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賞金稼ぎとドラゴンメイド(アカとアオ)【7】

「息吹が宿った......って事は、大丈夫なの?」


「ああ、ここまで来れば大丈夫! 成功だっ!」


「良かったっ!」


 ルミの顔に笑顔が生まれた。


「オイッ! 近所の病院から、回復魔導師ヒーラーを呼んで来たぞ!」


 直後、野次馬を掻き分ける形で息急き切ってやって来たオリオンがいた。

 どうやら、近くの病院に向かって行き、外来が可能の先生を捕まえていた模様だ。


 ある意味で手際の良い人物である。


「ああ、そうだったのか、助かる」


 オリオンの言葉にイリは笑みで答えた。

 何だかんだで、どうにか一命は取り止めたが、ちゃんとした医師に視て貰った方が、より確実であったからだ。


「うぅぅ......ん」


 そこで、キイロが唸る様な声を吐き出して見せる。

 まだ弱々しいが、確実に意識が覚醒するのも分かった。


「キイロッ!」


 重い目蓋をこじ開ける様にゆっくりと開けたキイロを見た瞬間、イリは心情的な衝動そのままに彼女を抱き締めていた。


「うぷっ! い、いきなり何?」


 うっすらと意識が覚醒へと向かっていたキイロはは、イリに抱き締められた事で瞬時に思考をクリアな物にさせて行く。


「良かった! 本当に良かった!」


 情熱的な激情を言霊に乗せ、イリは泣きながら彼女へと叫んでみせた。


「イリ......」


 キイロはちょっとだけ、はにかんだ顔になる。

 嬉し恥ずかしとはこの事だと、本気で思えた。


「ぐぅ...むぅ...」


 他方のルミが凄く複雑な顔になってイリとキイロの二人を見ていた。

 文字通り、複雑な心境になっているのだろう。

 キイロが助かったのは嬉しいし、それを喜んでいるイリの気持ちも分かる。

 だが、ちょっとくっ付き過ぎでは?


 そして周囲の目もちょっと気になった。

 意識が無くなっていたから、今の現況と言う物をちゃんと把握していないのだが、どういう訳か人だかりが出来ていたのだ。


 多分、キイロが血だらけで倒れていた事が素因なのだろう。

 しかし、問題はそこではない。


 皆が見ている大衆の面前で、抱き付き会ってる二人の乙女。

 

 これを、どう捉えるだろうか?


「......」


 キイロは無言になる。

 い、いや......ここは少し考え過ぎだろう。


 同性であっても、仲の良い友達であるのなら抱擁くらいはする筈。


 ただ、ここまで熱い抱擁となると......どうなんだろう?


 ふと、百合色の世界な方と勘違いされていそうな気になって怖い。


 イリの事は確かに好きだし、愛してるとさえ思う。

 少し前までは、ちょっとした恋心に近い感覚だったが、今は違う。

 さっきの一件で、キイロの中にあった恋心のレベルが超絶アップしていた。


 よって、男のイリなら問題なかった。

 百歩譲って、周囲に人がいないのなら、それでも構わないと考える。


 イリはキイロが半分ドラゴンであっても、それを受け入れてくれた。

 ならば、キイロもキイロで半分が女性であるイリの全てを受け入れたい!


 男であっても女であっても、イリである事に変わりはないのだ。

 なら、同性になっている状況であっても、イリを素直に受け入れる......同等の愛情を傾けたいと本気で思っている。


 いるんだけど。


「う、えぇと。も、もう大丈夫だから」


 しかし、赤の他人にレズと勘違いされるのは甚だ不本意でもあった。

 

「そうだよっ! キイロも迷惑がってるし、離れなさいよっ!」


 迷惑ではないぞ!

 ......と、思わず口から出そうになったキイロだが、敢えて口にする事はなかった。

 ここでその言葉を出すと言う事は、結果的に大衆の前で『私は同性愛者です』と宣言している様な物だったからだ。


 今のキイロは、そこまでの勇者にはなれなかった。

 程なくして、病院の先生でもある回復魔導師ヒーラーの人がキイロの前にやって来て、軽く診察して見せた。


「......驚いたね。周囲の人から聞いた話だと、血だらけの女性が倒れていて、もう既に死んでると聞いていたんだが」


 誰がそんな縁起でもない事を抜かしたんだと、イリが胸中でのみ毒突いていた。


 もっとも、口に出すにまでは至らなかったが。


 野次馬の言ってる事は少し語弊があったかも知れないが、確かにキイロは血みどろのまま倒れていて、半死半生状態であったからだ。


 だが、そんなキイロが今では意識まで回復していた。

 そればかりか、身体のあちこちにあったろう傷が、その片鱗すら残す事なく綺麗になくなっていた。


「この魔法を使った人物は誰だね? 良かったらウチで働いてもらいたいのだが?」


 割と本気で言う先生がいた。


「さぁ、誰でしょうね?」


 イリは空惚けた。

 どうやら、まだ賞金稼ぎを辞めるつもりはないらしい。 

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