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賞金稼ぎとドラゴンメイド(キイロ)【18】

「じゃあ、ルミ姫とは、何もないのね?」


 かなり真剣な顔をして言うキイロがいた。

 どうしてお前にそんな事を言われないといけないんだと、少し腑に落ちない気持ちになったイリだが、実際にルミとどうこうあったと勘違いされても困る。

 イリはまだ、ニイガ王の怒りを買いたくはないのだ。


「当たり前だろう? 相手は姫様だぞ? 間違いなんか起きた日には処刑されかねんっ!」


「ごもっとも」


 キイロは完全に納得した。

 もう、確実に嘘はない。


 理屈の上でも全部合っている。

 そう考えれば、もう答えは出ているのだろう。


 イリは誰とも付き合ってない!


「良いねぇ......良いよ、それ。私の幸せが見えて来たよぅ......」


 キイロは含み笑いで、ぶつぶつと呟いていた。

 ハッキリ言って異様だった。


「......で、お前は何しに来たんだよ」


 そもそも、呪いが原因で今までナガオのお坊っちゃんに強制労働を強いられていたのだから、もう故郷に帰っても良いんじゃないのだろうか?

 そうと思うイリ。

 

 しかし、彼女は自国に戻ると言う選択肢を得たにも関わらず、何故かイリのあばら家になんぞやって来ているのだから、つくづく謎なドラゴンである。


「だって、私......帰る所がないし」


「帰国しろ」


「路銀もないし」


「幾らだ? 帰国可能な額位なら、俺が出してやる」


「う~っ!」


 キイロは涙目になる。


「どうして、そう意地悪するのっ! 私はここにいる理由を必死で考えてたのにぃっ!」


「てか、押し掛ける気だったのかよっ!」


 イリは思いきり驚いた。


「そうよっ!」


 そして、全く隠す気もなかったのだろうキイロが、胸まで張って言い切った。


「バカなの? ねぇ、バカなのっ!」


「バカで結構っ! 貴方も相当のバカだし、お似合いのカップルだと思うしねっ!」


「えええええっっ!」


 カップルの単語をキイロから耳にした瞬間、ルミがおもむろに叫んだ。


「今度は後ろからかよっ!」


 朝から騒がしいばかりだと、イリは心の底から嘆いた。


「カ、カップルってあれでしょ? 恋人同士って意味な訳で......え? ええええっ!」


「やかましいっ! 大体だな? このドラゴン女は、お前を昨日まで狙ってたんだぞ?」


「......え?」


 イリの言葉にルミはポカンとなる。

 キイロは少し気まずい顔になった。


「ごめんなさい。それは本当の事です」


「そうなんだ。知らなかったよ~」


「......えと?」


 あっけらかんと笑うルミに、キイロはむしろ困惑した。

 イリが呆れ眼で答えた。


「姫様とは、そう言う人種だ。小さい事にはこだわらない人種なんだ」


「そ、そう......」


 場合によっては奴隷にしようとしていた犯人を前に、全く動じないと言うか、呑気に笑うルミに懐の深さを覚えた。


 だが、実際は違う。

 確かにルミは、罪を憎んで人を憎まない性質を持っている。

 それだけに、許容の大きさは人一倍ではある。


 だが、現時点で言うのならその限りではない。


「キイロさんが私を狙ってたのは細やかな事だよ。私にはイリがいるからね」


 ルミはさも当然とばかりに言う。

 この言葉にキイロはズキリと心を痛めた。


 当たり前の様に言う彼女の台詞『私にはイリがいる』は、キイロにとって大きな重しになっていた。


「だけど、イリがキイロさんに色目を使ったのは気に食わないっ!」


「どうしてそうなるんだよっ!」


「こうなってるからでしょうがっ!」


 イリの叫びに、ルミはキイロをビシッ! と指して見せた。

 簡素に言うのなら、確実に何かあった。

 そして、現在がある。


 キイロが自宅を訪ねて来ると言う今が。


 果たして。


「さぁ......て、イリ? ルミ姫様に、どんな事をしたのか聞いても良いかな?」


「イリ? キイロさんに何をしたのか、ひと欠片の嘘偽りなく、全部吐露して頂きましょうかっ!」


 何故か二人の乙女に言い寄られるイリがいた。

 

「......」


 イリは無言になる。

 否、絶句と述べても良い。


 そして、思う。


 神様......僕は、何か悪い事をしましたか?


「どうやら、お仕置きが必要な様ですねぇ......」


「同感です、ルミ姫」


 明らかに違う、異次元の波動をバックに背負う二人がいた。


「ま、まて......た、多分、話せば分かる! 分かる筈だっ!」


「問答無用! くたばれ、乙女の宿敵っ!」


「ルミ姫様の言う通りっ! 死ねっ! 女の仇敵っ!」


 ドカバキグシャッッ!


 その後、イリは午前中まで意識が戻らなかったらしいが、余談である。


 ちーん!      








                                次回に続く


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