賞金稼ぎとドラゴンメイド(アカとアオ)【17】
......誰だ?
その場にいた全員が、玄関ドアに注力する。
現状、仲間と呼べる人物は全てここにいる。
正確に言うのなら、ここにいない人物もいる事はいる。
例えば、賞金稼ぎ組合の組合長等の可能性だってある。
しかし、彼がわざわざここに訪ねて来る事など皆無に等しい。
そこを考慮するのなら、今の玄関ドアをノックしている存在は、敵である可能性の方が濃厚と表現しても良い。
飽くまでも可能性の問題であったのだが。
果たして。
「あのぅ......夜分にすいません。こちらにルミと言う方はいらっしゃいますか?」
女性の声がした。
地味に礼儀正しいが、聞いた事のない声だ。
オリオンとイリ、キイロの三人に緊張が走る。
他方、一人だけ意外そうな顔をポカンと作っていた人物もいた。
ルミ姫、その人である。
「リリィ? リリィなの?」
「あ、その声は、姫様! ぐむぅ......何やってるんですか! こんな変なトコで寝泊まりなんかして! 王が血反吐を吐き出しそうな位、すんごぉ~く心配してましたよっ!」
声の主......リリィと呼ばれた女性は、何やら地味にぷんすか怒った声音で言っていた。
ルミは口を引き釣らせた。
「知り合い?」
そこでキイロがルミに聞いて見る。
「そうだねぇ......私の教育係で、身の回りの世話とかもやってくれた人。年はリリィが三つ上なんだけど、もう幼馴染みと言うか、お姉ちゃんみたいな感じの人だね」
「そ、そうか」
オリオンは安堵の息を吐いてから言う。
どうやら、敵ではない模様だ。
「入って貰って......あ、キイロ。お茶もよろしく」
そこからイリが言って見せる。
正直、尋常ではない疲労と倦怠感で、身体を動かすのもやっとではあったのだが、姫の客人を門前払いにする訳にも行かない。
ガチャッ!
「こんばんはリリィ。おひさ~」
ドアを開け、精一杯の愛想笑いを全力で作ったルミがいた。
他方のリリィは、
「本当にお久しゅうございます、ルミ王女。相変わらずと言うか何と言うか、本当に貴女と言う方は......」
呆れと怒りとを程よくごちゃ混ぜにして、脱力感で極まっている顔を憮然風味に浮かべていた。
「そんな、怖い顔しないでよ。ここも結構、暮らしやすいんだよ?」
「本当ですか? 私には馬小屋以下にしか見えないのですが......」
もう、懐疑で顔が組み立てられてる様な表情になっていたリリィは、しばらくしてハッとなり、
「あ! そ、その......家主さんが貧相だとか、貧乏で下品だとか! そう言った事を申してる訳ではございませんよ! 飽くまでも王室の姫君らしからぬ場所だと申したいのです!」
アタフタとふためきながら、更に火に油を注ぐ様な台詞を口にしていた。
きっと、悪意はないのだろう。
あるいは、ただの天然なのか?
仮に天然であったとするのなら、ルミの天然な部分は彼女が行った教育の賜物であろう。
なんて迷惑な教育をしてくれたのだろうか?
とにかく害がない事だけは分かった。
現状で最も重要なのは、ここだろう。
「それで、いきなりこんな夜に非常識な訪ね方してるのに、失礼な事を平然と言ってるリリィは何をしに来たの?」
「さっきから、トゲと皮肉と悪意しか感じられないのですが、気のせいですか?」
「安心して。それが私の本音だから」
「わざとだった!」
リリィはガーンッてなっていた。
「とにかく、今は立て込んでるの。用事があるのなら火急的かつ単刀直入に答えて」
「どうして私は、そこまで王女に邪険な扱いを強いられるんでしょう?」
リリィはつまらない顔になって言うと、ルミが思いきり睨んで来た。
流石にお姫様の怒りはリリィにテキメンだった。
「......まぁ、立て込んでるのなら仕方ないですね。用事はこれです」
かなりビビったリリィは、言われた通り単刀直入に述べた後、ポケットから一枚の手紙を取り出してルミへと手渡した。
「学友のリダ様から宛られた手紙が、どうしてか王室に届けられましてね? それを渡しにやって参った所存です」
「なるほど、リダの手紙か」
軽く手紙を開封すると、何故かクシマ国内コーリヤマの街宛の封筒がセットで入っていた。
内容を確認する。
どうやら、ニイガの魔導全集を貸して欲しい模様だ。
可能なら、本その物を一冊貸して欲しいとの事。
別に貸すのは構わないのだが、分厚い重版の本を、どうやって封筒に入れるかで悩んだ。
答えは手紙の中に書いてあった。
同封されている封筒は、リダが空間圧縮魔法を掛けているらしい。
それらの文面が、やたら大層な敬語を使って書かれていたのだった。
「リダが敬語を使うと、別の生命体みたいで気持ち悪いなぁ......」
それがルミなりの感想なのだろうが、本人が聞いたら激怒しそうな勢いだった。




