賞金稼ぎと古代魔導人形【2】
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「何......あれ?」
上空に突如として出現した、謎の超巨大魔導人形を見たアオは、唖然と呆然を程よく掛け合わせた様な顔で、虚空を眺めていた。
他方のアカは指して興味もなく口だけを動かして見せる。
既に興味もないのか、視線も空には無かった。
「さぁ? この街のショーか何かじゃない? 良く分からないけど、魔導都市だけあるわねぇ」
「いや、アカ姉。そんな冗談を言ってる場合? どう考えても危険過ぎるでしょ!」
平然と構えるアカに対して、アオはふためき口調で声を返した。
「別に、この街がどうなろうと、私の知った事ではないわ。勝手にすれば良いのよ」
「そ、そうかも知れないけど......ここにいる時点で、あの魔導人形が降りて来て暴れなんかしたら、私達だって無事では済まないでしょ!」
「その時は逃げるよ」
「......」
ケロッと平然とした顔のまま、冷静に答えていたアカに、アオは無言だ。
しかし、それでいて姉の言い分も理解出来なくはない。
あの魔導人形が、ここにピンポイントで降りて来たとしても、あのゴーレムが自分達を狙うとは限らないし、自分達も戦う理由がない。
つまり、スルーすれば良いだけの事。
「時々、お姉ちゃんの座った肝に、私の度胆が抜かれるわ」
「それは駄洒落のつもり? ふふ、つまらないよ?」
唖然としつつも、何処か感心もしていたアオを前にアカは軽く微笑みを見せていたのだが、
ドォォォンッ!
刹那、二人の周囲に強烈な爆風が巻き起こり、重低音が響き渡った。
「......降りて来たね」
アカは半眼になって正面を見据えた。
その先にいたのは、見上げないと全体が見えない程の......文字通り山の様な魔導人形が眼前に仁王立ちしていた。
「まさか、本当に私達の前に来るなんて......」
アオは蒼白になる。
しかし、アカの言う通り、魔導人形と戦う理由も義理もない。
例え、自分達の正面にやって来たからと言って、二人がなんらかの攻撃をする筋合いなどないのだ。
「逃げよっ! アカ姉さん!」
変な汗を出しつつ、苦笑しながら声を掛けるアオ。
しかし、アカは全く動こうとはしない。
愕然となったアカは、身体の全てをフルフルと震わせて衝撃的な表情のまま、その場から一歩も動く事なく、魔導人形だけを見ていた。
しばらくして、アカは呟く。
「アルフレド......様? どうして......?」
何がどうなっているのか分からない? 困惑した顔がそうと無言で語っていた。
「アカお姉ちゃん? な、何? どうしたの?」
突然、茫然自失状態で全身を震わせていたアカに、アオは不思議極まりない顔付きで声を掛けた。
その直後、
『グォォォォッ!』
古代魔導人形が雄叫びの様な大声を上げて、右手をアカ目掛けて振って来た。
「お姉ちゃんっ!」
アオは叫ぶ。
しかし、手のひらだけでも自分の身体よりも大きな右手の一撃は、アオの予想以上に早く、アカを救い出す余裕など無かった。
まさに万事休す。
アオは思わず目を瞑ってしまう。
そのまま、アカは古代魔導人形の一撃で激しく吹き飛ばされてしまう......と、思った瞬間。
「ふぬりゃぁぁぁっ!」
ドォォォンッ!
おおよそ、予測も出来ない激音と同時に、一人の筋肉男が古代魔導人形の一撃を止めた。
「......うそ」
アオは目をパチクリをさせてしまう。
超人としか他に形容する事の出来ない、身体を張ったガード方法で、小山程の巨大な魔導人形の一撃をピタリと止めたのだから。
一体、あの筋肉は何者だろうか?
思わず、そんな事を内心でのみ呟いていた所で、筋肉男は大声で叫んだ。
「何してるっ! サッサと逃げろ! 死にたいのかっ!」
声高に、激しく捲し立てる。
「......」
アオは無言になる。
見る限り、異常に筋肉が発達している事と、無駄に体格が良くて背が高いと言う事を抜かせばただの人間でしかない。
しかし、その人間は巨大魔導人形の一撃をしっかりと受け止め、更に戦闘を挑もうとしているではないか。
「あ、あんたこそ! ただの人間の癖にいきがると、ロクな事にならないよっ!」
アオは反論する形で叫んだ。
彼女からすれば、ドラゴン・ハーフの自分よりも強い人間などあり得ない。
むしろ、人間ごときが魔導人形に戦いを挑んでいる時点で無謀な行為でしかないのだ。
「そこは大丈夫。きっと......ううん、確実にアオ姉よりオリオンさんは強いから」
直後、後ろから声がする。
声の主はアオにとって妹にあたるドラゴン・ハーフの少女。
「......キイロ?」
アオは少しだけ驚きながら声を吐き出した。




