賞金稼ぎとドラゴンメイド(アカとアオ)【14】
ともあれ、現状は危機的ではある物の、問題はまだ発生していない。
願わくば、このまま無事に時間が過ぎ去ってくれる事を祈る。
祈りはしたんだが。
「私達に狙われているのを知っていると言うのに、ノコノコと街に出て来るなんて......凄い余裕なのね」
......祈りは通じなかった。
否、少しは通じているのかな?
やって来たドラゴン・ハーフは一人だけだった。
王子の息が掛かっている人拐いか暗殺者か......まぁ、どう転んでも剣呑な奴に違いない連中がやって来る様子もない。
ここから考えると、まだ俺にも運があると見て良いのだろう。
「......っ!」
明らかに敵対しているだろう人物により、ルミは息を飲んで俺の背中に隠れた。
怖いなら、素直に自宅待機してくれませんかねぇ! お馬鹿姫っ!
「俺から離れるなよ」
あーあ。
結局は、こうなるんだな。
まぁ、良い。
「俺の名前はイリって言うんだが......名前位は聞いても良いか?」
「そうね。自己紹介を私も忘れてたよ。私の名前はアカ。色々理由があって姓はなくなってる」
そう言えばキイロもなかったな。
家系から外れた存在扱いなんだろうか?
まぁ、そこらは俺が考える事じゃないか。
「じゃあ、イリさん。取引と行きましょうか?」
「は?」
行きなり何を言い出すんだ? コイツ?
「貴方は、ニイガ国から雇われた護衛でしょう? それなら、それ以上の金額をこっちが提示すれば、取引も成立するでしょう?」
アカは穏やかに、淡々と口を動かして行った。
ああ、そう言う事な。
だけど、さ?
普通、護衛って仕事してる奴ってのは信頼が命なんじゃないのか?
依頼主より良い金額を提示するから見逃せとか、普通はしないと思うぞ?
よしんば、そう言う馬鹿がいたとして、だ?
「俺は金でルミを護ってる訳じゃないんだ。幾ら金を積まれても、お前の言う取引ってのには応じる事が出来ないなぁ」
俺は鼻で笑って言う。
目は侮蔑の色で染まっていた。
こう言う、金で何でも解決出来ると思ってる奴が、俺は一番嫌いなんでな!
「そう、残念。取引に応じてくれたら、護衛の報酬の倍を提示する上に、貴方達の安全も保証して上げようと思ったのにね」
アカはクスクスと笑った。
続けて、彼女は口を動かす。
「じゃあ、苦しんで貰おうかしら?」
答え、アカは俺に何かを飛ばした。
......?
何だ?
「何をしたんだ?」
「さぁ? 何の事か、分からないねぇ......ふふ」
間違いなく惚けていたんだが、正直真面目に何をされたのか分からなかった。
挙げ句、アカはそのまま踵を返して、どこかに行ってしまう。
「多分、そうそう遠くない内に......そうね、明日にでも私の取引に応じてくれると、私は信じているから」
去り際に、常人には出来ない様なおぞましい笑みを浮かべながら、アカは俺にそうと言ってみせた。
何がしたい?
遅効性の毒でも塗られたか?
いや、もしそうであったとするのなら、チクリ程度の痛みはある。
どんな形であったとしても、血液に混じらないと毒は意味がないからだ。
だが、そんな痛みすらなかった。
マジで良く分からない事をしてくれた物だと、この時の俺は思った。
その意味が分かった時には......既に手遅れになっていた事もまた、この時の俺には理解する事はできなかった。
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「上手く行ったよ......ふふ。無駄に自信があってくれて助かったかもね」
そうと答えていたのはアカだ。
「そう......それにしても、そんな物、良く持っていたね」
アカの言葉に軽く返事をしていたアオは、少しだけ引き釣った顔になっていた。
それは驚きであり、恐怖でもあった。
その根元にあったのは、アカの右手で蠢いている......何かだ。
ハッキリと物を言うのであれば、右手に持っているアカ本人も正確に何であるのか分かっていない。
分かっている事は、伝承の道化師が、ルミ姫を拐おうとしている一連の目的をより確実に完遂して欲しいと言う理由から、アカにくれた物でもある。
それ以外は、全く判然としていない。
つまり、二人にとってもアカの右手で蠢いている存在は、得体の知れない謎の物体でしかない。
正確に言うのなら、謎の古代魔法とでも言うべきか?
別段、伝承の道化師から説明を受けた訳ではなかったのだが、魔力染みた何かを感じる所からすると、なんらかの魔導器の類いではないかと予測出来た。
そして、伝承の道化師が主に使う魔法は古代魔法。
ここから予測しての事だった。
詳細は謎ばかりだが、効果だけは聞いている。
この謎の物体に一瞬でも睨まれると、睨まれた対象者は必ず自分の能力を減退させて行く。
その兆候は、その日の夜から。
以後、時間の経過と同時に力が減衰して行き、最後は衰弱死すると言う。




