賞金稼ぎとお姫様【1】
■イリ■
朝もやの中、俺は目を覚ました。
「ふぁ……あぁ………」
欠伸をかましながら、俺はノソノソとベットから身体を起こした。
昨日は仕事で、結構遅くまで頑張ってたからなぁ……地味に眠い。
ま、今日は特に仕事もないし、入れる気もない。
オリオンのヤツと気晴らしに酒場でも行こうか。
コンコンコン!
ドアからノックの音がした。
誰だ? こんな朝早くから……そんな事を考える。
言うのを忘れたが、ここは俺が住んでるあばら家だ。
ニイガの首都・ニイガの城下町から少し離れたスラム街。
そのスラム街の一角にある、オンボロの建物が俺の居城さ。
見た目は悪いし、いささか不便だが……住めば都ってヤツだ。
慣れれば、これはこれで愛着がわく。
……っと、それよか、客だな。
俺の自宅は至ってシンプルだ。
寝室兼リビングでもある、この部屋とバスルーム。
それにキッチンがあるだけだ。
よって、叩いてるドアがそのまま玄関って事になる。
俺はゆっくりと立ち上がり、ノックされたドアを開けて見た。
「ふぁ~い、どなた?」
「よぅ! 暇人!」
俺のテンションは下がった。
朝から暇人に暇人呼ばわりされた精神的ショックは致命的だった。
「お前よりは暇じゃねぇ……眠いから他あたれ」
俺はドアを閉めた。
今日の予定は、ドアの向こう側にいた真の暇人を相手に酒場へと行く予定だったが、さっきの一言でキャンセルする事にした。
馬鹿にしやがって!
俺にだって、ちゃんと予定はあるっての!
これからの予定は……えぇと……。
………。
「おい、イリ! どうせ予定なんかないのに、強引に何か予定考えてるんだろ? そう言うヤツを暇人って言うんだぞ!」
やかましいわ!
ドアが薄いから、暇人の声がダイレクトに聞こえて来る。
「そんな暇人に朗報だ! 姫様の用心棒をするだけで十億マールの報酬が出る仕事を持って来てやったぞ!」
……は?
俺はつい、口を開けてしまった。
姫様……だと?
何を言ってるんだ、こいつは?
「とにかく、ここ開けろ! お茶くらい出せ。こんなウマイ話し、滅多にないぞ?」
……そりゃ、確かにな。
昨日の仕事だって、一千万の仕事だった。
それだって、ソコソコの仕事だ。
言って見れば、一晩で一千万になる訳だからな? そりゃ、割はそこまで悪くはない。
破格とまでは行かないが……だ。
しかし、真の暇人が見付けて来た仕事は、明らかに破格だ。
どの程度、面倒を見ていれば良いのかは知らないが、姫様のボディーガードをしているだけで十億もの大金が転がって来る。
当然、美味しい。
美味しいが……だ?
この話しには、少し苦言を呈したい。
まず、俺は賞金稼ぎだ。
用心棒ではない。
てか、ちゃんと専門の組合があるんだから、そっちに行けと言いたい。
用心棒組合はないが、剣士なり戦士なりの組合はある。
つまり、然るべき機関があって、そこでボディーガードを雇えば良いと言うだけの事。
そこを、なんで賞金稼ぎとか言う……全く的外れの人間が用心棒をしないと行けないのか?
全く……依頼して来た人間の気が知れない。
次に依頼してる相手が王族だと言う事だ。
姫様って……。
こう言っては何だが、ニイガって国はそこらの小国の何倍も凄まじい国力を誇る大国だぞ?
なんで、そんな大国の姫様が、よく分からない馬の骨を更に厳選している、よく分からないオブよく分からない職業の俺達にわざわざボディーガードを頼むんだ?
その非現実さは、丸めた鼻くそを飛ばして魔王を倒す位、非現実な話しだった。
正直、おかしな話し過ぎて……真面目に聞いても良いのかで悩む。
まぁ、しかし。
取り合えず、ドアくらいは開けるか。
ガチャ!
「お、ちゃんと話しを聞く気になったか?」
「……ちゃんと聞いても良い話しならな」
俺はお前と違って、暇人じゃないからさ。
「一応、先に一つ聞いて置く。依頼主は王家だとして、わざわざ俺達に斡旋した馬鹿は誰だ?」
「そんなの決まってるだろ? 俺達の所属してる組合長だ」
「……はぁ?」
再び呆けた。
こいつが言ってる組合長ってのは、賞金稼ぎ組合の長って意味だ。
クロノスって名前のヤツなんだが……俺が知る限り、こんなクレイジーな仕事をわざわざ俺に斡旋して来る様なオツムの持ち主ではない。
「なんだよ……とうとう、ドラッグでも始めたのかよ、あのオッサン……」
確実に気でも狂ったんだろうなぁ……何か悩みでもあったのなら相談に乗ったのに。
「いや、正気も正気だ。話しによると……昔、ニイガ王とそれなりの付き合いがあったらしい」
……まじ?
無駄に交遊関係が広いな!
俺はクロノスの大海原染みた広さの交遊関係に驚いた。