賞金稼ぎとドラゴンメイド(アカとアオ)【21】
「それでは、王子......いえ」
そこまで答え、伝承の道化師は言葉を止め、ニィと笑う。
相変わらずの毒々しさを見せて。
「新ニイガ王。新しい時代を築く王よ。その目で新時代の幕開けを見届けて下さい」
言うなり、伝承の道化師は右手をスゥ......と上げる。
街の上空に、超巨大な魔神染みた魔導人形が出現したのは、そこから間もなくの事だった。
「.........」
ルイは愕然となった。
まさか、いきなり街の上空に瞬間移動させるとは思ってもいなかった。
「何をする気だ?」
「細やかな起動テストですよ殿下。街の被害も最小限に抑えます。研究所も魔導人形がいきなり消えた様にしか見えないでしょう。つまり、なんらかの暴走としか見えない筈」
「街の被害は本当に最小に止まるのだろうな?」
「もちろんです、殿下。そうですねぇ......現在での予定死者数は一人だけでしょうか? ルミ・トールブリッジ・ニイガさんと言う薄幸の少女が、この暴走事故で死亡する予定になっている。それ以外の損害は、可能な限りゼロに抑えるつもりです」
「......そう言う事か」
ルイは納得加減の声音を吐き出す。
つまり、暴走事故と言う名の暗殺。
「以前に申したかも知れません。彼女は殿下にとって大きな脅威になります。第一王位継承権を持つ殿下を差し置いて女王になる......未来への時間の矢に異変が起きない限り、確実にそうなります」
そこで、起こそうと言うのである。
......異変を。
「わかった」
ポツリと頷く。
ハッキリ言うのなら、これは王子にとっても大きな賭けだ。
まかり間違うと、即日中にも王子としての権利すら剥奪された挙げ句、咎人として捕らえられてしまう。
だが。
ここで、伝承の道化師が言う『異変』を起こさない限り、ルイは遅かれ早かれ破滅の道を辿るのだ。
ならば、ここで異変を起こす。
そして、この異変こそが、ルイの胸で渦巻く野望の序章になるのだ。
「ルミよ......お前はニイガ国が世界を平定し、新たな巨大帝国として君臨する事になるだろう礎として、今宵の序幕にその血を、私に捧げよ」
狂気にも似た、不気味な微笑みを色濃く作り、ルイは城下町の上空に出現した超巨大魔導人形を頼もしげに見据えていたのだった。
次回に続く




