賞金稼ぎとドラゴンメイド(アカ・アオ)【2】
そんな、世界の七不思議にも匹敵するオリオンが、姫様の護衛としてイリと二人でルミ姫の近くの席に座っていた時だった。
「中々に麗しいお嬢さんだ。どちらの名家の令嬢で?」
宮廷騎士の一人なのだろう男が、オリオンへと穏和な声音で声を掛けて来た。
オリオンの口元が少しだけ引き釣った。
普段から男ばかりしているオリオンだけに、彼の台詞は虫酸が走るまでに大概な言葉だった。
普段なら、ちゃんと顔を見てから物を言えと叫ぶ所ではあるが、今の彼......もとい、彼女は麗しい絶世の美女と呼称しても、誰も何も言わない。
まして、今いる場所はニイガ王家の王室である。
庶民など永久に入る事が出来ない様な場所なのだ。
そこを考慮するのなら、今のオリオンは有力貴族の令嬢か何かと勘違いされても、全くおかしくはない。
むしろ、そっちの方が自然である位だった。
「私は民間の組合から派遣されている、ルミ姫様の護衛です。名家の令嬢など甚だしい存在でございます」
オリオンはひたすら不快な衝動を必死で隠しつつ、なんとか作り笑顔を作りながら返答していた。
隣の席にいたイリが、やたら楽しそうにニヤニヤしていた。
思いっきり殴ってやりたい気持ちで爆発しそうになっていた。
「民間?......すると貴女は、噂に聞く賞金稼ぎ組合からやって来たと言うルミ姫のガードマンと言うのか? これは驚いた」
騎士と思われる男は、顔でも驚いたと言うばかりの態度を取ってみせた。
ただ、これで理解はして貰えたであろう。
「はい。なので、本来であるのなら、この様な高貴な場に列席する筈のない身分の者なのです」
純粋な作り笑いを愛想良く作ったオリオンは、どうにか厄介払いが出来たと胸中でのみ安堵の息を吐いていた。
「噂に聞くガードマンが、かくも麗しい女性であったとは......いやはや、世の中は分からない。どうです? ルミ様の護衛が終わった後にお茶でも......?」
しかし、胸中で吐いた息は一瞬で飲み干されてしまう羽目になる。
イリは腹を抱えていた。
凄まじく楽しそうだ。
幼馴染みにここまでの殺意を抱いたのは、これが初めてかも知れないなどと、この時のオリオンは思った。
「あ、いえ......護衛が終わった後は、隣の相棒と一緒に街の方へ散策する予定でしたので」
「うがっ!」
イリが変な声を出した。
まさか、このタイミングでオリオンが自分に話題を振って来るとは思わなかったのである。
「そうでしたか......なら、相方の貴女も一緒にどうです? きっと楽しい一時になると思いますよ」
朗らかな顔をして言う男。
イリは厳めしい顔になって答えた。
「それは、お前だけだろう? 私は、コイツと違って器用な態度とか取れないからな? 連れていくならコイツだけにしてくれないか?」
憮然とした態度で、わざわざ下品な言葉を口にするイリがいた。
男は少し戸惑いの色を見せた。
きっと、内心では思っているのだろう。
口の利き方も知らない、下賤の輩が。
......と。
「そ、そうですな。友人の貴女とは後日にでも散策して頂くとして、どうでしょう? 今日だけでも」
「......はぁ」
オリオンは誰にでも分かる勢いで、嫌悪の塊染みた吐息を大仰に吐き出してみせた。
仕事の為とは言え、一人だけ猫を被るのが馬鹿らしくなっていた模様だ。
「悪いな兄ちゃん、私はアンタの様な貴族っぽい男が大嫌いなんだ」
「......なっ!」
男はおもむろに愕然となる。
オリオンまで下衆な言葉を口にして来るとは、夢にも思っていなかったらしい。
「......ふん、所詮は庶民か」
一気に態度を変え、邪険な目で二人を見た。
そんな男を見て、オリオンは思った。
最初からこうすれば良かったと。
「はい、庶民です。それではごきげんよう」
最後に皮肉混じりに笑みを作ったオリオン。
もう相手にされないと思っての行為だったが、何事も最後まで気を抜かない事が肝心なのだ。
「ふん、ならば庶民。ニイガ国で一級の騎士にして伯爵家の長男である私の誘いを断るとは言語道断。場合によってはこのニイガで生活出来なくなるぞ?」
男はニィ......と笑って答えた。
今度は脅して来た。
身分の差があるのを良い事に、貴族に逆らう愚民と言う構図を取って来た。
オリオンは辟易する顔になった。
「あっひゃひゃっ!」
イリは大声で笑った。
もう猫を被る気もなかったらしい。
しかし、王室で大声で笑うのは、流石にやりすぎた。
「イリ殿......ルミ様の護衛とは言え、王の前でその様な態度は許される事ではない。少し静かにして頂きたい」
側近の如何にも礼節を重んじる様な人物に注意された。




