プロローグ【4】
「そうだな。金が欲しいからこんな商売をしてるんだ」
太った男に、イリは悪びた風もなく答えた。
「そうか! そうだろう! じゃあ、商談だ! この場を見逃してくれる見返りに……そうだな? 一億でどうだ? 一億だぞ! それだけあれば………」
太った男の言葉はそこで止まった。
理由は簡素な物だ。
それが、彼にとっていまわの台詞になったからだ。
イリの右手がヒュッ……と、風を切る様に動いた。
次の瞬間、首が飛んだ。
まるでボールの様に吹き飛ぶと、列車の天井に当たって床に転がる。
「悪いな……俺は金が欲しいと言ったが、人間様の金が欲しいんだ。ブタの金なんざクソ喰らえなんだよ……」
イリは右手を血塗れにして答える。
手刀で首を跳ねたイリは、真っ赤に染まった右手を軽く見据えて冷淡に笑って呟く。
「汚ねぇのは金だけにしとけよブタ野郎……手が汚れちまったじゃねぇか」
毒を吐き出しつつ、イリは転がっている男の首を右手で掴みながら、オリオンに声を掛けて行くのだった。
この世界には、悪党の首に多額の報酬金を掛ける制度が常識として存在している。
そして、その賞金を主な生活の糧とする、プロの賞金稼ぎもまた、当たり前の様に存在していた。
先程、軽く述べてはいるのだが、冒険者協会の加盟組合として存在する賞金稼ぎ組合がある程だ。
今回の『こうして私は無双する』は、賞金稼ぎのイリが主人公となる。
ここで、これまでの主人公は二人共に女性であった事と、タイトルが『私』であった二点について軽く駄文を綴って、序章を締め括ろう。
簡素に言うのであれば、現在のイリは男だ。
間違いなく純然たる男性なのだが、彼は特殊な種族の生き残りでもあった。
遠く西方の大陸でひっそりと暮らしていた、人間と魔族の混合種。
それがイリであり、幼馴染みでもあるオリオンでもある。
彼ら二人がどんな経緯から、現在のニイガへとやって来たのかは……機会がある時に語るとして、二人の外見は完全なる人間でありながら、普通の人間には確実にない要素が存在している。
その一つが『性別の概念がない』と言う事だ。
正確に言うのなら、自分の意思で性別を変える事が出来る能力があると言う事だ。
生まれながらに持っていたスキルの様な物で、今ではこの特殊能力を賞金稼ぎの仕事に使っている。
地味に重宝するから、なんとも皮肉だ。
元々、このおかしな特殊能力のせいで、彼ら二人の半生はロクな目に遭わなかった。
人間であり、人間ではない。
魔族であり、魔族ではない。
この矛盾した中途半端な身体が原因で、どっち付かずな生活を強いられる羽目になるからだ。
しかし、今ではたくましく成長して、互いに腕利きの賞金稼ぎとして立派に生活している。
闇に生きる者を食い物にする、もう一つの闇として。
そんな、ストイックでダークなファンタジーになりそうで、実はそうならない、コメディタッチのダークファンタジー。
コーヒーでも飲みながら、軽く読んで頂けたら幸い。
それでは!
こうして私は無双するの、イリVerのスタートである。