賞金稼ぎとドラゴンメイド(アカ・アオ)【6】
魔法が発動した瞬間、キイロの身体が上位復活魔法の光に包まれる。
一見すると、キイロに復活魔法が効いた様に見えるが、ここまでは魔法が発動した時点で、成否に関係なく発生する。
成否が決まるのは、ここから少し時間が必要だ。
成功すれば、キイロの生命に息吹が宿り、文字通り息を吹き返す。
だが、失敗すれば呼吸停止のまま心臓まで止まり、キイロの人生が終焉を迎える。
私が出来るのはここまでだ。
後は、キイロが復活魔法によって生き返る事を願うしか、他にする事はない。
「こんなままで良い訳ないだろ? キイロ? お前は......お前は生きないとダメなんだよっ!」
私は生まれて初めて、神に祈った。
■キイロ■
真っ暗だった。
ここは何処なのだろう?
そうと、ぼんやり考える。
暫くして、思い付いた。
ああ、私は死んだのか、と。
「呆気ないもんだなぁ......」
上下の概念すら良く分からない暗闇の中で私は呟いた。
一時は、死ねる事を至福と考えた頃もあった。
未来永劫続くとさえ思った、苦渋の数々。
その先には絶望しかなく、死こそが私に残された最後の自由への道標になっていた。
けれど、実は終わりがあって。
絶望の終止符が打たれた先に待っていたのは、何物にも変えられない幸福があった。
ほんの少しだけど、幸せを実感する事が出来て。
生きている事の喜びを心から感じる事が出来て。
こんな日がいつまでも続けば良いなと胸を踊らせていた。
その矢先に、私は二人の姉に惨殺されてしまった。
二人の姉を責める気はない。
姉達はアルフレドに命令されてやっていたのだから。
絶対服従を強制したアルフレドによって、私を襲っただけに過ぎないのだから。
「そっか、死んだか......私」
呟く。
返事は当然ながら誰からも返って来ない。
ここにいるのは、私だけなのだから。
もう、イリに会う事は叶わないのだから。
涙が......出た。
本当に不思議だ。
ほんの数日前であるのなら、やっと死ねたと手を叩いて喜んだであろう。
やっと、アルフレドの束縛から解放されたと心から喜んだろう。
でも、だけど。
私の涙は一行に止まる気配はない。
イリ......会いたいよぅ。
あなたに出会ってしまったのは、果たして幸運なのか? それとも不運だったのか?
私にその答えを紡ぎ出す事は出来ない。
今はただただ......イリに会えなくなってしまった自分と言う存在に激しい侘しさを感じた。
死ぬ事は怖くない。
死を希望してた時すらあった。
なのに......なのに。
今の私は違った。
切実に、魂の叫びとも言える、心の根底にあった欲望が私を大きく揺さぶった。
そして、その魂の揺さぶりに私は忠実に従うのである。
「私は......生きたいっ」
そうと叫んだ時だった。
仄かな光が、私の眼前に生まれた。
あれはなんだろう?
とっても暖かい。
程なくして、仄かな光の先から声が聞こえて来た。
「こんなままで良い訳ないだろう? キイロ? お前は......お前は生きないとダメなんだよっ!」
イリの声がした。
とっても感情的で、暖かい声音だった。
ああ、そうか。
あの光の先に行けば、イリに会える。
私は迷う事なく、仄かな光の方向へと向かって行くのだった。
■□■□■
「......どう? 助かりそう?」
そうと答えたのは、ルミだった。
野次馬を掻き分けてイリに脇にやって来たルミは、終始厳しい顔のままだったイリに、それとなく声を掛けてみせる。
「......」
イリは何も話さない。
ただただ、キイロを真剣な眼差しで見守り続けるだけだった。
ハッキリ言うのなら、この時点でキイロが助かる可能性は五分五分だった。
上位復活魔法は回復系魔法の最上位に位置する、極めて難易度の高い魔法である為、魔力の高い者であっても熟練度次第では失敗してしまう事もある。
成功すれば確実に蘇生し、そればかりか意識まで回復する。
死の狭間まで陥った生命力に大きな活力を与え、文字通り生命に息を吹き込む魔法でもあるのだ。
だが、失敗すれば......。
イリの口から一滴の血が流れる。
自分でも無意識に喰い縛っていた力が強くなり過ぎて、口の中を切ってしまった模様だ。
否応なしに力が入ってしまう。
その時だった。
「......っ!」
イリの表情が変わる。
「......ど、どうしたの?」
表情が変わったイリに、ルミもすぐに反応して声を出す。
果たして。
「生命力に息吹が宿った」
イリは呟いた。




