賞金稼ぎとドラゴンメイド(アカとアオ)【8】
「何にせよ、これでなんとか一件落着だな」
しっかりと意識を回復させたキイロをしっかりと確認してから、イリは穏和な笑みで答えたのだった。
■□■□■
他方、その頃。
「......凄いね、アイツ」
路地裏付近の建物の屋上に立つ二人のドラゴン・メイドが、キイロを助けるイリの救出劇を軽く見据えていた。
一部始終を見ていたのだが、明らかに人間業ではない。
「アイツも、私達と同じで人間ではないのかも知れない」
答えたのは、キイロがアカ姉と呼ぶ女性。
連れ去られた三人のドラゴン・ハーフでは長女に値する女性でもあった。
「可能性は高いね。これはかなり用心して掛からないと」
その隣にいた、キイロがアオ姉と呼ぶ女性。
次女に当たるのだが、顔と良い見た目と良い、アカと類似する点が目立つ。
それもその筈。
二人は双子のドラゴン・ハーフであったからだ。
キイロはそこから数年程度遅れて生まれ、二人の妹として三人姉妹と言う関係を築いていたのだった。
実際、昔からとても仲の良い姉妹でもある。
それは、今後も変わらない......筈だった。
しかし、その仲は虚しくも崩壊してしまうのだ。
「......」
アオは不機嫌極まりない顔になる。
キイロの幸せそうな顔が、物凄く憎かった。
それは嫉妬に繋がる何か。
一人だけ幸福を見付け、未だ地獄の最中にいるアオとは比較にならない生活を勝ち取っている事への羨望。
そうなのだ。
この時のアオは思った。
どうして自分だけ?......と。
狂気の中にあるアカは、もうアルフレドに仕える事は苦とはしない。
むしろ、己の意思でそうしているのだ。
他方のアオは、少し前のキイロと同じだった。
ズバリ言ってしまうのなら、このまま死んでも一向に構わない。
現状の不条理極まる身の上に終止符が打たれると言うだけの話だ。
むしろ、清々しいとさえ思う。
所がどうだろう?
先程のキイロの顔は、生気に満ち満ちていたではないか!
すると、不幸のどん底に心を沈ませているのは、三姉妹の中ではアオ一人だけとなってしまう。
「キイロ......アンタだけ幸せになるとか、ふざけてんじゃないよ」
どす黒い、憎悪の塊がアオの精神を支配していた。
何とも無様な自分。
どうする事も出来ない呪縛から、未だ逃れる事も出来ず、足掻いているだけの自分。
「そうだな。そこは分かる......だが、アオ。キイロは何よりもアイツらを選んだ。それが私には許せない」
静かな怒りを言霊に乗せるアカがいた。
アオは無言のまま、コクリと頷きだけ返した。
「今日の所は、これで勘弁してやるが......キイロ。そしてルミ姫。首を洗って待っている事だな」
答えたアカはニィ......と、不気味かつ妖艶な笑みを濃厚に作りつつ、姿を消した。
「キイロ。この代償は高く付くぞ。そこだけは忘れるなよ」
そこから、吐き捨てる様にアオは呟くと、アカと同じく忽然と姿を消すのだった。
■キイロ■
夜になった。
何だかんだで色々あったけど、五体満足で生きていられる事に、私は神様に感謝した。
神様はいたと思った。
だって。
「......すぅすぅ」
疲れたんだろうイリが、熟睡状態で寝ている......その姿をこうしてゆっくりと見ていられる時間を神様は私に与えて下さったのだから。
あの時に死んでいたら、絶対に叶わない事なのだ。
あの時に生きる選択肢を貰えたから叶った事なのだ。
本当に本当に感謝します! 神様!
そして、イリにも。
後で話を聞いて分かったんだけど、イリが必死で私に復活魔法を掛けてくれて、それでようやく息を吹き返したらしい。
どうやら、イリは私にとって命の恩人にまでなってしまった模様だ。
......ありがとうね。
大好きだよっ!
愛しさが無限に膨れ上がるのが私自身、良く分かった。
これが人を好きになる事なのかと、心から理解した。
今では、もう虜になってると言っても過言ではない。
イリが近くにいれば、私は他になにも要らない。
そっと、寝ているイリの頬を撫でる。
温もりが、手のひら一面に広がる。
この温もりは、どんな価値をも凌駕する、かけがえのない大切なモノ。
温もりを感じているだけで、無尽蔵の幸せが私の心にやって来て、穏やかに満たしてくれる。
誰にも渡せないし、これだけは渡したくない大切な宝物。
まぁ、だからね?
「......いい加減、ちゃんと寝たら?」
ジト目で言って来たルミ姫様は、この宝を狙う最大の脅威でもある。
てか、さぁ?
「ルミって姫じゃない? そもそも、王家の人間ならさ? 相応の場所で寝泊まりするのが常識じゃない?」
私は極めて真っ当な正論をルミ姫に叩き込んでやった!




