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賞金稼ぎと古代魔導人形【3】

 途端にアオは身構える。


 キイロはちょっとだけ苦笑い風味の表情を作ってから口を開く。


「アオ姉さんと戦う気はないよ。姉さんの返答次第ではあるけど、今の所は姉さんに危害を加えるつもりで話し掛けてはいないから」


「......本当に良く分からないな」


 アオは眉間に皺を寄せて言う。

 そもそも、アオからすればキイロの態度は謎だらけ。


 ほんの数日前は自分達サイドの存在であったにも関わらず、アッサリと裏切っては、ルミ姫をかくまう側に付いてしまう。

 これだけでも謎だと言うのに、何故かキイロにあった束縛の呪いが開封され、今は心に余裕さえある。


 心の余裕から来ているのは、少なからず存在している彼女の幸福なのだろう。


 今のキイロは、アオから見ると幸せで一杯そうだった。


 故に......腹立たしい。


 ハッキリ言って不本意極まりない。

 今でもアルフレドの下僕にならざる得ないアオと、既に解放されて自由になったばかりか、とっても幸福そうな雰囲気をいたずらに撒き散らしているキイロとの差は、まさに雲泥の差だ。


 心の差がそのまま行動にも出てしまった。


 その憎しみの余り、彼女を半殺しにしてしまった程。


 アオの精神は、常人では考えられない程に酷く壊れていたのだ。


 しかしながら、仲間に助けられたキイロは、完全に回復した状態でアオの眼前に立っていた。

 当然、アオの心境は穏やかではいられない。


 只でさえ、謎の巨大魔導人形の出現によって危機的状況にあると言うのに......この上、自分を恨んでいるだろうキイロと遭遇していたのだ。


 半分は身から出た錆とは言え、泣き面に蜂とはこの事だと、アオは内心で激しく舌打ちする。


 だが、どう見てもキイロの様子がおかしい。

 少なからず、一度は殺され掛けて恨みを抱いているだろうキイロが、特に戦意を持つ事なくアオに接している。


 これら諸々の全てがアオには謎でしかなかった。


「私はね? 姉さん達にも幸せになって貰いたいんだ」


「......」


 穏和に語るキイロに、アオは無言だ。

 顔には、今だ懐疑の念が胸の中で渦巻いている。

 そもそも、キイロがアオを騙さないと言う根拠もないのだ。


 むしろ、半殺しにしていた分だけ、キイロがアオを貶める考えでいる可能性の方が圧倒的に高い。

 それ故に、アオもキイロに対する警戒を解く気になれなかった。


「私もアオ姉さんの気持ちが分かる。このニイガの街に来る順番がもし違っていて、アオ姉さんが先に来ていたら......きっと、立場は逆になっていたと思う」


 キイロは答えてから、目線を下にする。

 正直、自分で言って置いて難だが、そうであった場合の自分を想像すると、何と切ない事か。


 だからこそ分かる。

 見える物もある。


「アオ姉さんを私は助けないと行けない」


 何か一つでも違っていたら、確実に立ち位置が異なる現状は余りにも悲しすぎる。

 何より、姉を助けたい。


 ほんの少し前の自分と全く同じ境遇にいる、かえがえのない肉親を。


「一つ、聞きたいんだけど」


「何?」


「アンタの言葉を私が信じる事が出来る根拠はある? 私はアンタを半殺しにしてる。アンタに恨まれる様な真似だってしてる。それだけの事をしているのに、それでもアンタは私を助けたいと思っているの?」


「思ってるっ!」

 

 疑念しか持っていないだろうアオに、キイロは即座に叫んで肯定した。

 強い意思があった。

 もう、アオの心に強く響く様な強い意思を感じる瞳で、真っ直ぐに叫んでいた。


「......参ったな」


 まさか、ここまで言い切れるとは。

 アオは少し根負け気味になっていた。

 これでもアオはキイロの姉である。


 それなりの付き合いと言う物がある。

 そこから考えても、やっぱりキイロが嘘をついている様には見えない。


 そもそも、最初から疑って掛かる必要などなかった。

 

 ......そう。


 アオの疑念と言うのは、自分で勝手に被害妄想を誇大に膨らませた、有りもしない疑念なのだ。

 キイロを半殺したと言う、罪悪感から来ていた物でしかない。


「分かった。降参。アンタの言う事を信じて上げようじゃないの」


「......良かった」


 不承不承ながら、溜め息混じりでありつつも肯定の言葉を吐き出すアオを前にして、キイロは溢れんばかりの笑みを満面に浮かべて見せた。


 アオは、やっぱり唖然となる。

 ここ数日のキイロを見て分かっていた事だが、それでもつい思ってしまう。

 

 キイロは大きく変わった。

 多くの幸せを手に入れた事で心が豊かになり、豊潤な笑みで感受性溢れる表情を極々自然に作り出し、自分の意思で行動する優美かつ慈悲深い女の子になっていた。


 数日前のキイロとは別人だ。


 多くの絶望を植え付けられる事で心が枯渇し、殺伐とした表情を無気力に浮かべ、ただ言われた事をこなすだけの、無感情かつ無慈悲な操り人形だった冷徹なドラゴン・メイド。


 たった数日。

 この少しの時間で、どんな劇的ドラマがキイロに起きていたのだろう?


 アオは少し興味を持った。

 そして、願わくば......自分もそうありたい。


 故に、ここはキイロの話に耳を傾けたいと考えたのだった。

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