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賞金稼ぎとドラゴンメイド(アカ・アオ)【4】

 何にせよ、私が向こうの行動力をかなり甘く見積もっていた事だけは露呈された。


「油断大敵って事か」


 私は気を引き締めて答えた。

 どうする?

 このまま行けば、間違いなくアカ姉とアオ姉の二人はルミ姫を拐うと言う一連の悪事に荷担するのだろう。


 反面、私だけで二人を止められると考えるのは愚行だ。

 ここでアカ姉やアオ姉の二人に顔を出すのは軽率な判断と言わざる得ない。


 むしろ、何とか二人に気配を悟られない様にして、イリ達と合流するのが上策と考えた。

 本日のイリは、ルミ姫の予定でニイガ王との謁見がある為、この警護をしないと行けない。


 そうなれば、当然しばらくは合流出来ないと言う事になる。

 ......くそ。


 私の中に、一抹の不安が生まれた。

 怖い......怖いよ、イリ。

 

 同時に、一縷いちるの希望も生まれる。

 現状を何とか逃げ切り、イリと合流する事に成功すれば、きっと助けて貰える。


 否、違う。


 きっとだ何て、曖昧な言葉はいらない。

 確実に助けてくれる!

 そう、絶対に!


 とにかく、今は逃げないと。


 思った私は、二人を見掛けた路地とは反対方向に歩いた。


「まさか、こんな形で再開するとは思わなかったよ? キイロ」 


 ......っ!

 声がした。

 ま、まさか......もう、気付いて?


 思わず愕然となる私がいる中、振り返った視線の先にいた二人の姉に、私の顔が蒼白になる。


 まずい!

 このままだと......捕まる!


 抵抗しようにもここは街中だ。

 不用意に魔法を使う事は出来ない。

 しかし、それは姉達二人も同じ条件だ。


 下手に周囲を巻き込む様な行動はして来ないだろう。


 そうなら、まだ私にも選択肢が残っているのではないだろうか?

 姉二人を説得すると言う選択肢を、だ。


「聞いて姉さん。実は、私達の呪いを解く凄い人がいたんだよ」


「......え?」


 私の言葉に驚きの声を出して来たのはアオ姉。

 アオ姉も私と同じく、現状の不条理な状況に精神を麻痺させていた存在だった。

 つまり、呪いさえ解ければ、今すぐにでもナガオから去りたいと考えているのだ。


 そうなれば、少なからず興味を持ってくれるし、上手く行けば味方になってくれるかも知れない。


 ......だが、それは向こうも十分承知しているのだろう。

 だからこそ、アオ姉だけではなくアカ姉も一緒に来ているのだ。


「呪い? ふふ......アルフレド様に忠誠を誓った背中の印を言っているの? 冗談はよして欲しいわ」


 アカ姉は、私達とは違った。

 アルフレドの一番のお気に入り......それがアカ姉だった。


 そして、アカ姉も......そんなアルフレドにいつの間にか、心を許してしまったのだ。

 

 最初は狂気の沙汰ではないと、アカ姉を憐れんだ。

 憐憫れんびんの二文字しか浮かばない私やアオ姉を余所に、アカ姉は彼のメイドとして生きる事に喜びを抱く様になって行くのだった。


「御託を言う為に、私はここに来ている訳ではないよ、キイロ? 情報は既に入っているんだ。向こうに寝返った......とね」


 アカ姉は妖艶な笑みで私を見据えた。

 そこには、もう......私が知っている誇り高い姉の姿はなかった。


「貴女は私の妹でもある。敵に寝返り、私達を裏切ったとしても、まだ貴女にはチャンスがあると言う事を教えてるの」


「チャンス?」


「そう、チャンス。ここで私達と一緒に今回の一件を手伝うと言うのなら、私がアルフレド様に取り入って、裏切りをなかった事にも出来る」


 もう一度、アルフレドの下僕になれと?

 

「断ったら、どうする気?」


「選択肢があると思う?」


 私の言葉に、アカ姉は妖艶な笑みのまま、口だけを動かして行く。

 

「これはアルフレド様の代弁でもあるのよ? この意味は分かるよね?」


 少し前の私にとって、アルフレドの言葉は絶対だった。

 故に、アカ姉の言いたい意味は嫌になる位、良く分かった。


 けれと、今は違う。

 呪いが完全に無くなった今、アルフレドに従う道理も義理もない。


「悪いね、アカ姉。言ってる意味が分からないな!」


 好戦的な微笑みを作って、私はアカ姉に言った。

 もう啖呵を切る様な勢いだった。


「そう......残念ね。キイロなら分かってくれると思っていたのに」


 答え、吐息混じりにアカ姉は人気の無い開けた裏路地を指差した。

 来いと言う事だろう。


 参ったな......これは、確実に逃げれそうにない。

 下手をしたら、命だって怪しい。


 ......くそぅ。


 やっと、私にも希望のある幸せのビジョンが見えて来たと言うのに。

 結局、私には見果てぬ夢に過ぎないと言うのだろうか?

 イリともっと、楽しい毎日を過ごしたかったなぁ......。

 

 心の中で呟きつつ、私はアカ姉とアオ姉の二人に誘導される形で、人気のない場所へと向かうのだった。

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