古代魔導人形【5】
「そうか......アカ姉も苦しかったんだね」
今までは気付く事が出来なかった。
自分の置かれていた立場が、己の瞳を曇らせていた。
気付く事が出来るだけの精神的な猶予がなかったのだ。
しかし、今は違う。
「アカ姉。信じて......絶対に二人を悲しないって約束する! するから!」
無意識に涙が出ていた。
強い信念を持って、キイロは答える。
「お願い! 今だけで良いから! だから、力を貸して!」
「......」
アカは何も言わない。
未だ目は虚ろのまま。
自我崩壊でもしているんじゃないかと言うばかりの表情だ。
しばらく後、アカはボソリとか細い声音で力無く声を吐き出した。
「アルフレド様を......助けてくれると言うの?」
もはや、声も掠れている......そんな弱々しい言霊を、なんとか口から吐き出す様に答えたアカに、キイロは逆に精一杯の力強さを見せて何度も何度も頷いて見せた。
「助ける! アカ姉がそれで幸せになるのなら! 私は、喜んで助けるよっ!」
断言する。
「......それで、アンタの敵に逆戻りするかも知れないってのにかい?」
程なくして、アオが地味に呆れた顔になって言う。
「なっても構わないよ。今度は同じ手を喰うとは思わないし、何より私は彼を信じてるから」
心からの笑みでキイロは答えた。
イリを信じる。
この気持ちだけは、誰にも負けない!
「やれやれ......変わり過ぎちゃって、本当に私の知ってるキイロなのか疑いたくなるねぇ」
実は別人でしたって言うオチが隠されてるんじゃないかとさえ思うアオがいた。
「とにかく! アカ姉! 一緒に来て! そしてイリの呪いを解いて! これで全てが解決するから!」
「......それでアルフレド様の身が魔導人形から解放されると言うのなら、私は喜んで従うわ」
例え、それがルミ姫を拐う計画に支障が出ても。
......いや、違う。
この計画はそもそもアルフレドの為にやっている。
当の本人が五体満足でなかったのなら、見事に本末転倒しているのだ。
思い、アカはキイロ言葉を承諾した。
三人の眼前に見慣れた存在が超特急で飛んで来たのは、そこから間もなくの事だった。
ヒュイィィンッ!
勢いが良すぎて、ソニックブーム染みた旋風がやって来る。
その中心にいた筋肉は、勢いを殺す事なく飛んで来た。
......自分の意思で飛んで来た訳ではない。
古代魔導人形の一撃を受けて、吹き飛ばれて来たのだ。
吹き飛んでいた筋骨隆々の男......つまりオリオンは、三人の真正面を横切る形で飛んで行き、
ドゴォォォォォンッ!
近くの建物に衝突していた。
衝突の勢いで、間もなく建物が瓦解する。
ゴゴゴッッ!
ガシャァァァンッ!
瓦礫が吹き飛び、崩壊して行く建物。
もはや、映画のワンシーンだ。
「ぬおぉぉぉぉっ!」
ボコッッ!
瓦礫から咆哮と同時にオリオンが飛び出す。
満身創痍は言い過ぎとは言え、相応のダメージを蓄積しているのは、誰の目からも明らかだった。
「オリオンさんでも、限界が近そうだな......」
キイロは苦い顔になる。
心の中では、切実に死なない事を願っていた。
アオの口が動いたのは、この直後の事だ。
「私は残る」
「......え?」
キイロはポカンとなってしまった。
「アオ姉、正気? 幾ら私達がドラゴンの血筋だって言っても、あんな化け物相手じゃ全然......」
そこまでキイロが答えた時、スッ......と、ゆっくり制止するかの様にアオが右腕を上げて来た。
顔は、不思議と穏やかな物になっていた。
「大丈夫。私だってそこまで無謀でもないし、馬鹿でもない。見た感じ、あの筋肉男は魔法とか使えない見たいだから、せめて回復や補助魔法でフォローを入れてあげるの。足手まといにはならない様に注意もするつもり」
「アオ姉さんっ!」
キイロは瞳から涙を流して、アオに飛び付いた。
「うわっ! もう! 何するのっ!」
「ありがとうアオお姉ちゃん! 大好きっ!」
「全く、アンタって子は」
アオは苦笑する。
思えば、アルフレドの下僕になる以前のキイロは、こうして無邪気に姉であるアオに甘える時もしばしばであった。
なんとなく懐かしさすら感じだ。
そうして気付いた。
キイロは変わったのではない。
元に戻っただけ。
ならば、自分も戻れば良い。
キイロにお姉ちゃんと呼んで貰えていた......大好きと言われていた、あの頃の自分に!
「ちゃんと、あの筋肉と時間を稼いで上げるから、そっちもちゃんとやりなさいよ」
アオは小粋な笑顔をキイロに向けて答えたのだった。




