賞金稼ぎとドラゴンメイド(アカ・アオ)【5】
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「ああ、かったるかった......」
イリは目をミミズにし、不平の塊を言霊に変換して口から吐き出していた。
ルミ姫の謁見が終了し、王室から解放されたイリとオリオンは、同時に逃げる様に王家から出て来たルミと一緒にニイガの城下町を歩いていた。
正直、堅苦しい場所にいるだけで肩が凝って仕方がない。
オリオンに至っては、妙な貴族に口説かれて散々な目に逢った。
「出来れば二度と王家には行きたくないトコだな」
げんなりしていたイリの隣で、オリオンもまた疲れ切った顔になってぼやきを入れていた。
「そうでしょ? 私も王家のあの特有の空気が嫌いでねぇ......」
他方のルミもまた、二人に同感する形の言葉を吐き出していた。
ただ、二人とは違って子供の頃から王家の人間をしていた分だけ慣れがあったのだろう。
その顔には、まだある程度の余裕が伺える。
なんだかんだで、ルミは姫様だった模様だ。
「それにしても、良かったのか? 親父やお袋さんともう少し話しとかしたかったんじゃないのか?」
イリはルミへと軽く尋ねた。
別に悪意があっての事ではなく、純粋に里帰りした娘が家族と一緒にいる時間を、もう少し楽しみたかったんじゃないのか? と、思っての事だった。
ルミは軽く肩をすくめた。
「お父様やお母様ともう少しは一緒にいたいと言う気持ちがない訳ではないんだけど......王室の雰囲気が苦手で。どうしても早く帰りたかったんだよね」
言ったルミは苦笑しながら、イリへと口を動かして行った。
そんな時だった。
「......ん? あれはなんだ?」
裏路地の方に、妙な人だかりが出来ているのが分かった。
一体、何が起きていると言うのだろう?
「行ってみるか」
特に野次馬がしたかった訳ではないのだが、何となく気になったイリは、そこから裏路地の方に出来ている人だかりへと向かった。
果たして。
「......」
野次馬を掻き分けて行った先にあった光景に、イリは絶句した。
「どうしたのイリ? 何か珍しい物でも......」
少し遅れてからやって来たルミも、そこで息を飲む。
イリとルミの前にあった光景......それは、見るも無惨なキイロの姿だった。
■イリ■
「キイロッ!」
無意識に吠えた!
一体......何が起きたって言うんだっ!
私はすぐにキイロの前に駆け付けて、キイロを抱きかかえた。
酷い事しやがって!
全身血だらけになっていたキイロは、常人なら既に事切れていてもおかしくないまでに痛め付けられていた。
そのやり方も残酷極まる。
手や足の指を丁寧に一つずつ潰している。
顔は腫れ上がり、原型を止めていない。
右足は切断され、床には血溜まりが出来ていた。
「待ってろ、今すぐに助けてやる」
私はすぐさま、頭に魔導式を紡ぎ始めた。
上位復元魔法レベル60!
発動と同時に、キイロの身体が見る間に癒されて行く。
いや、癒すと言うよりも修復に近い。
ボロボロだった顔の傷が消え、潰された手足と、切断された右足を元通りに復元した。
しかし、癒されたのは傷だけで、キイロの生命力その物が全快しているわけではない。
傷は完全に無くなったが、意識が戻らないのはそのせいだ。
いや......違う。
呼吸が......止まる?
「まずいっ!」
血を流しすぎたか!
ただでさえ弱くなっていたキイロの生命力が、どんどん低下して行くのが分かる。
このままでは、命その物が無くなってしまう!
「死なせるかよ......」
キイロは......こいつは、やっと自由になったんだ。
今の今まで、下らない呪いのせいで貴族の下僕として散々なメに逢って来たんだっ!
その呪いが解けて、ようやくこれから自分らしい本来の人生ってヤツを......キイロがキイロである為の生き方ってヤツが出来る様になったばかりだったんだ!
「お前は、私が絶対に......死なせない!」
無意識に歯を喰い縛った。
同時に魔導式を紡ぎ出す。
呼吸停止状態から、この魔法で復活する可能性は凡そ50%と言った所か?
......くそ。
こんな事になるのなら、ちゃんと回復魔法をしっかり練習して置くんだった。
攻撃魔法ばかりを使っていた私は、逆に味方を助ける魔法を使う事が苦手だ。
回復を得意とする、熟練のヒーラーであったのなら100%の蘇生率だったろうが......私の場合だと、その半分程度にまで下がってしまう。
頼む......頼む!
死ぬなっ! キイロッ!
思いつつ、私は自分の持てる最高の魔法をキイロに発動させた。
上位復活魔法!




