賞金稼ぎとドラゴンメイド(アカ・アオ)【3】
「す、すいません......」
イリは即座に謝って見せる。
言ってる事はごもっともなので、反論する事もしなかった。
他方のオリオンは顔で『ざまぁ!』なんぞと言っていた。
何て醜い争いをしているのだろうか?
そこから、イリは男を威嚇する感じの凄味を効かせて言った。
「テメェのせいで注意されたじゃねぇか」
完全な八つ当たりだった。
「何を言ってるんだ? 貴様が勝手に高笑いしただけだろう? 言い掛かりも良い所だ」
「そこは、私もそう思います」
オリオンも同意していた。
「だろう?......そんな下衆な女など放って、私と楽しもうじゃないか。後悔はさせないぞ?......ふふ」
オリオンの額にとうとう青筋が。
折角の美女も、これでは台無しである。
「面倒だ。おいイリ......ちょっと、こいつシメテ来るわ」
言ったオリオンの顔は、美女なのに野獣染みた顔になっていた。
美女と野獣ならぬ、美女で野獣だった。
数分後、ニイガ城のテラスに向かったオリオンと男がいた。
そして、謎の悲鳴が聞こえたらしいが、敢えてイリは気にしない事にした。
オリオンが何をしたのかは知らないが、
「あの貴族も馬鹿だな」
声を掛ける相手を確実に間違えた事だけは確実だったのだ。
その後、男はすごすごと二人の前からいなくなり、以後声を掛けて来る事は二度となかった。
本当に、オリオンは何をしたのだろうね。
■キイロ■
ニイガの城下町をルンルン気分で歩く私がいた。
こんなに気分が高揚したのはいつ振りだろう?
「きっと、イリが凄く喜んでくれる~♪」
イリが好きな食べ物はリサーチ済みだ。
ハンバーグステーキでしょ? シチューも好きらしい。
あ、パスタも好きらしい。
今日は腕によりを掛けて、美味しい食事を沢山作る予定だ。
その食材も沢山手に入った。
ニイガと言う街は、本当に便利だと思う。
新鮮な野菜からお肉、果物まで何でもある。
香辛料も多彩で豊富だった。
流石は中央大陸第二の都市!
都会って、本当に便利だな。
これでもドラゴン・メイドなんて呼ばれていた私だ。
食事関連は勿論、身の回りの仕事も色々とこなせる。
まさか、あの時代の私がやって来た事が、こんな所で役に立つ時がやって来ようとは!
伝承の道化師に拉致されて、強制的にやらされた仕事の数々ではあるが、花嫁修行としては最高の荒行とも言えた。
まぁ、荒行と表現するのも生易しい気もするけど......しかし、それらの苦痛を乗り越えた先に、炊事・洗濯・掃除なんでもござれの私がいるのだから、これはこれで良かったのかも知れない。
雨降って地固まるとは、良く言った物だ。
人間、頑張って辛抱し続ければ、いつかは自分でも予想だにしない様な幸運に見舞われる時が来るのだろう。
あ......でも、私は半分ドラゴンだった。
いや、それは些末な事だ。
今の幸せが大切なのだ。
私が人間であろうと、ドラゴンであろうと、そんな事は実に些細な出来事に過ぎないのだ。
ドラゴンと言ってるが、半分は人間だしね。
イリと添い遂げて、いつか玉の様に可愛い子供達と一緒に暮らせる日々だって、決して夢物語ではない。
「はぅ......」
おっと、妄想......もとい、未来を少し見すぎた。
気付くと自分でも無意識に恍惚の笑みを作りつつ、悩ましげな吐息まで出していた。
これでは、ただの変人だった。
街中にいるのだから、こんなおかしな顔をしていたら、確実に変人の目で見られてしまうだろう。
それはちょっと勘弁だ。
私は緩み切った顔に渇を入れ、キリッと慄然とした顔になって街を歩いた。
......これはこれで、少しやり過ぎたかな。
もっと、普通の顔になるべきだな......などと思っていた時だ。
「......え?」
私の顔が強張った。
予想はしていたけど......それにしても早かった。
......そう。
予測はしていた。
この街にやって来る事は、火を見るよりも明らかだった。
「まさか、アカ姉とアオ姉の二人が、こんなに早くニイガにやって来るなんて」
来る事はわかっていた。
その目的も分かっている。
つい昨日までの私がそうであったからだ。
ポイントは、昨日の今日で既に二人がニイガにやって来ていると言う所にある。
ナガオとニイガは、距離的にはそこまで遠くないので、朝にナガオを出れば昼前にはニイガに到着する。
ニイガとナガオは線路で結ばれているので、馬車の何倍もの早さで移動する事が可能なのだ。
問題は次だ。
昨日の今日......正確に言うのなら、昨晩の一件でイリに呪いを解いて貰った事で自由を手にした私がいた事実を、既に知っていると言う事にある。
幾らなんでも早すぎるのではないか?




