賞金稼ぎとドラゴンメイド(キイロ)【17】
「ありがとう......」
素直にお礼の言葉を口にした。
きっと、単純な事なのかも知れない。
眼前にいた彼は、私に見返りなど欠片も求めてはいなかった。
故に、彼は笑って私に言うのだ。
「良く出来ました」
そして、笑みのまま優しく私の頭を撫でて来た。
恥ずかしい......。
きっと、私の顔は誰が見ても分かるまでに真っ赤であるのだろう。
自分でも分かる。
そもそも、今日知ったばかりの女だと言うのに、笑顔で頭を撫でたりするのか?
図々しい男もいた物だと、腹立たしい気持ちもある。
しかし、それ以上に......気持ちが良かった。
彼の温もりが、心地好かった。
暖かい羽毛に優しく抱きしめられる様な?
そんな、心が休まる安息の場所に、今の私はいた。
ああ、そうか。
この時、私は悟った。
これが......幸せと言うヤツだったんだな。
枯渇していた私の心が、豊潤な優しさと言う名の水を得て、潤いを取り戻して行くのが自分でも良く分かった。
だからだろう。
「......あ」
しばらくして、彼は私の頭から手を離した後、踵を返して立ち去ろうとした時、否応なしのわびしさで一杯になった。
「また、どっかで会おうぜ? 可愛いドラゴン・ハーフちゃん」
「ま、待って!」
「......ん? 何か別の用事があったか?」
......。
なかった!
「せめて、名前だけでも」
「あれ? 名乗ってなかったか? まぁ、いいや」
彼は言い、特有なのだろう冗談めいた笑みを作ってから言った。
「俺の名前はイリ・ジウム。ケチな賞金稼ぎさ」
答え、彼は私の前からゆっくりと立ち去って言った。
イリさん......か。
「本当に、本当にありがとう! イリさんっ!」
私はもう一度、イリさんの名前をちゃんと呼んだ状態で、ありがとうを口にしたのだった。
■□■□■
翌日。
「やれやれ......仕事とは言え、ドラゴン・ハーフとバトルとか洒落になってねぇ」
目を冷まし、ぼやきながらソファからのそのそと起き上がるイリの姿があった。
彼が元来寝る場所は、もはや部屋の主にでもなったかの様に、ニイガの姫様が占領している。
「くそ......いつまで、こんな日が続くんだよ」
自宅だと言うのに、自分のベットで寝る事が出来ないと言う、なんとも理不尽な状況に苦い顔をするイリがいた所で、
「ふぁ......ふぅ」
悠長な欠伸をかますお姫様が、重そうな瞼を開けて見せる。
「おはよ~。昨日は居なかったけど、何かあった?」
「ああ、ちょっと野暮用でな......まぁ、姫さんが心配する様な事じゃねぇさ」
「......そう」
言ったルミは、朝も早くからご機嫌斜めだ。
「いつも言ってるけどさ? 私は王族扱いされるのが嫌いなの」
「へいへい......そうでしたね、お姫様」
「ぶぅぅぅぅぅっ!」
ルミのホッペが可愛く膨れた。
コンコンコンッ!
その時、自宅の玄関ドアがノックされた。
「誰だよ? こんな朝早くから」
近所迷惑なヤツだなと、胸中で毒吐きながらもドアを開けた。
「お、お早うっ!」
「......」
想定外過ぎて、無言になるイリがいた。
ドアを開けた先にいたのは、昨日のドラゴン・ハーフ。
「え? キイロさん? お早うっ! 良くここが分かったね!」
他方のルミは特にそこまで驚く事もなく、ドアの向こうにいたドラゴン・ハーフ......キイロに笑顔で声をかけた。
きっと、このドラゴン・ハーフが自分を狙っていた事など、微塵も理解してないだろう顔だった。
なんてお目出度い姫様だろうと、イリは心の中でのみ呟いて見せた。
「実は色々ありまして」
ルミの言葉に、キイロはやんわり微笑みながら返事して見せた。
直後、イリを見据えた。
激しい殺意の波動を、全身で放っていた。
「俺が何したって言うんだよ」
「昨日、私に言ってた事は嘘だったの?」
「嘘? 嘘なんか吐いていないぞ?」
「なら、どうしてルミ姫と一緒に一夜を明かせるの?」
キイロは凄い勢いで睨みながら、厳めしい声音をイリに放って見せる。
「仕事だから?」
「......ああ、なるほど」
しかし、この一言で納得してしまうキイロがいた。
そうなのだ。
今のイリはルミを守るボディーガードなのだ。
当然、相応の形を取る必要がある。
しかし、そこを差し引いても、自宅にまでわざわざ連れ込む必要はない気もしたが......思えば、ここにも理由があった。
その辺の事情も、実は調べが付いている。
理由は簡単だ。
少し前まではキイロは敵であり、ルミの身辺を色々と調べていた方の立場だったのだから。




