賞金稼ぎとドラゴンメイド(アカとアオ)【20】
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完全に陽が沈み、ぼちぼち夜の街並みに変わりつつあったニイガの街。
夜景も一望出来るニイガ城内のテラスに、一人の青年が立っていた。
豪奢なアクセサリーで身を纏めていた青年は、この国の王子にして次期ニイガ王としての第一継承権を持つ人物だ。
名前をルイ・トールブリッジ・ニイガ。
王子......ルイは、眼下に広がるニイガの街を穏やかな表情で見据えていた。
しかし、その内面に存在する彼の野心は、その穏やかな表情からは予測も出来ないまでに渦巻いていたのだった。
ブゥンッ......
その時、ルイの背中辺りの空間が歪んだ。
こんな不自然な現象を起こせるのは、ルイが知っている限り、一人しか知らない。
故に彼は悟った。
ヤツが来た、と
「久しぶりですね、王子」
「......そうだな」
王子の後ろから出現した人物......伝承の道化師の言葉に、王子は軽く頷いてみせる。
「それで? こんな所に私を呼び出したと言う事は、相応の理由でもあったのかな?」
そこから、穏やかな口調で、伝承の道化師に尋ねた。
少し前、側近から伝承の道化師を名乗る者が、王子をニイガ城のテラスに来て欲しいと言われたのだ。
そこで、王子はテラスへとやって来る。
程なくして、伝承の道化師が姿を現した。
「そうですねぇ......手筈が整ったとでも言うべきでしょうか?」
ニヤリと毒々しい笑みを作りながら言う。
「手筈? どう言う事だ?」
「貴方は所望しておりましたよねぇ......古代魔導人形の復活を」
「まぁ、そうだな」
ルイは短く頷きだけを返してみせた。
実際に、彼は城内の魔導研究施設の中に眠る、古代魔導人形の起動を考えていた。
理由は単純にして明快な物だ。
通常の魔導人形とは比較にならない、オーバーテクノロジーとも表現出来るだろう、最強最悪の古代兵器であったからだ。
「あの古代魔導人形さえ、しっかり起動させる事が出来れば、私はこのニイガはおろか世界すらも掌握出来る......」
ルイは含み笑いそのままに答えて見せる。
現時点では解析値でしかないのだが、その能力は人智の力を遥かに越え、世界を手中に納める事すら視野に入ってしまうまでに強大な存在でもあったのだ。
胸に激しい野望を燃やすルイにとって、必須の道具でもある。
この古代魔導人形を手にした暁には、手始めにニイガを牛耳り、国の全てを自分の手で操作可能にした後、徐々に世界へと進出して行く。
そして、最終的には全世界の全ての人間を自分に屈服させる事。
これが彼の野望であり、最終目標でもあった。
果たして。
「あの古代魔導人形を動かすには、一つの鍵が必要なのですよ」
「鍵か」
「そうです。古代魔導人形とシンクロ可能な人間の精神。これが必要だったのですよ」
「そんな物が......」
伝承の道化師の言葉に、ルイはやや驚く形で答えた。
ニイガ城下町から徒歩二日程度の所にある古代遺跡から発掘され、研究が開始されてから丸一年が経過していたのだが、そう言った解析結果を聞いた記憶がなかったのだ。
だからだろうか?
古代魔導人形は、未だに起動の目処すら立たない。
理由は簡単である。
起動する為の条件すら解析する事が出来なかったからだ。
だが、しかし。
「いやぁ......今回はかなり骨を折りましたよ。あの方、人を信じると言う行為を今までした事がなかったと見える。大分、私も尽くしたと思ったのですがね」
「ほう......」
とても大変だったと言う素振りを、演技めいた態度でわざとらしく大仰にやっていた伝承の道化師を前に、ルイは意外そうな顔になった。
「アルフレドのヤツは、そこまでお前を手こずらせていたのか」
「おやま......気付いておられましたか」
「まぁな。ただ、お前の目的が古代魔導人形の起動であった事は、今知ったよ......ふふふ、そうか。ヤツが鍵だったのか」
答え、全てを理解した顔になる。
「どうしてお前程の存在が、地方貴族の息子ごとき小物に、あれだけの執着心を持って接していたのか? その理由がな」
当初の予測では、ルイにとって後々邪魔になるだろうルミ姫を、アルフレドが勝手に拐うだろうと考え、力を貸しているだけであると思っていた。
だが、そうでは無かった。
本当の目的は別に存在していたのだ。
真の目的......それは、
「あの古代魔導人形を起動する為の鍵として、アルフレドを騙す必要があった訳か」
それには、一定の信頼関係がないといけなかった。
故に、伝承の道化師は、彼の願望を次々と叶え、彼の信頼を勝ち取ろうとしていたのだった。




