賞金稼ぎとドラゴンメイド(アカ・アオ)【1】
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「キイロは寝返った見たいですねぇ......ククク」
そうと答えていたのは伝承の道化師。
ニイガ第二の都市ナガオに居を構えるアルフレドの部屋にやって来た彼は、キイロがルミ姫を拐う計画に失敗した事をアルフレドに報告していた。
正確に言うのなら、失敗どころの話ではない。
「寝返った......とは、少し驚きましたよ」
答えたアルフレドの心中は穏やかではない。
最強クラスの手駒が、今度は逆に敵として自分に襲い掛かって来ると報告されたのだ。
「仕方ないですよ。彼女はかつての自分に誇りを持っておりましたから。ドラゴンとしての自分と言うものをねぇ」
「......そうでしたね」
含み笑いにも似た笑みのまま言う伝承の道化師を前に、アルフレドは肩を落としながら力なく呟いた。
「まぁまぁ、まだ一匹のドラゴンがこっちに牙を向いたと言うだけではありませんか」
気落ちした彼に、伝承の道化師は平然と答える。
取るに足らない、些末な事と言うばかりだ。
「まだ、こちらには二枚のワイルドカードがある。依然としてこちらに分があると、私は思うんですがねぇ......ククク」
「そうでしたね」
伝承の道化師の言葉にアルフレドは相づちを打つ。
そうなのだ。
アルフレドの手中には、まだ二人のドラゴン・メイドがいる。
キイロの姉に当たる、アカとアオの二人が。
「今度は二人を、今回の計画に向かわせてはどうでしょう?」
「二人を? 同時に?」
アルフレドはやや眉を寄せた。
彼からすれば、それは大胆な発想でもある。
何と言っても、自分が持つワイルドカードの二枚全てを一気に放出する事になってしまうからだ。
「大丈夫ですよ、アルフレドさん。貴方には私がいるのです。この意味はお分かりですよね?」
「......そうですね」
伝承の道化師の言葉にアルフレドは歯切れの悪い口調ではあるが、直ぐに頷いて見る。
実際、この言葉に間違いはないのだろう。
ドラゴン・メイドの二人も、伝承の道化師からすれば、塵芥程度の存在でしかない。
......故に、アルフレドは考えてしまう。
自分は大きな過ちを犯しているのではないのだろうか?
余りにも大きすぎる力に対し、自分は魂を売り渡してしまったのではいか?
反面......もう後戻りなど出来ないと考える自分もいた。
伝承の道化師に踊らされていると、内心では薄々気付いてはいても、それを制御する事など不可能でもあった。
なら、このまま踊ってみせよう。
刹那的な欲望に忠実な自分を最後まで貫いてやろうじゃないか。
......思い、アルフレドは間もなく自室にアカとアオの二人を呼ぶ選択を選んで行くのだった。
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「......はぁ」
重々しい声音で、同じ位の重さのある吐息を口から吐き出すイリがいた。
ニイガ王国の王室での事だ。
本日のルミ姫の予定は父であるニイガ王と、母親であるニイガ王妃の二人との謁見。
謁見などと述べると、如何にも格調高い代物に見えるかも知れないが、実際は違う。
もっと平たく砕けた表現をするのなら、故郷のニイガに娘が帰って来たので父母の二人が会いに来た訳となる。
これが普通の家庭であるのなら、ここまで厳かな物になどならないのだろうが、流石に王室ともなれば相応な格式を元に行われないといけない。
普段から格式と伝統などと言う単語からちょうど対極に位置するイリからするのなら、それは息の詰まる面倒な儀式以外の何物でもなかった。
「なんで私はこんな所にいるんだろうな」
イリは無気力な顔で、隣にいるオリオンへと不貞腐れた声音を吐き出していた。
「それを聞く? 答えは感嘆でしょう? 仕事しに来た訳で」
イリの言葉に、隣にいたオリオンは平然と道理を口にしていた。
余談だが、本日の二人は互いに女になっていた。
ニイガ王がいる手前、男のボディーガードでいるよりも女であった方が、何かと都合がよい。
......と言うか、変な誤解を受けないで済む。
思い、二人は女性の姿でルミ姫の護衛役としてニイガ王室内にある謁見の間にやって来ていた。
女性の姿になっていたオリオンは、完全なる別人になっていた。
二メートル近い長身だった大男の時よりは多少背が低くなってはいるが、それでも十分な長身と言える。
何と言っても、抜群のスタイルを誇示していた。
まるでモデルの様な長身に加え、スラリと延びる足にメリハリのあるウエスト、ヒップ。
そして何より、ボリュームのある豊満な胸。
これで顔も端正で美しいと言うのだから、文句の付けようがない。
イリの視点からするのなら、あのゴリラみたいな大男と、眼前にいるモデル体型の超絶美人とをイコールで結ぶ事なんか出来ない。
しかし、実際はイコール線で結べてしまえると言う現実があった。
どうやら.....世の中には、まだまだ不思議が眠っている模様だ。




